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新型コロナウイルスと戦うイランからの最新レポート

テヘラン市内の目抜き通りを走るバスの女性車両
「コロナウイルスが待ち伏せています。自宅に留まりましょう」と呼びかける広告宣伝の一例

皆様もご存知のとおり、現在新型コロナウイルスが世界各地で猛威をふるい、先進国や発展途上国のいかんを問わず多数の感染者、犠牲者が出ています。WHO世界保健機関は、今回の現象をパンデミックと宣言しており、各国の航空・運輸、飲食・レストラン業、レジャー・娯楽などの幅広い業界が甚大な損害を受けています。さらには、交通機関や各種の社会機能が麻痺し、一部の国では感染者の激増から医療体制が破綻しつつあるということです。昨年末に中国で発生したとされるこの感染力の強いウイルスは、現在は主にアメリカ、ヨーロッパに拡散していますが、イランでもほぼ同様のペースで広まり、日々多数の感染者、犠牲者が出ています。また、今回の危機がイランの春の新年ノウルーズの時期と重なったこともあり、イラン国民の間からは、新型ウイルスの弊害による様々な声が聞こえてきます。そこで、今回は、今まさに新型コロナウイルスの影響下にあるイランの市民生活の一こま、そして彼らの生の声をお届けしたいと思います。

新型コロナウイルスが遂にイランでも検出され、流行しだしたばかりのころから、筆者の個人用の携帯電話にもイランの保健医療教育省(日本の厚生労働省に相当)から、直接毎日のように「うがい、手洗いを徹底してください」といった内容の注意喚起メッセージが来るようになりました。イランに在住して18年目になる筆者にとっても、このようなことは初めてです。

イランでも、新型コロナウイルス感染拡大を防ぐべく、政府はメディアなどを通じて国民に不要不急の外出を控えるよう呼びかけました。以下は、「感染者の数を減らすため、自宅にいましょう」と呼びかける看板です。

「イランに健康を届けましょう」とアピールしたショッピングモール正面の宣伝。ですが、すでに人影はありません。

さて、新型コロナウイルスは中国や日本などに続いてイランにも波及し、かなりの速度で全土に拡散しました。これを受け、市内の街頭や官公庁、一般企業、モスクやそのほかの公共施設での消毒作業も盛んに実施されるようになりました。官公庁などでは、検熱班が各部署を回って職員の体温を測定したり、また職員らがいつもより頻繁に席を立って手を洗いに行くようになりました。しかし、それでも感染者が拡大したことから、政府は官公庁や公共機関の業務時間を朝8時から13時までの時間帯に短縮しました。以下はテヘラン市内での街中での消毒の様子です。

女性用衣料品店内での消毒の様子
「あーあ、遂にうちの店にも来たか。こんなところまで消毒しなきゃ駄目なのか。大変なことになったな」

政府は当初、このように対処していたものの、それでも新型コロナウイルスがさらに蔓延していったことから、次第に人々の往来や外出の制限に踏み切り、至る所での消毒作業を徹底させるようになりました。このため、日を追って街中を行き来する人々や車の数が減り、代わって防護服姿で消毒作業に当たる作業員の姿が多く見られるようになりました。

地下鉄の車両内の消毒作業の様子(テヘラン近郊キャラジ駅にて)

また、新型コロナウイルスが流行しだした当初は、就学中の児童生徒、学生らもマスクをつけて登校し、授業を受けていましたが、感染の拡大とともにノウルーズ休みを前に、政府は学校などの教育機関の休校に踏み切りました。

テヘラン市内の女子小学校4年生の授業の様子
マスク姿で登校するテヘラン市内の女子高生。

休校に伴い、まだまだ所定の学業課程の残っていた就学生らは、自宅でのオンライン授業を受けています。

テヘラン市内のある中3生女子;「学校が休みになるのはうれしいけれど、友達と会えなくなるのは寂しい。休み明けの試験がどうなるのかちょっと心配」

小学5年男子;「学校が休みになっても、コロナの問題があって友達のところに遊びに行ったりとか、友達に来てもらったりとかできないのが嫌だ。オンラインの授業より、やっぱり友達とかがそばにいる教室のほうがいい」

いつもは、朝早く起きて学校に行くのを億劫がることもある子どもが、いざ何かが起きて学校に行けなくなると、やはり仲のいい友達や話のできる先生が恋しくなるというのは、世界中どこでも共通しているのでしょうか。

