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イラン南東部ケルマーン州の大自然めぐり(2)

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今回も前回に引き続き、先日行ってまいりましたイラン南東部・ケルマーン州の大自然の魅力についてお届けいたします。前回で少々触れましたように、このケルマーン州にあるルート砂漠は、最高気温の世界記録を出した地点の1つとされ、日本では決して見られない大自然の魅力を味わうことが出来ます。

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植物の生えるこんもり茂った小丘「ネブカ」

今回は先ず、ペルシャ語でネブカと呼ばれる、ケルマーン州独特の自然現象についてお話したいと思います。この自然現象は、植物が生え湿り気を含む土壌が、風に浸食されて起こるものです。言い換えれば、風による大地の侵食が植物により阻止されることで、植物の根元の周辺に砂が溜り、植物が一番上に生えた、小さな丘のようなものが出来た状態を指します。今回、見学したのはケルマーン市内から西に100キロほど離れた、シャフダードという町の近郊に存在するネブカの一群でした。ギョリュウ、或いは英語でタマリスクと呼ばれる樹木の根が地上に浮き上がったような形で、その周りに砂が溜まり、こんもりとした丘のような状態になったものが、見渡す限り延々と続いています。1つの丘には、1本或いは複数のタマリスクが生えており、1つ1つの丘の高さは、平均すると2,3メートルほどでした。周囲の長さは10メートル近くはあったでしょうか。根の周りに砂が堆積していくことにより、その植物は土中に埋まらないよう上に向かって成長を続け、一方でその植物の根は、地下水のある地層にまで達しています。しかし、地下水が途切れてしまっている場所では、ネブカを形成している植物が水分を吸収できないため、植物が枯れ、最終的にネブカそのものが消滅してしまうことになります。ネブカというこの自然現象は、長期間にわたり、或いは永久的にその地域の地層や地下水の変化、水分の蒸散、蒸発、風による砂の堆積の増減に影響を与えます。なお、ネブカよりさらに大きいものはレブドゥーと呼ばれ、ケルマーン州のルート砂漠に存在するレブドゥーには、地面からの高さが10メートル、周囲の長さが40メートルに達するものもある、ということです。

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ルート砂漠名物の砂城・キャルート

さて、今回の大自然めぐりの最大の目的は、ルート砂漠の西部に南北に250キロ、東西70キロの範囲に渡って広がっている、天然の砂城です。これらは、ペルシャ語でキャルートと呼ばれ、石灰と塩分、粘土を含んだ、シルトという砕石物が堆積したものが、風によって浸食されてできたものです。壁や塔のような、さまざまな形をした砂城の高さは、数メートルぐらいのものから、最も高さのあるものでは70メートルにも達する、とのことでした。塩分を含んでいるところは、筋状に白く、くっきりと見えました。どこまでも広がる砂地の至るところに、何とも不思議な形をした砂の塔や壁のようなものがいくつも並んでいて、遠くから見ると古代遺跡のような建物が連なっているように見えます。よく見ると、侵食されて傾斜が急になっている所と、そうでないところがあり、傾斜が急になっている部分は、風が吹いてくる方向であり、侵食が激しいということです。今回、3時間ほどかけてそうした砂城の間を歩いてみることにしました。生物は勿論、植物も生息していない、人気のない砂地を一歩一歩踏みしめながら、ふと後ろを振り返ると、自分の足跡が遠くから続いていました。日本では見られない砂漠にいる、という実感がこみ上げてきます。目の前には、大小さまざまな砂城が聳え立ち、その下に誰も立ち入っていないと思われるまっさらな砂地が広がる風景は、本当に大自然の絶景というに相応しいものでした。段丘のような形をした砂城もあり、かなり高いところまで見学者が上って、手を振ったり写真を撮ったりしている光景も見られました。それ以外には、時折風が吹いてくる他には、しんとして物音一つ聞こえません。思わず、日ごろ耳に無意識のうちに入ってくる雑音を忘れ、心が休まる思いでした。自動車のクラクションや携帯電話着信音などの、人工的な音が全く聞こえてこないひと時が、本当に貴重に感じられました。

