イラン中部・ゾロアスター教の中心地ヤズドを訪ねて(2)

 

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前回は、イラン中部の砂漠地帯にあるヤズド州と、その気候を生かした生活手段としての施設などを中心にお伝えしました。今回は、ヤズドを代表するゾロアスター教関係の施設についてご案内します

 

ゾロアスター教の中心地としてのヤズドとその経緯

 

前回触れましたように、ヤズド州は、イラン南東部・ケルマーン州などと並んで、イラン有数のゾロアスター教の本拠地として知られています。ゾロアスター教は、火を聖なるものとして大切にすることから拝火教とも呼ばれ、イラン古来の宗教として、サーサーン朝時代にはイランの公式の宗教に定められました。しかし、7世紀のイスラム軍の進出以来、イランには次第にイスラムの影響が浸透し、現在ではゾロアスター教は少数派の宗教とされています。とはいえ、完全にイスラム化したかのように見えるイラン人の生活には、今でもゾロアスター教の名残が残っています。春の新年ノウルーズの祝祭や冬至・ヤルダーの儀式を初め、イランのほかにお隣のアフガニスタンでも使われている太陽暦は、ゾロアスター教の思想を源流とするものです。それでは、イスラム教徒が多数派を占めるイランにおいて、ヤズド州ではなぜゾロアスター教の影響が比較的強く残っているのでしょうか。

これはやはり、ヤズド州が置かれている地理的条件が最大の原因であったといえます。7世紀にイスラム軍が進出してきた際にも、ヤズド州は砂漠地帯にあるために食糧や飲料水の確保が困難であることから、イスラム軍はここを回避し、ヤズドは難を免れることが出来たのです。そのため、本来はイラン全土に散らばっていたゾロアスター教徒が難を逃れて、安全とされるヤズドに集まってきたことから、ヤズドには他の都市に比べて比較的多くのゾロアスター教徒が住んでいます。現在、ヤズドには推定でおよそ4万5000人のゾロアスター教徒がいるとされ、この他イラン国内では南東部ケルマーン州、そしてインドにも多数の信者が存在しています。

ゾロアスター教神殿・アータシュキャデ
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それでは、ここからはヤズド州内にあるゾロアスター教関連の見所についてお話しすることにいたしましょう。まずは、ヤズド市内にあるゾロアスター教神殿です。ここは、ペルシャ語でアータシュキャデ、即ち火の家とも呼ばれ、今からおよそ80年ほど前にインドのゾロアスター教徒からも資金援助を得て建てられました。この建物の正面の上の方には、翼をつけたゾロアスター教の守護霊プラヴァシの像があり、この建物がゾロアスター教の寺院であることを示しています。守護霊プラヴァシは腰の辺りに輪をつけていますが、これは人々のつながりの輪、そして平和を意味し、結婚指輪の習慣はここからきたとする説があります。さらに、左右に広がる翼は3段に分かれており、これはゾロアスター教がモットーとする善なる思想、善なる発言、善なる行動の3本柱を意味しています。また、建物の正面には6本の柱があり、これはイスラム建築ではなく、イランの古都ペルセポリスの王宮建築のスタイルが取り入れられています。いざ、中に入ってみると、ガラス越しに聖火壇があり、火が片時も消えることのないように焚かれていました。ちなみに、この聖火は1500年以上絶やされることなく燃え続けており、今からおよそ70年ほど前にイラン南部の町シーラーズ近郊ナーヒド・パールスの村にあるゾロアスター教神殿から、他の町を経由してこの神殿に運び込まれたということです。ちなみに、一説によりますとオリンピックの聖火リレーは、ゾロアスター教で火を聖なるものとして大切にする習慣から来ているとされています。

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ゾロアスター教における火の位置づけ
それではなぜ、ゾロアスター教では特に火が大切にされているのでしょうか。今から1000年ほど前のイランの英雄叙事詩人フェルドウスィーが著した名作『王書』によりますと、今から4000年或いは5000年ほど前、古代のイランの2代目の王であるフーシャング王が狩猟に出かけたときのこと。フーシャング王は、獲物を射止めようと石を投げつけますが、それは獲物には命中せず、他の石に当たります。その瞬間に火花が散ったことから、人類は初めて火の存在を知ったというものです。火が存在しなければ、食物の調理もできず、また部屋の暖房なども使えず、また夜に灯りをともすこともできません。このように、火は人間にとって欠かせないものの1つであることから、ゾロアスター教では、火が聖なるものとして大切にされているということでした。また、火の他に、空気、大地、そして水が、決して汚されてはならないものとされています。

