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日本人人質事件を巡るイラン人女性のメッセージ

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最近、イスラム国を自称するテロ組織ISISにより、人質とされた2人の日本人・後藤健二さんと、湯川遥菜さんが殺害されたことは、全世界でISISに対する強い非難を招きました。ISISによるこのような行動は、人種、国境、そして宗教の違いにかかわりなく、人道に反する許しがたい暴挙であり、断固たる態度をとるべきだとする声が上がっています。ISISは、イスラムという名目を利用して、凶悪無残な犯罪に手を染めています。しかし、イスラムは本来、平和共存、兄弟愛、友好を推進する宗教であり、罪のない人々を殺める行為を決して認めていません。そうした中で最近、フリージャーナリストの後藤健二さんのお母様である石堂順子さんに、1人のイスラム教徒として文書を送り、同じ母親としての切実な思いを伝えたイラン人女性がいます。この女性は、アーテフェ・タルガーニーさんで、このほどこの女性に直接お話を伺うことができました。今回はこのイラン人女性へのインタビューを交えながら、今回の事件をめぐるイスラム教徒のメッセージをお届けしてまいります。

それではまず、アーテフェ・タルガーニーさんについて、簡単にご紹介したいと思います。タルガーニーさんは、1973年5月22日のお生まれで、現在18歳になる息子さんをお持ちです。彼女はこの10年近くにわたり、イランに滞在するアフガニスタン難民の子どもたちの教育に携わってきました。2012年には、こうした体験などをまとめ、『2003年10月の平和』という回想録を出版しました。


その彼女は当初から、シリアやイラクの情勢に関する報道よりも、今回の人質事件のニュースに注目してきたと語っています。それでは、ここからはタルガーニーさんのインタビューを交えながら進めていくことにいたしましょう。

ーテロ組織、ISISが、映像を流して日本政府を脅迫し、日本人の人質の釈放に2億ドルの身代金を要求したというニュースをお聞きになって、まずどのように感じましたか?
「本当にそれはもう、体中が震え、緊張感が走り、1人の人間としてやるせない思いを感じました。日本政府がISIS側と果たして合意に至るのかどうか、全く検討がつきませんでした。ISISがこれまでにも約束事など全く守っていないことから、日本政府がISIS側の求める身代金を支払うのか、或いは何らかの方法で相手側と合意に至り、人質の解放に成功するのかどうか、予測が出来ませんでした。私は、ISISが約束を守るかについては確信が持てませんでした。また、日本人の男性と聞いて、2003年にバムで発生した地震の際に被災地へ赴いた際、被災地で知り合った京都出身のある日本人男性が脳裏に浮かびました。彼はその時、たまたまイランに旅行に来ていて、イランから別の国に行く予定を取りやめ、バムで救出活動に当たってくれたのです。こうしたことから、日本人には非常によいイメージを持っていた為、今度は日本人が人質にとられたというニュースを聞き、大変なショックを受けました。あの当時は決してよい日々ではなく、私は陰鬱な思いに沈んでおり、人質となった2人の日本人の方々の運命がどうなるのかを非常に懸念しておりました」

2人の日本人がISISに拘束、殺害されたというニュースは全世界で反響を呼び、世界各地のイスラム教徒はもとより、日本国内のイスラム教徒からもISISを非難し、後藤健二さんの無事を祈ろうという動きが広まりました。しかし、人々の願いもむなしく、後藤健二さんは非業の死を遂げることになります。この時に、後藤健二さんのお母様である石堂順子さんがマイクに向かい声明文を読み上げる姿は、人々の同情と涙、悲しみをさそいました。これに対し、タルガーニーさんは国境や宗教は違えど同じ母親として、また1人の人間としての自分の素直な気持ちを伝えようと、石堂順子さんにお手紙を送ります。ここで私は、タルガーニーさんに次のような質問をしてみました。

