第8回テヘラン菊フェスタの会場で色とりどりの菊に見入る来場者
会場となった国立植物園に一面に咲き誇る「菊の絨毯」
早いもので、2024年もあと10日ほどとなりました。あれほど盛んに報じられていた暑さもすっかり過ぎ去り、日本と比べてやや短いと思われる秋も過ぎて、イランでも多くの地域から本格的な寒さの到来や積雪のニュースが舞い込んできています。
これまでにも本レポートでは、一般的なイランのイメージとしてはどちらかというと思い浮かびにくいと思われるテーマをたくさん取り上げてまいりました。おそらくこのレポートをお読みくださる皆様にとりましては、避暑地や紅葉、滝、茶摘み、田植えといったものはイランのイメージとは結び付かないと思われたかもしれません。
しかし、イランにはこうした要素のみならず、意外や意外と思われる側面がまだまだ数多く存在します。その1つとして、今月はテヘランで先ごろまで開催されていた「菊フェスティバル」の様子をお届けしたいと思います。「菊の花」といえば、真っ先に日本や中国などの東アジア圏のものと連想される方は決して少なくないのではないでしょうか。実際に、菊は中国を中心とする東アジア原産のものが多く、一部がヨーロッパ北東部の原産といわれ洋菊として知られています。菊は日本には奈良時代に僧侶により伝来し、日本でなら供花や献花に使われるほか、「重陽の節句」「菊人形」などで親しまれ、和歌にも謡われ、天皇家の菊花紋章としても有名です。さらには、日本政府発行のパスポートの表紙にも菊のマークがついていることなどから、菊の花は日本人や日本の文化に深く溶け込んでいます。菊の御紋でお馴染みの日本政府発行の旅券の表紙
しかし、東アジアから遠く離れたイランにもガージャール朝時代(1796~1925)に菊が伝来したと言われ、ペルシャ語でも菊はGol-e Davudiと呼ばれ、著名な植物として認識されています。
筆者は先日からまたイランにまいりまして、今月はイランからお届けしております。通算して24年間イランに滞在経験のある筆者自身も実のところ、イランに「菊フェスティナル」があるとは最近まで全く把握しておりませんでした。それがこのほど、ある伝でテヘラン菊フェスティバルが開催されていたことを知り、非常にインパクトを受けました。そこで今月は、去る10月22日から今月15日にかけて、テヘランにある国立植物園で開催されていた「第8回菊フェスティバル」の様子をお届けしてまいります。
会場には多数の見学者が来場
花壇の手入れをする職員
ちなみに、このフェスティバルは入場無料で、テヘラン在住者であれば、日本でいう集会所や公民館などのような最寄りの公的な場所で、無料の入場券を入手できます。関係者の話では、テヘラン市観光本部は昨年から国立植物園に多くの見学者を招待する特別プログラムを実施しています。従来までは毎年、テヘラン市の補助により、さまざまなイベントの開催期間中、テヘラン市民に対してはこの植物園の入場券が50%割引で提供されていましたが、今年は前述のように最寄りの集会所や公民館などで無料の入場券を入手でき、国立植物園の菊祭りを見学できるようになっています。
この国立植物園の研究部門の関係者はこの庭園の大きな特徴について、ここには57年間にわたって22の温室が設置され、またこれほど多くの植物に絶え間なく水分を与えるのに6つの深井戸が使われていることを挙げています。
小さな手でスマホを操作する少女
今年で8回目を数えるテヘラン菊フェスティバルは、イラン森林・林野研究所の協力で毎年開催されています。テヘラン市西部チートギャル公園内にある国立植物園の4000平方メートルの広い敷地が会場となっています。関係者の話によりますと、この広い会場には実に530種類以上、100色もの菊が植えられており、まさに「菊の絨毯」が出来上がっています。
イランの新聞ハムシャフリーによりますと、テヘラン国立植物園は中東最大かつ、中東初の植物園で、国立庭園としては世界で5番目の規模を誇るとともに、植物種の多様性においては世界第3位にランクされている、とのことです。
また、会場のある関係者の話では、ここで栽培されている菊のほとんどは、2016年にイラン中部マルキャズィ州マハッラート郡がら持ち込まれたものだということです。ちなみに、マハッラートはイラン国内有数の花の栽培で知られ、「イランのオランダ」とも評されています。
