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ナッツの女王・ピスタチオをめぐる話題

粒の大きい高品質のイラン産ピスタチオ。ビールのおつまみや喫茶の付け合わせにいかがでしょうか。

先月までの2回にわたり、日本ではおそらく知られていないと思われるイランの知られざる現実を、大自然の絶景や歴史、食文化、文化遺産、社会現象などの点から一気に公開してまりました。イランと一口に申しましても取り上げたい話題が非常に多く、切り口が広いことから、本当に一部のみを厳選した形となりましたが、そこではご紹介できなかったイランの魅力を、今後も随時取り上げご紹介してまいりたいと思います。

未知の国について知ろうとする場合、食文化への注目は最も入り込みやすいルートではないかと思われます。前回までにも、代表的なイラン料理であるイラン式焼肉とライス「チェロキャバーブ」をはじめ、日本にある材料でも作れそうなメニューに加えて、そのほかのイラン家庭料理の定番の数々をご紹介してまいりました。

ところでイランの食文化と言えば、家庭料理の他に多様性に富んだイランの気候風土によって育まれる食材、そして作物も注目に値すると思われます。中でも、カスピ海でとれるキャビアは、イランが誇る代表的な食材として特によく知られていると言えます。

そしてもう1つ、日本にはない乾燥した気候区を有するイランの食材の1つに、ピスタチオが挙げられます。日本でピスタチオと言えばアメリカ産のものがよく出回っているようですが、イラン産のものはアメリカ産にはない独自の風味と品質を有しています。また、多数の実をつけるという性質から、当然中には可食部の入っていない空の個体が生じる可能性もありますが、イラン産のピスタチオは外国産に比べてそうした可能性は極めて低いそうです。

もうかなり前のこのレポートで、イランで大量に生産されている食材としてナツメヤシをご紹介いたしましたが、今回は同じカタカナ5文字でイランが世界に誇る食品・ピスタチオにまつわる話題をお届けいたしましょう。

イランでは、ピスタチオは単独で食されるほか、ヘーゼルナッツやクルミなどと混合した乾燥ナッツ類の形式でも消費されています。

テヘラン市内のある乾燥ナッツ専門店の店先。複数種のピスタチオとともに、クルミやアーモンド、ヘーゼルナッツなど多種多様なナッツがキロ単位で販売されています。

 

まず、ピスタチオの概略についてご紹介しましょう。ピスタチオはウルシ科カイノキ属の落葉樹の1つで、現在のイランからアフガニスタンをはじめとする中央アジアが原産とされています。また、植物学者リンネの「植物の種」(1753)に記載された植物の1つでもあります。なお、日本では英語による名称・ピスタチオとして知られていますが、ペルシャ語ではぺステと呼ばれ、これが語源となっています。

ちなみに、緑葉が美しい観葉植物の1種にピスタチア(pistacia;ピスタキア、ピスタヒアなどとも)がありますが、これはウルシ科ピスタチオ属の常緑低木で、実を食べるピスタチオとは近縁種にありながら別種となっています。もっとも、ラテン語起源のこの名称はペルシャ語のpesteもしくは、pisteに由来するということです。

丸みを帯びた観葉植物のピスタチア。名称はよく似ていますが、ナッツを食べる方のピスタチオとは別種です。

話が少々それましたが、ここでまた本題に話を戻しましょう。ピスタチオは大型の樹木に以下の写真のような葡萄に似た多数の房状の果実が実ります。

葡萄の房のように実をつけたピスタチオ

さて、このように樹木に実った時点では、ピスタチオは銀杏やクルミなどのように柔らかい果肉(外皮)を有しており、これを除去して中にある硬い種子を割り、その中身を食べることになります。

収穫したばかりの果肉(外皮)のついたピスタチオの実

果肉を除去したピスタチオ。この後に多くは焙煎されます。

ちなみに、硬い種子を割って出てくる中身を、ペルシャ語ではマグズ(脳)と呼びますが、このことは特に、クルミの可食部が人間などの大脳の外見に類似していることからもお分かりいただけるかと思います。

また、ピスタチオナッツの実が熟すると、その実は鮮やかな黄紅色に染まった簿皮に包まれ、完熟すると外穀は自然に縦に割れた状態で収穫されます。

上の写真・右は、収穫したばかりの果肉付きのピスタチオです。また左側の写真で9段に並んだピスタチオのうち、中ほどの3段は果肉を除去した外殻つきの状態、そして下から2段目と3段目は外殻を剥いた薄皮つきのもの、そして最下段は薄皮を剥いた状態です。

