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イランにおける日本語教育と今後の展望・課題(2)

 

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テヘラン便り; イランにおける日本語教育事情(2)

日本語教育とひとくちに申しましても、その内容は漢字を初めとする読み書きの指導や会話、文法、作文、読解、助詞、助動詞などの用法、動詞や形容詞の活用、数字、曜日などの言い方、仮名遣いなど、多岐にわたります。また、限られた授業時間の中ですと、指導できる内容がどうしても限られ、しかも普段日本語の言語環境にない人たちに、日本語を保持してもらうのはなかなか大変です。ただ、最近はインターネットという心強い手段があり、有難いことに海外にいながらにして、外国語学習においても音声面を含めたかなりの情報が入手できるようになっています。今回は、前回に続き、イランにおける外国語としての日本語指導の経験を、概略的にお話してまいりたいと思います。

初回の授業で、人の名前の呼び方や、簡単な挨拶、授業中によく使う決まり文句などをローマ字にて説明した後、2回目からは「かな入門」という、外国人向けのテキストを使用してのひらがなの指導に入りました。ここで改めて気づかされたことですが、日本語は世界のほかの言語と比較して、覚えなくてはならない文字の種類や数が多い言語だといえます。ちなみに、イランの公用語ペルシャ語のアルファベットは32文字です。さて、まず5つの母音であるあ、い、う、え、おを、一画一画ボードに書いて示すことから始めました。か、き、く、け、こ、そしてさ、し、す、せ、そ、と続けるなかで、これらの文字を組み合わせてできる単語とその意味、発音も平行して教えていきました。学生さんたちは最初のうちは、「は」と「ほ」、「ね」、「れ」、「わ」、「ま」と「も」などは、一見よく似ていて間違えやすい、と言っていましたが、その後は、カタカナと合わせて、漢字よりは習得しやすい、という声が聞かれるようになりました。ただし、「じ」、「ず」と「ぢ」、「づ」の使い分け、長母音の「おー」は原則的に「う」で表記し、長母音の「エー」は原則的に「い」で表記すること、そしてこれにも例外があることについては、別途に説明する必要があります。また、よく聞かれる質問として、ひらがな、カタカナ、漢字をどう使い分けるのか、というものがあります。これについては、大まかな目安として、外国の地名や人名、外国語からの借用語はカタカナで書き、名詞、動詞・形容詞の活用しない部分などは漢字で、そして助詞、動詞・形容詞の活用部分、副詞、擬態語・擬声語はひらがなで書くものと考えてください、と説明しました。カタカナについては、外国語からの借用語やイランの地名、人名などを例に出しながら指導していきました。合計20回かけてひらがなとカタカナを指導し、最初の学期末テストからは、答案用紙に自分の名前をカタカナで書けるようになりました。学生さんたちには、全く未知の外国語を読み書きすることがすっかり面白くなってきたようで、彼らは「早く漢字をやりたい」とまで学習意欲を示すようになりました。

そして、第2学期からは、いよいよ漢字の指導に入りました。といっても、読み書きを教える前に、そもそも、漢字というものがいつごろ、どのようにしてできたのか、またいつごろ中国から日本に伝来したのかについて説明することからはじめ、最初は山や川、木など、身の周りの物を象形文字にして表すことから漢字が形成されていったことをお話しました。ただ、その時には、国外での日本語指導向けの適切な教材が手元になかったため、取りあえずは自宅にあった漢字の入門書を使いました。まずは、太郎次郎社が出している「漢字が楽しくなる本」を使用して、先に述べたようなことを指導し、さらに学研が出している「漢字読み書き辞典」という、小学生向けの参考書にそって、まずは画数の比較的少ない漢数字の一、二、三......から、いよいよスタートです。といっても、漢字圏外の国のイランで、音読み、訓読み、送り仮名、当て字、などといったことを説明するのに四苦八苦でした。漢字1つに、これほど沢山の意味や読み方があり、しかも他の漢字と結合した場合などは、読み方が変わるということが、学生さんたちにとってはとても不思議だったようで、「ペルシャ語はたった32文字で何でも読み書きできますけど、漢字は、いくつ覚えればよいですか?全部覚えるのに何年かかりますか?」という質問をよく受けたものです。この質問に関しては、やはり大まかな目安として、「世界最大の漢和辞典には、5万字が載っていますが、日本で生活するのに必要なのは、せいぜい2000字です。習得にかかる年数ですが、100%日本語環境にある日本人ですら、1,2年で全部覚えることはできず、義務教育の9年間かけてやっと、文部科学省が定めている常用漢字1945字と、理科や歴史、地名、文学などに出てくる特別な字や読み方を一通り学習するのが現状です」とお話しました。さらに、「イラン人は、ペルシャ語の辞書に出ている単語を全部暗記していますか」と問いかけました。すると彼らは、「誰もそんなことはできません」と答えました。私はそこで、「辞書に載っている言葉を全部暗記しなくても、本や新聞は読めますし、ウェブサイトも閲覧できますね。コミュニケーションには困らないし、生活できますね。漢字もそれと同じで、日本での生活に不自由しない程度に必要な字数はせいぜい2000字と言われています。もちろん、専門書を読んだり、日本文学を専攻したりする場合は別です。日本人でも、日ごろから新聞や本を読んだり、文章を読み書きしなければ忘れてしまいます。特に、最近はパソコンやインターネットの影響で、字を書かなくなる傾向が出てきていて、私も含めていざ漢字を書こうとすると思い出せない、また、意味・用法を誤って使ったり、解釈しているケースもよくあります」と付け加えました。すると、彼らは少しほっとした表情を見せました。

私自身、イラン人に日本語の指導をさせていただくようになって初めて、母語としての日本語を新たな観点から捉えるようになった気がします。よく、国語(母語)としての指導と、外国語としての指導は全く違うと言われますが、そのことを身をもって痛感しました。日本語の環境にない、また日本文化の背景を持たない人たちに、どう説明したらよいか。相手が日本人なら込み入った説明が必要ないであろうところを、噛み砕いて説明するのに時間がかかったりと、ずいぶん苦労しました。辞書さえあれば事足れりというものではなく、ある言語の学習には読み書き、聴解、口頭表現、などのほかに、その言語が話されている国の歴史や文化的な背景、さらには文学、地理的な要素といったことへの知識も必要になってきます。学生さんたちには、こういったことも折に触れて説明しました。ただ、現実問題としてまだ、ペルシャ語を母語とする日本語学習者向けの、きちんとした辞書や文法書が作られていないため、イランでの日本語教育・学習にはまだまだ困難がありますが、イランでは総合的にみて、外国語の学習熱が高いと感じられます。

イランでの日本語指導経験についてお話したいことは、このほかにもまだまだ沢山ありますが、それについては、別の機会に譲りたいと思います。

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