あまりに見事な「菊の絨毯」を目の前に、思わずここが本当にイランなのかと錯覚してしまうほどです。しかし、ここは紛れもなくイランであり、多くの来場者が感銘を受けています。訪れる人々は老若男女問わず、誰もが色鮮やかな光景に見入り、菊の花が醸し出す絶景を思い思いに自身のカメラやスマホに収めています。一面の菊を背景に撮影に興じる2人の女性
お気に入りの菊を見つけて一心不乱にスマホに収める女性
色とりどりの一面の菊を熱心に撮影;「とにかく、色とりどりの一面の菊と、何とも言えないほのかな香りに、思わず今が秋だということを忘れてしまいそうです」
「この色鮮やかな光景を1枚でも多く撮っとこうっと!」
菊畑を1人静かに歩く女性。「とにかく、あまりにきれいですっかり見とれてしまうわ」
「きれいだわね。散歩だけでも最高よ」
きれいな菊に囲まれながらの読書(?)にふける女性
会場内の休憩所の一角で談笑する女性たち。中央にかけられたピンク色の幕には、赤い文字で「第8回秋の菊フェスティバル」とペルシャ語で書かれています。
もちろん、この見事な「菊の絨毯」に感銘を受けているのは決して女性ばかりではありません。若い男性や中高年の男性、子供たちも一面に咲き乱れる菊にインパクトを受けている様子が見られました。懸命に自撮りする男性;「これは絶対に写真に収めておかないとな」
一面の菊にスマホを向ける2人の青年;「どこから撮ろうかな?」
色とりどりの菊に見入る父と子。「ほーら、すごいきれいだね」
真剣な表情で撮影する男性;「今回を逃したら、また来年まで見れないからね」
鮮やかな菊を背景に3人一緒にポーズ。「3人ともちゃんと画面に入るかな」
「僕が写真とる!」小さなカメラマンが一生懸命スマホを構えています
菊の中にたたずむ男性。一面の菊に何か思うところがあるようです。
お母さんと一緒に。「はい、ポーズ」
「すっげーなー!最高じゃん」:自然が醸し出す美しさは男女や年齢を問わず、誰もが魅了されるものです。
菊を背景に息子をスマホに収める男性。「どれ、距離感を調節しよう」
菊の中の道を歩く夫婦;「個人的なガーデニングじゃあ、ここまではできないだろうね」
「わー、きれいだ!摘んじゃおう!」、「ここのは摘んだら駄目だよ」;色鮮やかな菊を目の前に子どもたちも大喜びです。
菊の絨毯を眺めながら談笑する2人の男性;「いやー、とにかく見事だね」
会場内の一面の菊のあまりの見事さに、場内の管理や手入れなどに当たる作業員までもが、思わず「菊の絨毯」に見入っている様子も見られました。「うーん、まさに絵にも描けない美しさ、だね」
ちなみに、この国立植物園には菊のほかにも、イラン北部ヒルカニア樹林や南西部ザグロス山脈、北部エルブルズ山脈などに生息するイラン在来種の多数の植物のほか、さらには日本や中国、コーカサス地方を原産とする外来種の植物のセクションも設けられているということです。
最後に、このフェスタのある関係者は「コロナ禍も収束し、また以前と同じように色々なイベントや集まりごとが開催できるようになりました。今後とも恙なくこのイベントが毎年盛大に開催され、またイランにおけるこうしたイベントの存在が皆様により広く周知されることを願っています」と語っていました。
今年も毎月、いわゆる一般的なメディアではあまり見られそうにないと思われる題材を求めてレポートを発信していくうちに、あっという間に過ぎ去ったという感がいたします。通算24年にわたりイランに滞在経験がありながらも、それまで知らなかったイランの新しい情報が次から次へと出てくる現状を目の当たりにして、本当にイランという国は幅広く、そして奥深い国だと改めて痛感させられました。現在、イランの周辺国では政変や戦争などに見舞われている中、イラン国内はいたって平穏で日常生活が営まれているほか、魅力的なイベントが開催されています。
時々刻々と目まぐるしく激動していく世界にあって、イランも20年前、10年前、そしてコロナ前と比べて大きく変貌していることは間違いなく、これからも従来までにはなかったイランの新情報をたくさんお届けできますことを希望しております。
本年も、拙レポートをお読みいただき、読者の皆様には改めて篤く御礼申し上げる次第です。そして来る2025年も、イランと日本を行き来しながらホットな情報をいろいろな角度からお伝えしてまいります。それでは、新春のレポートでまたお会いしましょう。