鳥葬に使用されていた「沈黙の塔」

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さて、ヤズド州内にあるソロアスター教関連の見所で決して見逃せないのが、ヤズド市の南東約15キロ離れたところにある、ダフメイェ・ザルトシュティヤーン、『沈黙の塔』です。これは、ゾロアスター教徒の鳥葬台であり、過去にはこの場所で実際に鳥葬が行われていました。現在は観光・見学用となっていますが、1930年代にパフラヴィー朝の王レザー・シャーが鳥葬を禁止するまでは、実際に使われていたということです。先にお話しましたように、ゾロアスター教では火、水、そして土が神聖なものとされていることから、それらを穢すことになる土葬や火葬ではなく、遺体を鳥葬場に安置して鳥が食べつくし、自然に還す方法がとられていたのです。さて、この塔は50メートルほどの高さを持つ堆積した小高い丘の上にあり、500メートルほどの間隔をおいて2つ設けられています。いずれも石造りで、外壁は泥で塗り固められており、屋根はありません。2つある塔のうち、古いほうは直径が15メートルあり、今からおよそ170年前に、インド人のゾロアスター教徒の学者マーンクジー・ハトリアによって建てられました。また、新しい方の塔は直径が25m、高さはおよそ6メートルあり、今からおよそ80年ほど前に造られており、ゴレスタン、即ちバラ園と呼ばれています。なお、この2つの鳥葬の塔は、悪臭や汚物が住宅地に飛散しないよう、風向きや降雨量を観測した上で市の郊外に設けられています。またこれらの塔を上空から見て、中央部は子供用、外壁に近い外輪の部分は男性用、その中間の輪に相当する部分は女性用だったということです。下の写真に示されているように、一番外側の水色の部分は男性用、緑色の部分は女性用、赤い部分は子ども用、中央部にある穴は残った骨を入れる部分だということです。

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ゾロアスター教の聖地・チェクチェク

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ヤズドには、イランで最も有名なゾロアスター教の聖地・チェクチェクがあります。チェクチェクとは、ペルシャ語で水が滴り落ちるポタポタという擬声音を表します。この聖地は、ヤズド市内から北西に70キロほど離れており、周辺を砂漠と荒野に囲まれています。ですが、この聖地には、湧き水の出る岩山が存在しており、この湧き水が滴り落ちる音が、そのまま地名になったということです。ここでゾロアスター教の行事が開催される毎年6月の末には、イラン国内の他、インドなど、外国のゾロアスター教徒たちも巡礼者としてここを訪れます。この聖地については、次のような伝説があります。7世紀の半ばごろ、サーサーン朝最後の王ヤズデギルド3世の娘の1人ニークバーヌーが、イスラム軍の攻撃を逃れ、この聖地のある岩山に隠れます。彼女は、ゾロアスター教の神アフラ・マズダに自分を山の中で守ってくれるよう祈リ、そのまま山中で消息を絶ちます。彼女が消息を絶った場所で、彼女の持っていた杖が大木となったとされています。この伝説の大木は実在しており、ゾロアスター教徒の間では聖なる大木とされ、大きな岩の間から生えていることから大自然の奇跡の1つとされています。ゾロアスター教徒たちは、ここから水が滴り落ちているのは、ここに難を逃れてきたニークバーヌーの涙であり、彼女はまだ生きていて姿を隠していると考えています。

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その他のヤズドの見所・「アレクサンダーの牢獄」

さて、ここまではゾロアスター教関連の見所についてお伝えしてきましたが、ヤズドにはこのほかにも数多くの見所があります。そのうちの1つが、『アレクサンダーの牢獄』です。牢獄と名前がついていますが、実際にはモスクやバザールのある複合施設です。建物の造りは、城砦のようになっていて、地元民の間では、アレクサンダー大王がイランを襲撃した際に、捕虜を収容するための場所としてこの牢獄を造ったといわれていますが、アレクサンダーの牢獄という表現を初めて使用したのは、14世紀のイランの有名な詩人ハーフェズです。ハーフェズは、イラン南部の町シーラーズに生まれ、シーラーズをこよなく愛したことから、その一生のうちに故郷を離れて旅に出たことは2回しかありませんでした。そのうちの1回はインド、もう1回はこのヤズドだったわけですが、ハーフェズはヤズドを訪れた際に、水の少ない荒涼とした砂漠が広がる光景を見て、住み慣れた町シーラーズと比較し、「我が心は、アレクサンダーの牢獄のような砂漠に震え上がった。荷物をまとめて、シーラーズに帰りたい」と詠ったとされています。