新型コロナウイルスの蔓延に伴う休校で、子どもたちの学校が休みとなり、その期間が長くなると親御さんに思わぬ負担がかかってきます。それは、職業を持つ親御さんはもちろん、主婦の女性でも同様であり、いきなり生じた子どもの空き時間をどうやって埋めるか、という問題は日本のメディアでも報じられていたようですが、どうやらイランでも同じようです。これに関して、小学生と中学生の2人の子どもを持つ、テヘラン市内のある女性(40)に話を聞くことができました。

「うちの子は、特に上の子が落ち着きに乏しく、オンライン授業でもパソコンの前にじっと座っていることが難しいようです。教室での授業なら、周りの友達に刺激され、また先生にも注意されるのでまだしも、オンラインだと教室にいるのとは違い、中々難しいですね。母親の私があまり口を出しすぎると、今度は誰が授業をしているのかが分からなくなってしまいます。それから、学校外のお稽古事もコロナウイルスのために全部休みになってしまい、うちの子はピアノを習わせていたのですが、それが途中で中断されてしまいました。とりあえず、習ったところまで自分なりに練習させてはいるのですが、私は音楽のことはあまりよく分からず、先生にワッツアップなどで質問するにせよ限界があります。また、ちょっと目を離すとすぐスマホゲームに手を出し、長時間熱中してしまいます。仮に子どもにせがまれてちょっとどこかに行くにも、もはやマスクは欠かせません。この状況が早く何とかならないものか、と気を揉んでいます」

マスクをつけて街中を歩く親子(テヘラン市内にて)

イランの行政サイドも必死で国内での感染拡大を防ぐべく、あの手この手で様々な策を講じています。国民へのこまめな手洗い、うがいの奨励のほか、人が集まる場所にはなるべく行かないようにすること、不要不急の外出を控えること、集会や集まりごとの禁止、そして遂にはイスラム教徒にとって欠かせない、集団での金曜礼拝の停止や都市単位での検疫、隔離、空港や市内の至る場所での体温のチェックなど、大掛かりな策に乗り出しました。しかしその結果、駅やバスターミナル、公園、市内の広場などの公共の場では人の姿がめっきり少なくなり、さながらゴーストタウンのような光景が生じています。

テヘラン市内西部ミーラードタワー付近のタクシー乗り場
閑散とした公園
テヘラン大学前。いつもなら学生をはじめとする大勢の人々がここを通っているはずですが...
人の姿がほとんどないテヘラン市内中心部キャリームハーン広場
テヘラン市内の大通り。平常時より車の往来がめっきり少なくなっています。
誰もいない公園での昼寝。そばの道路も人通りがないようです。
人通りの途絶えた地下鉄駅の入り口
不特定多数の人が集まる場所は危険とばかり、バスに乗る人もいなくなってしまいました
閑散としたテヘラン鉄道駅。今年は春のノウルーズ期間中の旅行客もぐんと減っています。
テヘラン市内の広場にある彫像までカバーがかぶせてありました。ウイルスよけでしょうか??

また、イラン暦の年末で普段なら大勢の買い物客で賑わうはずの市場や商店街、ショッピングモールも、ばったり客足が途絶えてしまい、特に商業を営む人々が大変な損害を負うことになりました。

テヘラン市内の市場の生地やさん。例年なら新年用の新しい服を縫う布地を求める客で賑わっているはずが、今年はさっぱり。「閑古鳥が鳴いてまーす!」
「この調子じゃあ、待てど暮らせど客は来ないね。他の店はもうとっくにシャッター閉めてるよ」
「いつまでこんな状態が続くのかな?これじゃあ商売にならないよ」
テヘラン市内の「シャッター通り」
シャッター通りの前を歩く人々
ノウルーズ用の乾燥ナッツを売る店。今年は客足がさっぱりで店員さんも暇そうです。店員さんがいわく、「新型ウイルスでこんなことになるなんて、まったくの想定外ですね」
「業者さんに納品するはずだったのに、今年は不景気で売れ行きが悪いからいりません、と断られました」
「店の仕事がないならテレグラムでもやるか。これじゃあノウルーズの親戚周りとかにも行けないし」

また、空の玄関である空港でも、厳密な検査が徹底されるようになりました。しかし、新型ウイルス拡大にともない、人々が移動や旅行を控えるようになったことから、他国と同様に予約のキャンセルが相次ぎ、また新規予約も大幅に減少しました。その結果、イランの国内線の料金は、路線によってはなんと平常時の5分の1にまで下がったものもあるそうです。

マスクをつけた家族連れ(テヘラン・イマームホメイニー空港にて)
大人のみならず子供にも入念なチェックが実施
1人ずつの検温が加わったため、平常時以上に出国審査に時間がかかっています
乗務員・パイロットといえど、旅客と同様のコロナ検査を実施。もちろん検査官もマスク・手袋着用です
中国人旅行者に対する検査の様子。イランと中国の間の行き来は非常に多いようですが、相互間にウイルスを持ち込まないよう、入念に検査します