ピスタチオの樹木は乾燥地帯に生育し、高さは10mほどにも及び、また雄と雌の木に分かれています。ピスタチオの雄株

ピスタチオの雄花

ピスタチオの雌株

ピスタチオの雌花

ピスタチオの生産性については、品種や生育する土地の気候風土などにより多少の差はあるものの、大体平均して1ヘクタール当たり年間1500kgから2000kg、1本あたりでは平均で100kgから200kgだとされています。

また、ピスタチオは種子を植えてから5~7年ほどで成熟し、実ができるようになります。最も多くの実をつけるのは15年目からで、20年目からは事実上の老年期に入り、最盛期よりは生産力が次第に落ちていくということです。ちなみに、ピスタチオの樹木の寿命は気候風土や灌漑、手入れの状態にも左右され、中には樹齢が100年以上に上る個体もあります。

さらに、収穫される実の品質向上のほか、乾燥した厳しい気候や病気に耐えうる頑丈なものにする目的で、接ぎ木が必須とされています。

また、ピスタチオの収穫の時期は地域によって多少のずれがありますが、大体7月下旬から9月下旬ごろとなっています。以下は、南東部ケルマーン州での収穫の様子です。

ピスタチオの樹木は十分な日照があれば、土壌にある程度の塩分が含まれている地域でも生育できます。まさにこの点で、特にイラン北東部から南東部に広がる砂漠地帯はピスタチオの生育に適しているといえます。上記の地図のピスタチオのマークがついている州が、イラン国内での生産地とされています。これらの州のうち、一番右上がホラーサーン・ラザヴィー州、その左隣がセムナーン州、右中ほどが南ホラーサーン州、その隣がヤズド州、そして一番下がケルマーン州です。

上空から見たケルマーン州内のピスタチオ園

ケルマーン州内のピスタチオ園

青々と茂るピスタチオの樹木

確かにその本来の性質上、ピスタチオは十分な日照りがあれば生育できますが、やはり商品・輸出向けに良質のピスタチオを生産する上で適切な灌漑は不可欠とされています。

ピスタチオ園での灌漑の様子(ケルマーン州)

なお、ケルマーン州ラフサンジャーン郡は特に有名なピスタチオの生産地として知られており、この地域の著名人にはイラン第4代大統領を務めた故ラフサンジャーニー氏がいます。ハーシェミー・ラフサンジャーニー元イラン大統領(1934~2017)

ラフサンジャーン郡は特に、乾燥した気候であり昼夜の寒暖の差が大きいことから、ピスタチオの生育に適しているとされています。全体的に、イラン産ピスタチオの絶妙な風味は、こうした寒暖差や湿度、低気圧など、地形や気候による環境によるところが大きいと言えます。

ちなみに、ラフサンジャーン郡には、樹齢1500年以上とされる世界最古のピスタチオの樹木が生息しています。高さは15メートル、幹の太さは3.5メートルにも及びます。

また現在では、ピスタチオの主な生産国としてはイランが世界一で全体の50%ほどを占める他、アメリカ、トルコ、シリア、中国、アフガニスタン、チュニジア、イタリアなどとなっていますが、イラン産のピスタチオは品質や生産量ともに世界一と言われています。

クリーム色の堅い殻の中から顔をのぞかせるピスタチオの可食部。赤みがかかった薄い皮も一緒に食べられます。なお、ペルシャ語で「ピスタチオの色」と言えば、黄緑色のことを指します。

薄皮を剥がしたグリーンピスタチオ。イタリアでは特に「食べるエメラルド」、「緑の金」などと評されている。

硬い外殻を剥いたピスタチオの可食部。普通は赤褐色の薄皮つきのまま食されます。

そもそもピスタチオは、古代トルコ、ペルシャなどの地中海沿岸地方の砂漠に自生していたものを、食用に栽培するようになり、その後植物愛好家が種子をローマに持ち込み、ヨーロッパに広まったとされています。

一説によれば、神がエデンの園の預言者アーダム(アダム)に10種類の皮つきの果実を与えたとされ、それらにはクルミ、ヘーゼルナッツ、アーモンド、そしてピスタチオが含まれていたということです。さらに、アラブのヘロドトスとして知られるイラク・バグダッド生まれのアラブ人歴史家・旅行家のマスウーディー(896~956)はその著作「黄金の牧場と宝石の鉱山」において、「アダムがエデンの園から出てきたとき、一握りの小麦と天国の樹木の枝30本を持って行き、そのうちの1つはピスタチオだった」と記しています。そして、ユダヤ教の聖典トーラにもピスタチオに関する記述があり、「預言者ヤコブは自分の子供たちがエジプトの宮殿に行くときには、ハチミツと天然のガム・トラガカント、そしてピスタチオを手土産に持っていくよう指示した」とされています。

