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ザクロの収穫シーズンに寄せて

現在、イランでは特に中部を初めとする地域でザクロの収穫シーズンを迎えています。まさに、イランがザクロにより赤く染まっていると言っても過言ではありません。イランをはじめとする西アジアの国々では、ザクロは「天国の果実」とも称され、豊穣のシンボルとして重宝されてきました。中でも、イランやその隣国トルコではザクロ栽培は有史以前からの長い歴史を持ち、さらには中国でも紀元前200年頃の漢王朝時代から、「安石榴」という名称の漢方薬として使われていたということです。

さらに、古代ギリシャ・ローマの歴史家の間では、紀元前のアケメネス朝時代にイランでザクロが栽培されていたことが知られており、また帝政ローマの著述家プルタルコスによれば、アケメネス朝の王アルデシール1世は献上されたザクロを見て、このような果物の存在に驚愕したとされています。

なお、イランの文化や古代伝説ではザクロは豊穣や実り、恒久性などのシンボルとされ、女性のイメージを表すものとみなされています。

イラン南部の紀元前アケメネス朝時代の古代遺跡・ペルセポリスの石のレリーフ。アケメネス朝の王への朝貢使節の手に握られているのはザクロの花だと言われています。

 

イランのある伝承に、イランの伝説上の古代王朝の1つ・キヤーニー朝の王子の1人エスファンディヤールが、ザクロの果実を食べてより強くなったという話があります。また、12世紀のペルシャ詩人ネザーミーの叙事詩「ホスロー(ファルハード)とシーリーン」においては、愛する女性シーリーンの訃報を聞いたファルハードが、悲しみのあまり斧で自分を頭に切りつけ、その血が大地に流れたところからザクロが生えてきた、という物語が存在しています。

また古代イランの2代目の王フーシャングの父スィヤーマクの血が大地に流れた時に、そこから生えてきたのがザクロだとされています。因みに、今から1000年ほど前のイランの英雄叙事詩人フェルドウスィーの詩に以下のように詠まれています。

血が流れた場所に植物が生えてきた

そこには盥をひっくり返したように大量の血が流れてた

その血からは急速に植物が生えてきた

そこから植物が生えてくることなど、神以外に誰が知っていただろうか

今、我はそれをしるしとして貴方にあげよう

あなたはそれをスィヤーヴーシュの血と呼ぶ

彼の血から生み出されるものの意味は多大であり

その血から生えてくるものこそあの植物(ザクロ)なのだ

 

 

イラン世界最大のザクロの生産・輸出量ともに世界一を誇り、その総作付面積は6万ヘクタール以上、生産量はおよそ100万トンに達しています。イラン国内の一部の地域、特にカスピ海沿岸や西部ロレスターン州及びコルデスターン州、南西部チャハールマハール・バフティヤーリー州、南部ファールス州、南東部スィースターン・バルーチェスターン州、アルボルズ山脈などは、野生のザクロが自生しています。このため、植物学者の学説ではザクロはイラン原産の果物とされ、イランからインド、さらには北アフリカ、中国、ヨーロッパ、アメリカに伝わったとされています。

イランでは、新鮮なザクロはそのままデザートとして食されるほか、果実や果肉を搾り取ってジュースやシロップにしたり、さらにはペーストにして煮込み料理に使うなど、幅広く利用されています。また、ザクロの栄養価やその効能は高く評価されており、是非積極的に摂取したい果物の1つでもあります。ザクロの効能としては、抜け毛の予防・頭髪の栄養補強、ガン・動脈瘤の高血圧予防や血糖値の維持、免疫機能の強化、美肌効果などが知られているようです。また、エストロゲンの類似作用があることから、特に女性にとっても喜ばしい果物とされています。

摘みたてのザクロの汁でシャーベット作り

イランでは、ザクロは煮込み料理の味付けにも使用されます

 

さらに、ザクロは可食部のみならず皮や種子まで余すところなく利用でき、廃棄部分がないといわれています。イランでは、ザクロの種子から高価な油を搾取しているほか、家畜の餌としても使われ、強く赤い色素が含まれることからザクロの皮が天然の染料、化粧品にも使われているということです。