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ヤズドの著名なイスラム建築

ヤズドの見所としては、イランのイスラム建築も見逃せません。その1つはジャーメ・モスクであり、これは14世紀から15世紀にかけて建てられました。高さのあるアーチ型の入り口には、2本のミナレットが立っており、地上からの高さは52メートルで、ツインのミナレットとしてはイランで最高の高さを誇ります。トルコブルーを主体とした、細かいタイル装飾が印象的で、イスラム建築の傑作に数えられています。また、モスクやバザーのある複合施設アミール・チャクマクも見所の1つです。この複合施設は、15世紀にヤズドの支配者だったアミール・ジャラーロッディン・チャクマク・シャーミーが建設したもので、トルコブルーのタイル張りのドームと、2本のミナレットが特徴です。この施設には、かつて礼拝所のほかにもバザール、隊商宿、水をくみ上げる井戸、学校があったということです。ヤズドは、ゾロアスター教の町でもあると共に、高度なイスラム建築を誇る町であるといえるでしょう。

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また、今回ヤズドを訪問して気がついたことは、ヤズドでは焼き物作りも盛んであるということでした。ヤズド市内には、焼き物の工房もたくさんあり、花模様をあしらった皿などをはじめ、トルコブルーの食器類、壺、動物や鳥などの像は、ヤズドのお土産に最適です。

さて、今回はヤズド州の出身エルハム・フーシュファルさんから、特別ゲストとして一言、故郷ヤズドの魅力を語ってもらうことにしましょう。

-現在、テヘランで生活されているわけですが、大都会テヘランとヤズドの大きな違いは、どこにあると思いますか?
(フーシュファル) 最近、メディアや人々の間で議論されている大きな問題のテヘランの大気汚染、それに交通渋滞は、ヤズドには全くありません。これはテヘランとヤズドの大きな違いといえるのではないかと思っています

-フーシュファルさんから見て、ヤズドの一番の魅力はどんなことでしょうか。
(フーシュファル)私は、ヤズドの一番魅力は、その都市の伝統的な建築(建物)だと思います。ヤズドはご存知の通り、世界最大の日干し煉瓦の構造を持つ町なのです。

-普通のイラン料理と違うヤズドの郷土料理や、郷土銘菓がありましたら教えてください。
(フーシュファル)
”ヤズド”といえば、イラン人が何よりも先に思い浮かべるのはこの都市のお菓子かもしれません。ヤズドのいろいろな、またおいしいお菓子はイランのお菓子の中でも非常に有名で、どこでも知られています。ヤズドの郷土料理を挙げると、1つは”シューリー”です。”シューリー”はアーシュの種類の1つで、その材料は、ビートとその葉、ザクロソース添(ぞ)え、ソラマメ、粉と調味料となっています。もう1つは”アーシュ・シャルガム”が挙げられます。シャルガムはカブのことで、その他、小麦、野菜、独特の調味料が入っている料理です。

―子供の頃の故郷での思い出で、一番印象に残っているのは、どんなことでしょうか。
(フーシュファル)そうですね。私が10歳ぐらいだった時に、ノールーズ・お正月の休みの間、家族と郊外へ遊びに行くことにしました。そこは一世帯しか住んでない緑のある小さな村でした。その村の中心部には小さな湖があって、その中に小さな魚がいました。私と弟はその魚たちを見て、すぐバケツを持ち、魚つりをはじめました。両親は私たちに、「そのかわいい魚をとらないで。それらはその湖の水の中に住みついているはずだ。他の場所に連れて行ったら死んでしまうよ」と言いました。でも私たちは、「これらの魚を自分の家の庭の池に持っていきたい」と言って、結局その湖から魚を持ち帰りました。でもうちに着いたらやっぱり魚は全部死んでしまったんです。これは私の子供の時代で一番印象に残った思い出でした。

―最後に、日本人の皆さんに向けて一言、ヤズドをアピールしてください。
(フーシュファル) 日本の皆様!機会があれば、ぜひヤズドを訪問し、その魅力をお楽しみください

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2回にわたってお送りいたしましたヤズドの魅力はいかがでしたでしょうか。今後とも随時、イラン国内の見所をご紹介する予定です。どうぞお楽しみに。

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