ー石堂順子さんに、直接お手紙をお書きになりたいと思われたのは、何がきっかけだったのでしょうか?
「先ず、ここで述べておきたいことは、ご自分の息子さんの命を救おうとする、石堂順子さんの努力はまさに称賛に値するということです。日本のメディアも、後藤健二さんの解放のためにご家族の方が尽力しておられることについて、非常に正確に報道していました。私自身も、イランのニュース専門局に勤務しているという職業柄、後藤さんに関するニュースに特に注目しておりました。ですが、私が石堂順子さんに直接、お手紙を書かせていただこうと思ったきっかけは、職業上の理由ではなく、あくまでも後藤さんのお母様に心を寄せ、同情し、彼女の心の痛みを分かち合いたいという一心からでした。私は、日本から遠く離れたイスラム教国のイランにも、彼女の気持ちを汲み取っている私のような母親が沢山存在する、ということを、彼女にお分かりいただきたかったのです。私どもは、後藤さんのお母様の悲しみを我がことのように感じ、後藤さんの解放を心から祈っておりました」

テロ組織ISISは、今なお人道に反する犯罪行為を繰り返しています。しかし、イスラムではそうした行為は決して許されておらず、敵方の捕虜や違う宗教の人々をも丁重に扱うことが強調されています。イランに長年暮らし、日本人としてイスラムの現実を目の当たりにしてきた私にとって、そうしたイスラムの教えとは逆行するISISの行動は憤りを感じさせるものでした。それと同時に私は、彼らがイスラムをどのように解釈した上で、そのような犯罪に手を染めているのかという疑問を感じるようになりました。これについて、タルガーニーさんは次のように語っています。

ーイスラムは本来、平和と友好を目指す宗教であり、他者との共存や人間として正しく生きる道をベースにしているはずですが、そのイスラムを名目にテロ組織ISISがあのような行動に出たことは非常に信じがたいことです。ISISは、イスラムの何を曲解して、今回の行動に出たと思われますでしょうか?
「イスラムは、一連の法体系であり、イスラムの教えを信じる人はそこに定められている掟を守る義務があります。自分はイスラム教徒であると主張しておきながら、イスラムが定める掟や法律を守らない人は、実際にはイスラム教徒ではなく、うそをつく人だということになります。イスラムは、人は皆兄弟であるとし、友愛の精神を説く宗教です。イランでは、『偽りを述べる人は、神の敵である』という諺も存在します。テロ組織ISISは、自分たちがイスラム系の組織であると偽っています。つまり、『自分たちはイラクとシャームのイスラム国である』という彼らの発言は、大きな偽りなのです。あのテロ組織が、一種の自治共和国、自分王国のようなものを結成したことは確かですが、それはイスラムとは全く関係がありません。なぜなら、彼らはイスラムの掟や決まりごとを完全に無視し、イスラム組織だと大胆に偽っているからです。ですから、彼らはイスラムの教えを曲解しているというよりも、意図的にイスラムのイメージを壊そうと目論む悪魔の分派といった方が相応しいでしょう。だからこそ、彼らは自分たちの犯罪行為をイスラムと結び付けようとしています。しかし、イスラムでは特に人間をあやめる行為は大罪です。防衛手段を持たず、罪のない人々の殺害に手を染める人は、イスラム教徒ではありません。彼らは、自らをイスラム教徒と自称し、ほかの宗教の人々の面前で、イスラムのイメージを歪曲しようとしているだけなのです」

また、こうした事件により日本人の皆様をはじめとするイスラム圏外の人々の間に、「イスラムは残忍な宗教である」という先入観がさらに定着してしまうことが懸念されます。しかし、タルガーニーさんはこのようなときこそ、真のイスラムを国際社会にアピールしたいと語っています。そこで今回の事件を踏まえ、特に日本人の方々に伝えたいことについてお聞きしてみました。

ー最近は、インターネットの普及により、日本でも以前よりはイスラムに関する情報も広がっていますが、それでも日本ではまだまだイスラムの真の姿がよく理解されていないといわれています。そうした中で、このような事件が起きてしまったわけですが、イスラム教徒として日本人の皆さんに一番伝えたいことはどのようなことでしょうか?