そして、イラン各地で収穫されるザクロにも生産地によって少しずつ違いがあるといわれています。

中部サーヴェで採れるものは、汁気が特に多く表皮は薄めで、日持ちがよいとされています。例年ですと、ザクロの収穫時期にここではザクロの収穫を神に感謝するザクロ祭が開催されるそうです。以下は、サーヴェでの昨年のザクロ祭りの様子です。

また、テヘラン南方のゴムで生産されるザクロは、その他の地域のものよりも晩熟で酸っぱさがやや強いということです。

一方、イラン北東部フェルドウスのザクロは甘みが強く、肝臓疾患に効くと言われています。

さらに、中部ヤズド原産のザクロはフェルドウス産のザクロよりも甘みが強く、果実の表皮は白みがかった赤で、ここでも例年はザクロ・フェスティバルが開催されることが知られています。

他にも、南部シーラーズで生産されるザクロが知られており、甘味が非常に強く、また果実の外見は白に近い赤のものが多くなっています。このタイプは外見上イランでよりはヨーロッパで好まれるといわれています。

今回は、現在イランで最盛期を迎えており、何かと話題に事欠かないザクロの収穫に関する話題をお届けしてまいりましょう。

 

さて、先ほどお話しましたように、イランでは広範囲な地域においてザクロが生産されていますが、中でも特に有名なザクロの産地は中部マルキャズィー州の町サーヴェとされています。それではここで、サーヴェにあるザクロ園での収穫の様子をご覧ください。

ザクロ園を囲む外壁にまで枝もたわわ。今年も嬉しいことに大豊作のようです。

摘み取ったザクロを手にポーズ。「うちのザクロは天下一品だよ!」

作業のオートメーション化の現在でも、摘み取り作業は1つ1つ作業員の手で丹念に行われます。

「あまりにも熟れ過ぎて割れてるから、これは後でおやつに食べましょう」

 

「わあー!おいしそう!」

 

積み立てのザクロ入りの箱を肩に乗せて運搬。「今年のザクロは大粒よ」

 

「すごい大きいのがたくさん採れたわ!」

籠に摘み取ったザクロを、まずは1箇所に集めます。「そーれ!」

 

先祖代々このザクロ園のオーナーだったという高齢者の男性が、孫2人とご満悦。「ザクロの収穫も嬉しいけど、孫の存在は格別だよ」

 

ザクロの粒を取り出す2人の女性。「これで自家製のザクロ・ペーストを作ります」

広大なザクロ園での作業。「全部摘み取るのに、何時間かかるかな?」

籠詰めにされて出荷待ちのザクロ。このザクロ園の関係者の話では、ザクロは1つ1つの直径の大きさで値段が決まるそうです。

 

絨毯のように集められたザクロ。「この中から、まずは見栄えのいいものをより分ける必要があります」

作業の合間に、ザクロを頬張る作業員さん。「これは役得。取りたてのザクロの汁は最高です!」

暑い日差しをよけて、ザクロの木陰でザクロジュースを堪能。まさに「一石二鳥だね!」

作業の間にザクロでお手玉遊び?

大人数でのザクロのより分けの様子。同じザクロでも、色や大きさに違いがあります。この作業では、表面の色彩により種分けしています。

 

「表面に傷がついていないかどうか、慎重に判断しないとね!」

 

「ピスタチオとザクロは外国でも作ってるど、やっぱりイランのものが最高だよ」

中には、黒ザクロもあります。ザクロ園の関係者の話では、この種のザクロは熟れてからすぐに腐ってしまうため、摘み取りの時期を逃してはいけないとのこと。また、黒ザクロは下痢や黄疸、百日咳などに効くそうです。

 

イランでは、今後あと1ヶ月ほどザクロの季節が続きます。国土が広いことから、その収穫時期には多少のずれがありますが、今年も新型コロナウイルスの影響に関係なく、国内各地からザクロの豊作ぶりを伝えるニュースが舞い込んできています。ザクロは今後とも、イランの文化や現代イラン人の生活にも密着し、大きな役割を果たしていくことでしょう。

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