さて、ここでイランのピスタチオの歴史について少々触れておきたいと思います。

世界最古とされるピスタチオの痕跡は、今からおよそ1000年ほど前にイラン南部ファールス州(ケルマーン州の西隣の州)ファサー郡で発見された、一部が焼け焦げている木片だとされています。この木片は現在、ファールス州シーラーズにあるパールス博物館に収蔵されています。

ギリシャの著名な歴史家ヘロドトスの著作にも、当時のイランですでにピスタチオの栽培が行われていたことが述べられています。このことから、イランでは少なくとも今から4000年ほど前からピスタチオが栽培されていたと推測され、一部には紀元前6500年ごろという説もあります。

また一部の史料によれば、イランの英雄叙事詩「王書」(フェルドウスィ作)の中の神話に登場する邪悪な統治者ザッハークは、ペルシア人を「ピスタチオを食べる人」と呼び、また紀元前に現在のイランを支配したイラン系民族のパルティア人は、幼少時からピスタチオを爽快感、強壮剤、軽量の食物として常に持ち歩いていた人々とされているということです。

さらに、イランの英雄叙事詩人フェルドウスィによれば、古代の末期、サーサーン朝の王は、敵の攻撃に抵抗できるよう、兵糧やエネルギー源としてピスタチオを、現在のイラン北東部ホラーサーン地方の砦に保管するよう命じたとされています。

ピスタチオにはビタミンC以外のすべての必須栄養素に加え、オメガ3脂肪酸も豊富で、3種類の抗酸化物質のほかにもたんぱく質、健康にいい脂肪、良質な炭水化物、食物繊維、ビタミンA、ビタミンB1など、1粒のピスタチオには圧倒的な量の栄養素が含まれています。特に、塩分の過剰摂取を抑制しむくみを抑えるカリウム、骨の形成を高め骨からのカルシウムの溶出を抑えるビタミンK,脂肪燃焼効果のあるビタミンB2,肌や毛髪の維持強化に欠かせないビタミンB6,便秘を解消し大腸がんを抑制する食物繊維、さらにはほぼすべての病気の原因となる炎症を抑えるポリフェノール、さらには貧血予防に効く鉄分,そして銅が豊富です。

«栄養成分表» ピスタチオ(いり、味付け)(100g当たり)    栄養成分情報 
エネルギー 617kcal ナトリウム 270mg 1.15mg
たんぱく質 17.4g カリウム 970mg ビタミンE 1.4mg
脂質 56.1g カルシウム 120mg ビタミンB1 0.43mg
炭水化物 20.9g マグネシウム 120mg ビタミンB2 0.24mg
 糖質 11.7g 3.0mg ナイアシン 1.0mg
 食物繊維 9.2g 亜鉛 2.5mg 葉酸 59μg
日本食品標準成分表2020年版(八訂)より

加えて、生のピスタチオは加工度が非常に低い食品とされています。近年においては、がんなどの生活習慣病の発病と加工食品・加工肉などとの関係が盛んにクローズアップされていますが、ピスタチオは、おそらくもっとも最小限に加工された食品の1つとされることから、加工食品の摂取を減らし、ひいては生活習慣病の予防に大きく貢献することが期待されています。ピスタチオは、木になっている間に自然に実が割れ、収穫用の機械により木の根元の周りに網やシールドを張って、木を揺さぶり実を落として収穫します。その後は原則的には乾燥用の施設に送られ、焙煎されるのみとなっています。但し、一部には生やロースト、殻付き、フレーバー付き、塩味つきなどがあるため、購入時には成分表をチェックして塩分の少ないものを選び、ナトリウムが1日の推奨摂取量の5%以下に抑えるようにするとよいと思われます。

このように、太古の昔から備蓄用の兵糧としても盛んに利用されてきたピスタチオは、現代人にとっても栄養バランスに優れ、積極的に取り入れたい食物と言えます。

さて、ピスタチオと一口に申しましてもいくつかの種類があり、一見どれも同じように見えても種類によって微妙な違いがあります。ここからは、ピスタチオを主な種類ごとに分けてご紹介してまいりましょう。