イスラムの基本は、全世界の人々は皆兄弟であるという考え方です。また、他人の権利を守った上で、この世に存在する全ての恩恵にあずかることがイスラムの原則です。又、イスラムでは女性が特に注目されており、女性のための教示がなされています。しかし、それは女性がこれを守ることで多くの問題から守られ、より幸福な人生を送る為のものなのです。又、イスラムは中道な宗教であり、過激や極端という概念は意味をなしません。さらに、より幸福な人生を送る為に男性と女性に対する権利と義務が定められています。イスラムでは、女性にも教育を受け就労する許可が与えられています。イスラムで人類に対し、ある事柄について制限が設けられているのは、人間に対する弊害を少なくする為なのです。たとえば、女性に体を覆うヘジャーブの着用が義務付けられているのは、表面的な美しさを隠すことで、女性の内面に秘められた美しさを表に出すように促すためであり、女性が性的な存在としてでなく、一人の人間として社会でその能力を発揮することが目的です。しかしながら、ご存知のとおりテロ組織ISISが、残念ながらイスラムを前に出してこうした大きな虚言を発したために、イスラムへの十分な理解がない国々で、イスラムの印象が歪められてしまっているのです。日本の皆様には、本当のイスラムが決して特殊なものではなく、時代を越えて全世界に通用する全人的な教えであるということをご理解いただけますよう、切に願ってやみません」

タレガーニーさんのお話は、一言一言が心に染みるものであり、倫理や常識の面からも説得性のある内容だと感じました。そして、イスラム圏にこのような素晴らしい女性が存在するということを、世界の1人でも多くの方々に知っていただきたいと思うようになりました。これまでにも、社会で素晴らしい活動をしてこられたタルガーニーさんの、益々のご活躍を期待したいと思い、最後にこれからの活動の展望についてお伺いしました。

ー今後は、どのようなご活動をされる予定でしょうか?
活動と申し上げるよりも、私自身の気持ちとして、石堂順子さんにイラン製のバラの香水を贈呈したいと考えております。バラの中でも、ダマスカスローズという種類のバラから取れる抽出液なのですが、この種のバラはイランの国の花でもあります。さらに、イスラムの預言者ムハンマドもバラの香水を愛用していたという言い伝えから、イランではムハンマドのバラとも呼ばれ、宗教的な花として知られています。私は、全イラン国民の気持ちとして、このバラ水を石堂順子さんに贈呈したいと考えました。そこで、日本の安倍首相に宛てて一筆したため、後藤健二さんのプライバシーを守った上で、石堂順子さんにこの贈り物をお届けできる方法をご教示くださるよう依頼しました。どうか、イスラム教徒であるイラン国民が友愛のメッセージを日本国民の皆様にお伝えできるよう、日本政府の方々からもお力添えをいただけますよう願っております」

このたび、タルガーニーさんにお会いして色々なお話を伺ったことで、人種や国籍、宗教の違いを超えた、タルガーニーさんの人道的、博愛主義的な心持が感じられました。実際にお会いしたタルガーニーさんは、本当に温かく優しさに溢れるお人柄で、石堂順子さんに対する1人の人間としての素直な気持ちを伝えたいと願っておられました。国際化、地球村という概念が叫ばれる現在、一切の差別なく1人1人の命や財産を大切にし、地球全体の平和と全人類の幸せを願うことこそ、イスラムの本当の目的であることを、この場をお借りして是非皆様にお伝えしたいと思います。
それでは最後に、人命を救うことの大切さを訴えているコーランの一節をご紹介することにいたしましょう。コーラン第5章、アル・マーイダ章「食卓」第32節には、次のように述べられています。

“他人を殺めたり、地上で悪を働いたという理由もなく人を殺す者は、全人類を殺したも同然である。人の生命を救う者は、全人類の生命を救ったものと見なされる”

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