イランは、特に中国との関係が良好であることから、当初は特に数の多い中国人入国者の診断、応急処置を蜜に行っていました。このため、テヘラン緊急機関はイマーム・ホメイニー国際空港に特別専門家チームを配備し、主に中国人入国者の診断や検査、また感染が疑われる入国者に対する応急処置・隔離などに当たりました。

イマーム・ホメイニー空港に急遽配備された専門チーム。主に中国人入国者の管理ケア、診断などに当たります。

しかし、こうしたあの手この手を使っての策もむなしく、その後も新型ウイルス感染者・死亡者数が世界で増え続けたことから、イラン側もやむなく国外からの感染源の侵入を防ぐため、中国便をはじめとする、イラン発着の国際線の多くを欠航とせざるを得なくなりました。その結果、イマームホメイニー国際空港をはじめとする各空港でも旅客が大きく減り、人の姿がまばらにしか見られなくなってしまいました。

閑散とした状態のイメーム・ホメイニー国際空港(3月15日当時)

また、イスラム圏であるイランでは、毎週金曜日の集団礼拝(通称;金曜礼拝)は欠かせないものでした。ところが、新型ウイルスの蔓延が深刻化し、群集の形成、特に密閉された空間での人の集まりが問題視されるようになったことから、イラン政府は金曜礼拝の実施を禁止し、その開催場所となっていたモスクなどの宗教施設の立ち入り禁止と消毒に踏み切りました。また、金曜礼拝以外の宗教上の集まりごとも当面禁止されることになりました。

テヘラン南方の聖地ゴムにあるジャムキャラーンモスクの消毒作業
礼拝者の立ち入り禁止により閑散としたジャムキャラーン・モスク境内。入念な消毒作業が実施
消毒作業の間に礼拝する作業員。非常事態にも衰えない彼らの信仰心は、実に驚嘆すべきものがあります

こうした一連の措置にもかかわらず、国内での感染者や死亡者が日々増加していったことから、政府側もさらに措置を徹底させ、テヘラン州内の移動はもちろん、州そのものの出入り、都市間の移動を厳しく取り締まるようになりました。例えば、テヘラン州に住居のある人がほかの州に出かけてテヘラン州に戻る場合、州内に住居があることを証明するもの(公共料金の支払い要求など)と提示しないと戻れない、といった具合です。また高速の料金所をはじめ、街中でもスタッフを配備して通行人に対する検温に踏み切りました。

「検温にご協力くださーい!」「住居証明の提示をお願いします」
夜間といえど、通行車両のドライバーに対する、検問ならぬ検温が実施(テヘラン市内で)

このような時とあって、薬局はどこもにわかに大忙しとなり、マスクや消毒液などが飛ぶように売れています。このため、どこの薬局に行っても、「マスクと消毒液、アルコールスプレーの在庫がありません。お詫びします」の表示が目立ちました。

「コロナウイルス関連製品は完売しました」の表示
「マスク品切れです」の表示(テヘラン市内のある薬局にて)
どこの薬局も大混雑。薬局の店員さんがいわく、「朝早くから夜遅くまで働いていますが、1つしかない体、お客様のニーズを満たせない品切れ状態が恨めしく感じます。こんなことは初めてです」
夜になっても薬局は長蛇の列。このお店は、どうやらまだマスクの在庫がありそうです
長時間並んだ末にやっとマスクを手に入れたという女性。「いつもの金額よりものすごく高くなってました。でも買えてよかった!」

そしてもちろん、病院などの医療機関は新型コロナウイルスとの戦いの最前線としてフル回転。ですが、その中で多数の医療スタッフが命を失ったことを忘れてはなりません。イラン最高指導者のハーメネイー師は、これらの人々を医療活動における殉教者として扱うと表明しています。なお、3月23日の時点で、少なくとも37人の医師や看護士が、新型コロナウイルス感染者らの処置の中で死亡したことが判明しています。

「コロナに打ち勝つ」のスローガンを掲げたテヘラン市内の病院のスタッフの皆さん。こういう方々には本当に頭が下がります。お疲れ様!
「我々はコロナに勝つ」のスローガンとともに。このスタッフの方がいわく、「こうした人命救助活動も、礼拝や断食と同じ、否それ以上の宗教的行為とみなされます」うーん、納得できます!!

