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イランの子供たちの夏休み

余暇時間と夏の特別クラス・習い事をアピールした、ある市役所の広告

 

イランでは日本とは異なり、小・中・高等学校の夏休みが非常に長く、西暦の6月22日ごろから9月22日ぐらいまで約3ヶ月間に及びます。この期間中は、日本の学校のようにいわゆる夏休みの宿題がなく、特に遊びたい盛りの子供たちにとっては、普段は試験や勉強に追われている期間とは違い、原則的に思い切り好きな事ができる「自由な時間」となるわけです。学齢期のイラン人の子供たちは、普段は学校の宿題や試験にかなりの時間をとられ、学期の途中では本分である学業以外の芸術・スポーツ活動などに参加するのがなかなか難しい状態にあります。夏休みは、そうした学業以外の活動に参加したり、家族で旅行するといった、学校外での活動ができる絶好のチャンスとなります。しかし、その一方で、いきなり学校の勉強から解放されて生じた大量の空き時間をどうしていいかわからない、したいことはあるが事情によりできない、そのためにせっかくの時間をもてあましてしまう、夫婦共働きなために休み中の子供の相手ができない、などなど、イラン人の間からはいろいろなつぶやきや悩みが聞こえてきます。また、9月以降の新学年に向けて、入学を受け付けてもらえる学校探しや入学登録手続きをしたり、はたまた学齢期の子供を持つ人々が、転勤などにより引越しをするのも大体この季節です。そこで、今回は何かと話題の多い夏のシーズンを迎えたイラン人のホットボイスをご紹介していくことにいたしましょう。

 

●テヘラン市内のある小学生らの声

3年生男子S・Sくん;「お母さんの田舎がカスピ海のそばなので、おばあちゃんのところに1ヶ月くらいいて毎日カスピ海に泳ぎに行くつもり。3ヶ月前のイランの春のお正月に、そこで知り合った友だちもたくさんいるから、また会えるのが楽しみ」

1年生女子K・Aさん;「お絵かきが大好きなので、絵画教室に行きます。あとは家の近くのスポーツセンターに週3回、スイミングに通う予定です」

4年生男子A・Hくん;「お父さんの仕事の都合で、1ヵ月後にテヘランを離れることになっちゃった。今引越しの準備でお父さんとお母さんが忙しくて旅行とかも行けそうにない。とりあえず、今近所の友達と道路でサッカーとかしてるけど、引っ越したらあえなくなっちゃって寂しい。新しい町に行ったら何かスポーツの教室とかに行ければいいな」

2年生女子F・Nさん;「週に3回体操教室、1回は音楽教室でピアノを習いにいきます」

5年生男子R・Oくん;「去年までやっていた空手をまた始めたいです。しばらくやってなかったけれど、これからはできれば学校のある時も続けられたらいいな」

 

学年末試験を終え、合格した成績表をもらって秋から新学年に進級できる事になった子供を持つ親御さんは、これでやっと日々の宿題のチェックや試験前に問題を出してあげるなどの、子供の世話から解放されて、ほっと一息つきたいところです。しかし、その後3ヶ月近い夏休みをどう過ごさせるかも大きなポイントになります。夏休み前になると、街中では色々なスポーツ・文化センターなどが、夏休み向けの教室の生徒募集の広告を出しているのが目に付きます。

あるスポーツセンターが出していた体操教室の宣伝

 

「極真空手を指導します」という宣伝広告

 

音楽教室の広告の例。「経験豊かな教師により、あらゆる古典楽器の指導をします。テヘラン中どこでもOK.楽器の選択・購入の相談無料」という内容が書かれています。

 

 

あるスポーツ・カルチャー総合センターが出していた夏休みの子供向けのスポーツ・芸術教室の広告。特にスポーツ教室は土、月、水が男子教室、日、火、木は女子教室となっています。青いリストは男子用、赤いリストが女子用のプログラムです。開講される内容も多岐にわたっており、水泳、体操、ローラースケート、バレーボール、バスケットボール、卓球、テニス、空手、柔道、テコンドー、英語、音楽、絵画、ペルシャ書道、コーラン朗誦、チェスといったものから、イスラムにそった生活様式や道徳まであります。

 

●小中学生の子供を持つ親御さんの声(カッコ内は年齢)

M・Sさん(32);「うちは小学生の子供が2人と中学生の子供が1人います。子供にいろんな事をさせてあげたいけれど、子供3人を何かの教室に通わせるには、費用もさることながら、送り迎えも大変です」

T・Nさん(42);「小学生の子供2人がいます。主人も私も働きに出ていまして、実家の親にも子供の面倒を見てもらっています。でも、私たちがいなくても、子供たちが自主的に自分で家の事を手伝うようになったり、自分のことも自分でできる部分が増えてきたのは嬉しいことです。夏休みの間に何とか1週間くらい休みをとって、家族旅行に連れて行ってあげたいです」

B・Z(47)さん;「中学生の息子がいます。兄弟がなく、一人っ子なのですが、かといって学校が休みになっていきなりできた膨大な時間を、親が四六時中相手をして埋めてあげることもできず、とりあえずは週に3回スイミングに通わせることにしましたが、去年よりも費用が高くなっていてびっくりしました。でも、スマホやゲームにのめり込むよりは、何か有意義なことをさせてあげたいです」

