イラン南東部ケルマーン州の大自然めぐり(1)

 

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世界でよく知られた砂漠には、北アフリカのサハラ砂漠や、中国とモンゴルにかけて広がるゴビ砂漠、アラビア砂漠、中国西部のタクラマカン砂漠、アフリカ南部のカラハリ砂漠などがあります。皆様が砂漠と聞いて真っ先に連想されるのは、砂地がどこまでも続く砂砂漠ではないでしょうか。しかし、砂漠にもいくつかの種類があり、砂砂漠のほかにも岩山が続く「岩石砂漠」、小石で埋め尽くされた「れき砂漠」、塩分を含み表面が白く見える塩砂漠などがあります。イラン南東部ケルマーン州には、岩石の多いルート砂漠、ペルシャ語でキャビールと呼ばれる塩砂漠が存在しています。この州は、世界最高気温を記録する地域の一つであるルート砂漠を抱え、熱帯植物のナツメヤシの樹林が存在していながら、大変興味深いことに今年は久しぶりに山岳地帯での積雪が見られました。今回は、このケルマーン州の大自然についてご紹介したいと思います。

それではまず、ケルマーン州について、ごく簡単にご説明することにいたしましょう。先ず、ケルマーンという地名は、歴史的な史料によりますと、ローマ帝国時代のギリシャ語で「勇敢であること」、或いは「戦い」を意味するカルマニアに由来するとされています。ケルマーン州は、イラン南東部に位置し、総面積は18万平方キロメートルを超え、イランで3番目に広い州となっています。総人口はおよそ200万人で、この州の州都ケルマーンは、テヘランからおよそ1000キロ離れており、イランでも有数の海抜高度の高い都市とされています。また、ケルマーン州は品質の高いピスタチオとナツメヤシの生産地でもあるとともに、イランの元大統領を務めたハーシェミー・ラフサンジャーニー師の出身地でもあります。さらに、2003年の大震災で被害を受け、修復作業が進められているバムの城塞遺跡があることでも知られています。この州は、イランでも歴史の古い地域の1つであり、この地域に人々が住み始めたのは、紀元前4000年紀にさかのぼるということです。

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さて、今回は、夜行列車による旅となりました。夕方6時半にテヘラン駅を出発し、これから14時間近くに及ぶ長旅のスタートです。今回私が乗ったのは6人用の寝台車でしたが、かつて自分が小学生だったときに、九州へ家族旅行をした際に乗ったブルートレインが懐かしく思い出されました。私が覚えている限り、日本の寝台列車とそれほど変わらず、非常に快適でした。出発してから2時間ほどで、テヘラン州の南に隣接しているゴム州の中心都市、ゴムに到着。ここでまた新たにお客さんを乗せ、今度は次の停車駅であるイスファハーン州のカーシャーンに向かって走り出しました。同じコンパートメントで過ごすことになった、ほかのイラン人のお客さんとしばしおしゃべりに興じ、その日は車中泊。久しぶりの寝台列車でしたが、次の日の早朝までぐっすり眠ることができました。

さて、翌朝5時半ごろ、列車はケルマーン州内にあるザランドという駅に到着しました。車掌さんが大声で「ナマーズ、ナマーズ」と叫んでいます。「ナマーズ」とは、ペルシャ語で礼拝を意味しており、日の出前のお祈りのために、列車が停車しているのです。停車時間はおよそ20分。この間に、多くのお客さんが列車を降りて、駅構内の礼拝室に入っていきます。私も、外の空気を吸ってこようと、一度列車を降りてみました。まだ夜が明けていない暗闇の中で、煌々と明るく照らされた駅の中にある、絨毯の敷かれた礼拝室から、お祈りの文句を唱える声が朗々と聞こえてきます。このようなところにも、イスラム教国としてのイランのお国柄が感じられました。

さて、朝8時45分、テヘランからおよそ14時間ほどかかって、終着駅であるケルマーンに到着しました。テヘランから南におよそ1000キロ離れたこの町は、海抜高度が高いとはいえ、氷点下にまで下がっていたテヘランとは違い、小春日和です。ケルマーン駅から観光バスに乗り、ケルマーン市内にある大きなチェーンホテルにて、先ずは朝食を取りました。パンとバター、チーズ、ジャム、目玉焼き、紅茶などといった、イランのごく普通のスタイルの朝食に、さすがナツメヤシの名産地とあってナツメヤシも添えられています。また、テヘランでいつも食べているパンとは少々形状の違う地元独自のパンが出てきました。さらに、ケルマーン州の人々は、昼食や夕食の付け合せにもナツメヤシを食卓に載せるということです。朝食を済ませてから、再びバスに乗って、いよいよケルマーン州の大自然めぐりの始まりです。

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バスは、ケルマーン市内を抜けて、山岳地帯の中の車道に入っていきました。今年は、ケルマーン州でも雪が降っており、山々の斜面にはまだ雪が沢山残っています。残雪の山をいくつも抜けて、ケルマーン市内からおよそ80キロほど離れた、シャフダード行政区のスィルチという集落に到着しました。ここは海抜高度が1550メートルあり、ケルマーン州内でも気候が比較的穏やかなことから、夏には数多くの人々が保養にやってきます。また、この村は現代イランの著名な作家モラーディー・ケルマーニーの出身地でもあり、彼の生まれ育った家は現在も残されています。そして、この著名な作家の生家の近隣には、樹齢800年から1000年といわれる杉の大木が2本ならんで生えていました。高さは、20メートルはあるかと思われ、地上から7,8メートルほどの高さのところからは、くねくねと曲がった枝が沢山出ています。ケルマーン州内では唯一、イランの自然文化遺産に認定されているとのことでした。

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さて、スィルチの村を後にして次に向かったのは、近隣のシャフィーアーバードという村にある城砦でした。この城砦は、ガージャール朝時代に造られたもので、今から11年前にイランの国家遺産にも認定されています。現在は、建物のみが残っているだけですが、この城砦の内部には、地下水を引くカナートも造られており、当時はこの土地の支配者をはじめとする数多くの人々が住んでいたということです。この城砦から外を見渡すと、ナツメヤシの木が沢山生えているのがわかりました。遠くに見える残雪の山々を背景に、ナツメヤシの林が存在している風景は、何とも不思議に感じられたものです。1つの州において、これほど多様な自然が見られるのも、イランならでは魅力の1つかもしれません。

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次に訪れたのは、今回の旅のメインテーマの1つである砂漠の体験でした。ペルシャ語でルーデシェン、即ち砂の河と呼ばれる広々とした砂砂漠に案内され、しばしの間耳をすましてみました。しかし、ここには虫や鳥など、生物が全く存在していないこともあり、時折吹いてくる風の音以外にはしんとして何も聞こえません。都会では決して味わえない静寂さに、タイムスリップして別世界に来たように感じました。砂地の表面には、風が吹いて出来た天然の筋状の模様が、規則正しく連なっています。思わず裸足になって、一歩一歩砂を踏みしめながら歩いてみました。砂粒が細かいせいでしょうか、とても気持ちの良い感触です。中には、大の字になって砂の上に気持ちよさそうに寝転んでいる人もいました。冬のさなかだったこともあり、日差しはそれほど強くはなく、またそよ風が何ともさわやかです。灼熱の太陽が照りつける砂漠というイメージとは全く違った、静けさや砂地の心地よさを、この砂砂漠では存分に味わうことが出来ました。

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次回も、この続きをお届けいたします。どうぞ、お楽しみに

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