さて、この度の新型コロナウイルス蔓延により、世界各国の企業、航空会社、飲食店、観光業、レジャー産業などが規模な損害を受けていることは日々報じられていますが、それは決してイランでも例外ではありません。テヘラン市内で医療機器の輸入・販売業に携わる男性A・Kさん(42)は、長年この業務に携わってきたものの、このような危機は初めての経験だとのことです。彼は、このことについて次のように語っています。

「例年ならこの時期、ドイツなどのヨーロッパ諸国での見本市に参加して新しい機材を仕入れ、それをイランで販売し、しかるべき利益を得ていたのが、今年はご覧の通りの自体でして、ヨーロッパへの渡航ができなくなってしまいました。というわけで、つい数ヶ月前に見込んでいた予定がすべてキャンセルとなり、従って仕入れがないわけですから国内での販売もできないというわけです。ヨーロッパの取引先からは、追って連絡するまで無期限の取引中止を通告されました。国内の取引先の販売約束も取り消さねばならず、思わぬ大損害をこうむってしまいました。数人のスタッフを雇っているものの、給与の支払いができず、またこの状況の打開の見通しも立たないことから、彼らを無期限の一時解雇にせざるを得なくなりました。そしてそれに輪をかけて外出禁止令が出され、特にやることもなく自宅でただ時間をつぶしているという有様です。幼稚園に通っている息子も、休園となったため友達とも遊べず退屈し、その相手をする妻も疲労困憊しています。一刻も早くこの状態が解消されるよう、ひたすら神に祈るしかありません」

また、今回の新型ウイルス危機により、職種や業種によっては業務の縮小・削減、さらには人員削減・一時解雇などにより、自宅待機を迫られたり、最悪の場合は失職してしまったなどの理由で、普段はあまり家にいない家族のメンバーが1日の多くを自宅で過ごす、という事態が発生しました。中には、いつもは仕事でほとんど家にいない夫が、今度はほとんど家にいるようになったことから、夫婦喧嘩が絶えなくなったり、家族関係がかえって気まずくなった、という話も聞こえてきます。また、いざ仕事がなくなると、特にそれまで仕事に熱中していた人は、心にポッカリ穴が開いてしまい、いきなりできた空白の時間をどう埋めてよいかわからなくなり、1日中ボーっとテレビを見て過ごす人も多いそうです。

親戚への年始回りには行けないので、テレビでノウルーズ番組を見ながらすごす女性

ここで、あるイラン人家族の例を挙げたいと思います。テヘランに住む50代の働き盛りの男性R・Gさんは、旅行代理店に勤務していました。ところが、このたびのコロナ危機で予約がさっぱり入らなくなり、キャンセルが相次いだことから追って連絡があるまで自宅待機を命じられたとのこと。その後の家庭生活について、次のように語っています。

「これまでは、1日の多くを職場で過ごしていたのですが、勤務先から自宅待機を命じられてから、それまでとは打って変わって1日の多くを自宅で過ごすようになると、妻との仲がなんだかぎくしゃくしてきたんです。収入も減ったせいか、“いつまでこんなことしてるの?これから学費もかかる子供が3人もいるんだから、別の収入源を考えてよ!”などと毎日のようにせかされ、いきなりそんなことを言われてもどうしたものかと悩んでいます。子供たちは、学校が休みになったのいいことに、皆それぞれスマホを片手に自分のスペースにこもってしまい、コロナに感染したわけでもないのにいつの間にか、自分が自宅内で隔離された状態になっています。これでは笑うに笑えない、泣くに泣けない。コロナでとんだ泡を食っています」

しかし、このような例ばかりではなく、外には出かけられなくとも、小ぢんまりとしたささやかなものながらも、家庭内でのノウルーズ・年明けを楽しんでいる人々もみられます。室内ではなく、自宅の屋上や庭の一角に絨毯をしき、新年の縁起物の食卓を設けて、一家団欒を楽しむ光景には、思わずほっとさせられるものがあります。

自宅の屋上で、ノウルーズのひと時を楽しむ家族
自宅の庭に絨毯をしいて、家族で音楽を楽しむ家族

イラン保健医療教育省(日本の厚生労働省に相当)の発表によりますと、今年3月26日の時点で、イラン国内では累計で3万人近いコロナウイルスの感染者が報告されており、死亡者数は2000人を超えています。イランでも他国と同様に今回の新型コロナウイルスは社会や各産業、人々の暮らしに大きな打撃を与えており、その影響はいたるところに見られます。東京オリンピックも遂に延期が決定され、今回のコロナ危機はイランのみならず全世界に大きく影響し、また収束のめどもまだ立っていないようです。まだまだ色々な意味で厳しい状況が続く中、全世界での集団的な協力によりこの危機を乗り切り、一刻も早く平常時の状態が戻ってくるよう祈願しながら、今月のレポートを締めくくりたいと思います。

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