I・Mさん(44);小学生と中学生の2人の子供がおります。近所に親戚が固まって住んでいるので、いとこがよく遊びに来てくれて、遊び相手には事欠かなくて助かっているのですが、問題は9月からどこの学校に入学させるかです。私たちの住む地区では国の予算不足を理由に公立学校がどんどん閉鎖されてしまい、これまでは公立校に子供を通わせていた我が家も、ついにこの9月からは2人とも私立に行かせなければならなくなりました。人づてに、その学校の生徒のある保護者に聞いてみたところ、授業料があまりにも高くてびっくり。主人と、どうしようかと毎日相談しています。といっても、公立校のある地区に引っ越すにも、住まい探しなどでまたお金がかかるし、どうしたものでしょうか」

H・Kさん(38);「2人の中学生の娘がいます。彼女たちはスポーツが好きで、夏休み中はバレーボールとテニスの教室に生かせる予定です。ところで、我が家は衣料品店を経営しており、この夏休みからそろそろ娘たちにもお店の仕事を手伝わせようと思います」

 

絵画教室の様子。暗記中心の学校の勉強では培えない、子供1人1人の創造性を育む習い事として人気があり、多くの子供たちが集まっています。

 

 

男の子の間で人気がある習い事・種目の一つは、空手や柔道です。もはやイランでも、カラテ、ジュードーで通用し、各地に教室があり、さまざまな年齢層の子供たちが通っています。以下は、空手教室の様子です。在日経験があって日本で空手を習ったことのあるコーチがいる教室も多いようです。

 

卓球教室の様子。

 

テニス教室の様子。

 

特に宗教に熱心な家庭の子供や、学校での宗教の時間に加えて、さらに宗教・イスラムの聖典コーランの朗誦や暗記のスキルを高めたいと希望する子供のためのコーラン教室も開催されます。

 

ペルシャ書道教室の様子。イランの一般の学校では、書道の時間は非常に少ないため、本格的に書道に興味があって習いたいと希望する子供のために開講されています。

 

チェス教室の様子。日本でなら将棋や囲碁のような存在ではないでしょうか。これもいわゆる学校で習う一般教科とはまた違った頭脳が要求されることから、またチェスで身に着けた思考力が学校での勉強にも役立つとの考え方から、特技として習う子供もいるようです。

 

音楽教室の様子(バイオリン教室)

 

イランの伝統楽器の1つである、打弦楽器のサントゥールを習う少年

 

 

こうした習い事などの場もさることながら、やはり子供同士が近くの公園などに集まって群れて遊ぶ姿は、今なお健在です。また、最近、公園内にも子供用の遊具など以前よりもたくさん設けられるようになり、平日の夕方や休日などを中心に、たくさんの子供たちが楽しそうにはしゃぎ声を上げ、エネルギーを発散しています。

 

そしてもちろん、自然環境の中で思いきり友達と遊ぶ光景も見られます。子供が子供らしく遊ぶこうした光景、そして子供が安心して遊べる場所がなくならないように、と願わずにはいられません。

 

一方で、街中には一般のネットカフェとは異なる、子供・若者向けにネットゲームを専門に扱う「ゲームネット」もあります。こうした場所にも子供たちが集まっています。ですが、青少年の健全性を考え、きちんとした規則や法律のもとに運営されています。ただし、ゲームネットに集まるのはやはり男子が主流のようです。たまたまそこに集まったにもかかわらず、すぐに友達になってゲームに夢中になっている様子は、まさに現代っ子といえるのではないでしょうか。

 

長い夏休みは、子供にとっては原則的に宿題もなく勉強もしなくてよいとあって、思い切り羽を伸ばして好きな事ができるチャンスではありますが、一方で親たちは、宿題や試験勉強から解放された子供の大量の余暇時間をどのように埋めてやればよいのか、という問題と向き合う事になります。せめてこのチャンスに、普段の学校生活ではできないことを体験させてあげたいのが親心。近隣のスポーツセンターなどで、夏休みのプログラムが発表されると、子供を入れたいと希望する親が集まってきて、種目やスケジュール、受講料などをメモしている光景がよく見られます。

 

しかし、夏休みといっても決して楽しい事ばかりではありません。特に、高校生の間では、夏休み前の期末試験で全教科合格できず、落としてしまった科目の最終試験を受けるために自宅学習し、あるいは学校で行う補習授業に参加しなければならない生徒もいます。試験の点数やクラス内での順位などを気にするのは、イランの学校でも変わりありません。

また、イランでは前年度の学年での成績が、次年度の学校選びに大きく影響する事が多くなっています。そして、毎年有名大学にたくさんの合格者を出しているような、いわゆるレベルの高い進学校、名門校は希望者が殺到するため、入学定員が埋まってしまわないうちに手続きをする必要があります。

このように、イランの長い夏休みは一見よさそうに見えますが、ふたを開けてみるとそれぞれの家庭、さらには地域などにもよって、様々な事情が見えてきます。日本のように地方自治体などによるプログラムなどはあまりないと思われ、前年度で合格できなかった科目の補習授業など以外には、学校によるプログラムも少ないようです。

イランは、日本と比べて学齢期の子供をはじめとする若年層が多く、近年では以前と比べて出生率が低下してはいるものの、特に学齢期の子供を持つ保護者や教育関係者の間では、児童生徒の膨大な夏季休暇を有効に活用させるための便宜を、学校や地方自治体を上げてもっと充実させる必要性が叫ばれています。

 

 

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