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イランのホルモン料理・スィルアービー

じっくり煮込んだイラン式ホルモン煮込み「スィルアービー」

日本は四方を海に囲まれ、魚介類や四季折々の食材をふんだんに取り入れた和食は世界有数の健康食であり、ユネスコ無形文化遺産にも登録されています。今や世界各地にすし店をはじめとする日本料理レストランが進出し、人気を博していることはよく知られています。欧米では一般的に生魚を食べることが少なく、抵抗を感じる人もいると言われる一方で、今やSUSHIは人気メニューとして国際語にもなりつつあります。

そうした健康食・ユネスコ無形文化遺産として国際的な地位を確立したその和食にあって、日本人の間でも匂いなどの点から好き嫌いが分かれる食材に納豆やくさやが挙げられるのではないでしょうか。そのほかにもホルモン料理や一部の珍味など、好き好きによって食する人と食さない人がいる食品がありますが、実はイラン食にも風味が非常に強く、独特であることから人々の間での好き嫌いがくっきり二分されると思われるメニューが存在します。それが今回ご紹介する、イラン式ホルモン料理・スィルアーアービーです。

この料理は、主に牛の胃袋を刻んだ玉ねぎとともに長時間煮込んだもので、その栄養価が高く評価される一方、すでに調理前の生の時点で、非常に臭いともいえる強いにおいを放ち、また調理中や調理後にもまた強い臭気を放つことから、いわばイラン料理の中の納豆やくさやのような存在といえます。そのため、イラン人の間でもこの料理を好む人と好まない人とに比較的くっきり分かれ、この料理の専門店もあると同時に、ペルシャ語の冗句の中には「クルミと肉のザクロペースト煮込みに万歳、スィルアービーに死を」などという文句も存在するほどです。

そこで今回は、イラン式ホルモン煮込みの食材で、イランの「くさや」とでも言うにふさわしい「スィルアービー」についてご紹介することにいたしましょう。

冒頭でご紹介させていただいたように、スィルアービーの材料となるのは主に牛の胃袋です。また、その独特の臭気からこの食材を好まない人も多い一方で、実はビタミンA,B1,B2,B3,B12 Eやミネラル、亜鉛、ナイアシン、カルシウムを豊富に含み、MSやガンのほか、抜け毛、貧血、神経衰弱やうつ病、胃潰瘍、十二指腸潰瘍などの治療や免疫システムの強化や子供の成長促進に効果があると言われています。また、イランで古くから食されてきたと同時に、世界のかなり多くの国でも食材として使われているそうです。

ご存知のように、特に牛は一度飲み込んだ食べ物を再び口の中に戻して、再咀嚼(さいそしゃく)する反芻動物とされています。人間とは異なり、牛には4つの胃があり、1番目の胃はミノ(ルーメン)、2番目の胃はハチノス、3番目の胃はセンマイ、4番目の胃はギアラとそれぞれ別の呼称がつけられていることも知られています。また、それぞれの胃が独自の役割を持ち、実際に消化を行なうのは人間の胃に相当する4番目の胃・ギアラで、1~3番目の胃は、食べた草を徹底的に分解するため、一度胃に入ったものを口まで戻してまた噛み砕く、という反芻の役割を持っています。

また、本来スィルアービーとは、厳密には牛の胃袋の内壁を指し、実際にはこのメニューにはペルシャ語でシールダーンと呼ばれる、牛の第4胃も含まれています。上の写真からもお分かりのように、牛の胃袋の内壁には数多くのひだ(内壁)が幾重にも連なっています。そのため、この食材はペルシャ語で1000の層または重弁胃を意味する「ヘザールラー」とも呼ばれています。また、栄養面での特徴として、ありがたい事にたんぱく質が一般の牛肉や鶏肉、魚肉とほぼ同じくらい含まれている一方で、カロリーはそれほど高くなく、血中コレステロールの増殖につながらない、という大きな利点も有しています。但し、スィルアービーの煮込みを作る際には、味付けに大量の塩を使うことから、このメニューは高血圧症のある人は摂取しないほうがよいそうです。

この食材を店頭で購入する際には、その本来の臭気とは別に、腐臭を放っていないかどうか注意する必要があります。さらに、テヘラン市内のある専門業者の話によりますと、夏と秋に屠殺された牛や羊は、新鮮な牧草を食してよく動き回っていたことから胃袋が全体的に白く、一方で冬と春にと殺されたものは備蓄された干草を食べ、放牧されていないことから全体的に暗い色をしているものの、品質には影響しない、ということです。そして調理前にはこの食材をよく洗い、また周辺に付着している不要なごみなどを完全に除去する必要があるとされています。それから、イランで生産されるこの食材は、国内で消費されるほか、余剰分はインドやパキスタン、ベトナム、香港などに輸出され、イランにとっては貴重な外貨収入源にもなっている、ということです。

実際に、この食材を調理用に自宅でさばいたことがあるという、ある知人の話では、この食材をさばく際にも調理時や食べる際、もしくはそれ以上の強い臭気を放つとのことです。さらに、普通の肉類を扱ったとき以上に強い匂いが残るため、この食材を扱った後は、室内の換気が必要なのはもちろんのこと、レモン汁や酢、洗口剤やコーヒーの粒などを使って手を洗わないと匂いがとれないそうです。

イランには、街中にこのスィルアービーを専門とするレストランがたくさん存在します。しかし、イランでも特にこの秋口から新型コロナウイルスが急速に拡大し始めたことから、政府がつい先日から全国規模で、飲食店などの営業停止や、車両の往来・通行規制を実施しているため、ここしばらくは専門のレストランで出来たてのスィルービーを食べることができなくなっています。この措置は、とりあえず2週間実施される予定だとのことですが、今後の状況次第では延長される可能性もあると聞きました。

テヘランから150kmほど離れたガズヴィーン市内のスィルアービー専門店のオーナーさん、料理長さんと常連のお客さん。コロナ関連規制前は、「スィルアービーのにおいたっぷりの湯気を吸っていれば、コロナ予防にマスクなんかいらないよ!」と誇らしげでした。

 

このメニューが大好物な人にとっては、現状では気軽に街中のレストランでスィルアービーを食べるのはしばらくお預け、ということになりそうです。イランでも、コロナの第3波がやってきており、この冬はイランにとってもコロナウイルスの更なる蔓延に加えてインフルエンザの流行も心配され、これまでになかった試練の冬を迎えることになると予想されています。

イランにはこのほかにも、日本の食材とは一味違った多種多様な食材が存在しますが、それについてはまた別の機会に譲りたいと思います。

次回もどうぞ、お楽しみに。

 

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