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塩分の結晶が織り成す多角形の幾何学模様

ケルマーン州にある、もう1つの大自然の魅力は、ほかの土地から洪水などで流れてきた、塩分を含む雨水が広い場所に溜まり、その水分が蒸発して塩分の結晶が織り成す、多角形の幾何学模様の広がるパノラマショーです。塩分の結晶が盛り上がって出来た線が、幾重にも連なって幾何学的な模様を作り出しているのです。ほぼ規則的な幾何学模様の場合もあれば、不規則な多角形が続いていることもありますが、いずれの場合も何とも言えない独特の風景を生み出しています。こうした自然現象はほかにも、かなり前に訪れたイラン中部のキャビーレ・メスルと呼ばれる塩砂漠などで見られますが、今回特に目を引いたのは、塩分の結晶による多角形の一部が地面からはがれて浮き上がっていたことでした。地元の方のお話によりますと、このような現象は、先に見学したキャルートと呼ばれる砂城の間に挟まれたスペースに、塩分を含んだ雨水が溜まった際に、両側からの自然の圧力により起こるということです。さらに、塩分の結晶が鍾乳石のように尖っていたり、カリフラワーのような形状をしているものもあります。雪ではなく、塩分による銀世界が広がる不思議な光景に、多くの見学者がしきりにカメラのシャッターを切っていました。

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また、この土地のもう1つの見所として、ルーデシュールと呼ばれる、世界一塩分濃度の高い河川があります。この河川は、ケルマーン州の北西に隣接する南ホラーサーン州・ビールジャンド郡にある山岳地帯を水源として、ケルマーン州のルート砂漠を流れており、全長は200キロにも及びます。この河川の岸辺に下りてみると、一面が塩分で真っ白に埋まり、独特の光景を生み出していました。今回は偶然にも、この河川の水量が少ない時期に当たる為、川岸に塩分が溜まっており、逆に水量の多い時期には、塩水が溢れ出して塩湖ができるそうです。さらに、この河川は先にご紹介した砂城のある地域を流れ、砂城に塩分と湿り気を与えていることから、砂城が強固で崩れにくくなり、その状態を維持する上で大きな役割を果たしている、ということでした。そして、当然のことながら、この河川の水とその周辺には、かなり濃度の高い塩分が含まれているため、植物や昆虫などをはじめとする生物は全く生息していません。

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ユネスコ世界遺産のイラン式庭園の1つ「シャーザーデ庭園」

さて、今回の旅行は、大自然巡りが主な目的でしたが、ケルマーン州には自然の景勝地の他にも数多くの名所旧跡が存在します。今回はその中の1つで、ケルマーン市近郊の町マーハーンにあり、ユネスコの世界遺産にも登録されているシャーザーデ庭園をご紹介したいと思います。この庭園は、イランでも有数の美しさを誇る庭園であり、総面積はおよそ5.5ヘクタールに及び、ガージャール朝時代の末期に造られました。この庭園の入り口の建物から敷地内に入ると、階段状に水が流れ落ちる池が200メートルほどにわたって続き、その両脇に樹木が植えられています。

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この庭園は、夏には噴水が見られることもあって、イラン各地から多くの観光客が訪れるということです。敷地内にある一番奥の建物は、かつてはこの土地の為政者が住んでいたところであり、現在はレストランになっています。ところで、この庭園の入り口の建物に注目して見ますと、建物の下半分は普通のイスラム建築のようにタイルが張られているのに対し、上半分はタイルを張る前の漆喰張りの状態になっており、タイル張りの作業が途中で中断されたままになっています。これについては、次のようないきさつがあります。この問題の建物はそもそも、今から130年ほど前に当時ケルマーン州の為政者だった、アブドルハミード・ミールザー・ナーセロッドウレの命令により建設作業が進められていました。ところが、タイル張りの作業が半分まで終了したところで、為政者ナーセロッドウレは急遽この世を去ります。この知らせを受けた職人たちは、作業に使っていた道具を壁にたたきつけ、作業をそのまま放置してここを去っていった、ということです。それ以来、この建物は現在まで、そのままの状態で残されています。

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さらに、ケルマーン州にはこの他にも数百に上る名所旧跡が存在しますが、これらについては別の機会に譲りたいと思います。

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ABOUT ME
yamaguchi
IRIBイランイスラム共和国国際日本語通信でニュース翻訳のほか、イランのことわざを週2回紹介しています。20年以上にわたりイラン滞在の経験があり、2016年からはイラン人の夫とともにテヘランから西に150kmほど離れたガズヴィーン州に滞在していました。現在は、イランと日本を行き来しながら、日本の皆様に普通のメディアには出てこないようなイランのホットな情報をお届けしています。