代表的なものは、以下の5種類です。

1.アウハディ別名ファンダキ―(「ヘーゼルナッツ状の」の意味)とも呼ばれ、ほぼイラン全域で生産されますが、ケルマーン州ラフサンジャーン郡産のものが多くなっています。他の種類のものよりも全体的に丸みを帯びていて、粒はやや小さめです。また早咲き、もしくは中咲きで早熟の傾向があります。果肉を除去した際に殻が開いている(ペルシャ語でハンダーン、「笑っている」の意)場合が多く、外殻は乳白色もしくはやや濃いめのクリーム色です。可食部に含まれる脂肪分は中程度とされています。

2.キャッレ・グーチー(「羊の頭」の意味)ピスタチオ各種の中でも特に粒の大きい種類とされています。この品種の特徴は、生産性が非常に高いことから手ごろな価格で入手しやすいことです。どちらかと言えば早咲きもしくは中咲きの傾向があり、外殻の色はやや濃いめです。主にドイツ向けに輸出されるほか、アラブ諸国への輸出が多くなってます。

3.アフマド・アーガーィーケルマーン州で主に生産される品種で、ハンダーンという別名もあります。他の種類よりも縦長で粒が比較的大きく(23ミリから32ミリ)、中咲き、晩熟とされています。風味が傑出しており、薄皮は濃赤で、外側はやや黄色味のかかったクリーム色です。イタリアなどのヨーロッパ諸国にも大量に輸出され、イラン国外の市場でも非常に好まれている品種です。

4.アクバリーイラン産ピスタチオの中でも最も有名な品種で、特に生産性が高く海外輸出向けの代表格とされています。全体的に縦長の傾向にあり、薄皮は紫色や茶色に近く、外殻は濃いめのクリーム色の傾向があります。ケルマーン州のほか、北東部ホラーサーン地方、テヘラン東部セムナーン州でも生産されます。非常に見栄えがよいことから、特にアラブ圏の富裕層にも好まれるほか、他のナッツ類との混ぜ合わせにも適しています。

5.バーダーミー(アーモンド状の、の意)別名・白ピスタチオとも呼ばれ、上の写真のように外側が白っぽいことが特徴です。ケルマーン州の他、ホラーサーン地方、さらには中部ヤズド州などでも生産されています。その名の通り、全体的にアーモンド状で粒は小さめです。価格的にも非常に手ごろなものとなっています。

ちなみに、イラン固有の薬草・植物からとれた産物を輸出する企業PERSIAN HERBS CO.LTDが発表している表では、以下のように分類されています。

以上の代表的な5種類に加えて、ピスタチオにはこのほかにも、筆者が在住している西部ガズヴィーン産のガズヴィー二―、テヘラン東部セムナーン州ダームガーン郡のハンジャリー・ダームガーン、ケルマーン州ラフサンジャーン郡ヌーク地区産のセフィードヌーク、ムムターズなどの品種があります。

このように、イラン国内の広範な地域で生産されるピスタチオは、イランではそのままナッツとして食されるほかにも、粉末にして牛乳に混ぜたり、お菓子作りや調理にも使用されています。それでは最後に、ピスタチオを使った料理やお菓子の例をご紹介し、今月のレポートを締めくくることにいたしましょう。

細長く切ったピスタチオやレーズンなどを使った炊き込みご飯

米飯の上に肉とピスタチオ、レーズン、アーモンドなどで鮮やかに

ピスタチオとクルミ、鶏肉を使った煮込み料理

ピスタチオとざくろを使ったサラダ

干した食用バラやアーモンド、ピスタチオで装飾したイラン式デザート・カーチー

 

中部イスファハーンの郷土銘菓・ギャズ

ピスタチオの粉末を使ったロールケーキ

割ったピスタチオを散りばめたクッキー(左)とピスタチオ粉末の生地によるクッキー(右)

ピスタチオを使ったチーズケーキ。抹茶ケーキにも似ています。

このように、ピスタチオは単に乾燥ナッツとしてそのまま食するほかにも、お菓子作りのほか、その生産国であるイランでは調理にも使われるなど、その用途は多岐にわたります。そこで、来月のこのレポートではピスタチオを使ったイランの家庭料理の1つをご紹介してまいりたいと思います。最近では、日本でも乾燥ナッツのコーナーなどでピスタチオが入手できる大規模スーパーなども増えてきているようですので、是非皆様にもピスタチオを使ったイラン料理をお楽しみいただければと思います。どうぞ、お楽しみに。