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イラン西部ガズヴィーン州の手工芸と郷土銘菓

ガズヴィーン風の敷物・ジャージーム
ガズヴィーン独自の刺繍・装飾縫製ノ1ツ・ソルメドゥーズィー
ガズヴィーン風菱餅・パルチョミー

イランは、多種多様な手工芸を誇る国です。中でも、中部イスファハーン市は数百種類に及ぶ手工芸があり、手工芸の町として知られていますが、それ以外のイランの市町村にも独自の手工芸があり、他にはない独自の特徴を誇っています。今回は、筆者がこの2年ほど在住しております、テヘランから西に150キロほど離れたガズヴィーン州の手工芸と、郷土銘菓の数々をご紹介することにいたしましょう。

手織り絨毯

イランの代表的な生産物の1つといえば、やはり世界でもよく知られているペルシャ絨毯ではないでしょうか。そのペルシャ絨毯も、広大なイランの様々な都市で製造されていることから、生産される町ごとに少しずつデザインや色合い、全体の雰囲気に違いが出ています。

ガズヴィーンでの絨毯製造の歴史は、今から1200年ほど前に遡るといわれますが、この町における現代式の絨毯が作られるようになったのは、今から400年ほど前のサファヴィー朝時代のこととされています。

また、ガズヴィーンでの絨毯生産が発展しだしたのは、このサファヴィー朝の為政者タフマースブ1世の時代だということです。タフマースブ1世は1548年、それまでのタブリーズ(現在のイラン北西部の町)からガズヴィーンに遷都しますが、その後王族たちが絨毯製造に関心を持つようになり、絨毯職人らを保護し生産活動を奨励したことから、いたるところに絨毯製造の工房が数多く設置されました。そして、これらの工房で作られた絨毯は、王族や貴族はもとより、イラン駐在のヨーロッパ諸国の大使にも贈呈された、といわれています。

ソルメドウーズィー

ふち飾り縫いの1種;ソルメドゥーズィー

ソルメドゥーズィーとは、金銀の糸でできた勾玉模様状のふち飾りのようなものを、カシミヤやビロードなどに縫い付けていく飾り縫いの一種です。これも、ガズヴィーンに古くから伝わる伝統工芸の一種で、昔は多くの場合衣服やカーテン、生地などに施されていましたが、最近ではテーブルクロスや椅子のカバーなどにも使用され、益々豪華に、また複雑な模様が登場し、より装飾的な傾向が強まっています。

ジャージームバーフィー(生地の一種)

イランのほかの地域でも、ジャージームという名称の敷物の一種として生産されていますが、ここガズヴィーンでは、普通の生地より分厚い一種の織物としてみなされ、敷物だけにとどまらず、カーテンやクッションカバーなどにも使用されています。この織物は、ガズヴィーン州内の特にアラムート村やアリーアーバード村、ガゾルハーン村などの女性たちにより生産され、紡いだ羊毛や植物などの天然素材を用いた6色から8色ほどの色素が使われています。長いラインが幾重にも連なったデザインを基調とし、その上に小さな幾何学模様が入っていることもあります。イランの繊維産業の歴史は非常に古く、カスピ海近郊の洞窟で発見された生地から、その歴史は紀元前6500年前にまで遡るとされています。しかし近年では、安価な原材料や若手の後継者不足などからこの貴重な手工芸の存続が危機に瀕しており、こうした問題への対策が待たれる状態となっています。

ふち飾りのついたジャージームの例

金属を幾何学模様にカットした装飾品

金属板を丹念に切り抜いて作られた多様なデザインの装飾品

この種の手工芸品も、ガズヴィーンが誇るお土産の1つです。これは、金属板上に唐草模様などのデザイン・模様を描き、糸鋸などで丹念にカットしていくという方法で製作されます。この種の手工芸は、今から700~800年ほど前のセルジューク朝時代に特に盛んに行われていたということです。また、かつてはこの種の装飾品は鏡やロウソクを立てるために主に使用されていましたが、それから次第に器や植木鉢にも使われるようになり、現在ではアクセサリーなどをはじめとする多様な品々に応用されています。

ビーズの縫いつけによる生地の装飾・ナムナムドゥーズィー

多数のビーズを縫い付けての装飾・ナムナムドゥーズィー

ほかにも、生地にカラフルなビーズを多数縫い付けて、花柄や複雑な幾何学模様などに装飾した生地による手工芸品も存在します。この細かい細工により作られる品々には、鋏のカバーや印章入れ、小銭入れなどがあり、ガズヴィーンを訪れる観光客に人気のあるお土産の1つとされています。

さて、ガズヴィーンのお土産といえば、繊細な手工芸のほかにおいしい郷土銘菓も忘れてはなりません。以下にご紹介いたしますのは、ペルシャ語でパンを意味するナンという名称がついているものの、実際には郷土銘菓とされているものです。まずは、米粉のパンと呼ばれるナーネ・ベレンジーからご紹介しましょう。

ガズヴィーン風のナーネ・ベレンジー

ナーネベレンジーと呼ばれるこの巣のお菓子は、実はガズヴィーン以外のイランのほかの町でも作られていますが、ガズヴィーンが誇るこの郷土銘菓は、米粉、サフラン、卵、砂糖、固形油、カルダモン、バラ水を材料とし、独自の風味を誇っています。なお、表面には花形のような模様が刻まれる事が多く、さらに装飾としてピスタチオの粉末やポピー(スベリヒユ)の一種の種がちりばめられることもあります。

砂糖パン(ナーネ・ガンディー)

ガズヴィーン産の砂糖パン

この種のお菓子は、日常の来客の接待用のみならず、イランの春の新年ノウルーズの際にも使用されます。この郷土銘菓の材料には、固形油、カルダモン、砂糖、小麦粉、ベーキングパウダーが使われています。これらの材料を混ぜ合わせて作った生地を数時間寝かせ、オーブンで焼くというのが代表的な作り方とされています。なお、風味にバリエーションを持たせるためにサフランやココアパウダーが用いられることもあります。

油で揚げた伝統的なパン・ギャルダク

こんがりキツネ色に揚がったギャルダク

このお菓子は、小麦粉、イースト菌、砂糖、水、サフラン、卵、塩を混ぜ合わせて作った生地を数時間寝かせ、これを適当な大きさに丸めたもの多めの油で揚げたものです。ガズヴィーンを訪問したら是非味わっておきたい郷土銘菓の1つです。

強い甘みが特徴の郷土銘菓バグラバー

非常に甘味の強いお菓子バグラバーも。、ガズヴィーンの郷土銘菓の1つです。この種のお菓子はさらに数種類に分かれ、それぞれに個別の名前がつけられています。上の写真は、パルチョミーと呼ばれる菱餅型のバグラバーで、このほかにも代表的なバグラバーには包みのような形をしたピーチー、バラの蕾のようなゴルザールがあります。

包み状のバグラバーの1つ・ピーチー
バラの蕾状に作られたバグラバーの1つ・ゴルザール

この1年ほど筆者が生活しているガズヴィーンは、かつてはイランの首都がおかれていたこともあり、王朝文化をはじめとする長い歴史を誇る町です。また、為政者らにより手工芸や芸術が奨励されたことから、ほかの町に決して勝るとも劣らない多様な手工芸や芸術文化が発展しました。今回ご紹介したのは、あくまでもその一例に過ぎず、実際にこの町の手工芸品市場に足を運んで見ますと、さらに膨大な数と種類の手工芸が存在することに驚かされます。今月は、諸般の事情によりその一部しかご紹介できませんでしたが、今後また別の機会にこの地域の文化芸術・手工芸をご紹介してまいりたいと思います。

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