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秋の虹・イランからの紅葉だより

北部ギーラーン州ヘイラーン峠の見事な紅葉;日本のいろは坂に類似

西部ハメダーン州最大の湿原・アーグゴル湿原

日本では、秋と言えば夏の暑さが落ち着いて学業や就労もしやすく、芸術やスポーツの秋といわれるような爽やかなシーズンとされています。さらには「秋の夕日に照山もみじ」、「真っ赤だな 真っ赤だな ツタの葉っぱが真っ赤だな」といった唱歌などにも歌われているように、紅葉という大自然によるイベントが楽しめる時期ではないでしょうか。ですが、温暖湿潤気候区にあるそうした日本ばかりでなく、全体的には大陸性の乾燥気候区にあるイランでも秋の美しさがみられることは、果たしてどの程度知られているでしょうか?

前回のこのレポートでは、真夏の暑さの中でも冷房器具なしで快適に過ごせる、イラン国内の数々の避暑地をご紹介いたしました。日本の約4倍半もの広さを誇るイランは「砂漠、暑い国」という一般的なイメージとはかけ離れ、日本ではおそらくあまり知られていないと思われる要素が沢山存在します。特に島国である日本とは大きく異なり、イランは大陸性の気候であることから一般的なイメージよりも寒暖の差が大きく、夏は50℃を超える地域がある一方で、冬は氷点下という地域は決して珍しくありません。また、筆者のこれまでの在留経験からすると首都圏・テヘランでは、春と秋が比較的短く、陽気のいい時期はあっという間に過ぎてしまう感じがします。一方で、先だってご紹介したような夏でも涼しい地域をはじめ、秋の紅葉、紅葉狩りを楽しめる地域もたくさんあります。猛烈な暑さも一段落し、あちらこちらで秋の便りが聞かれる今、今月は是非、このレポートにてイランでの紅葉狩りをお楽しみいただければと思います。北部から北西部、西部などにかけて広範囲で楽しめるイランの紅葉

 

さて、イランで紅葉が美しいとされ、かつ首都圏からも秋の行楽地として気軽にアクセスできる地域としては、やはりカスピ海沿岸の北部地域が絶大な人気を集めています。そこでまずは、日本とほぼ同様の降雨や気候にも恵まれている緑豊かな北部地域の紅葉の様子をお届けしましょう。

特に、カスピ海南岸一帯に位置するイラン北西部アルダビール州、北部ギーラーン州、マーザンダラーン州、ゴレスターン州、北ホラーサーン州、さらには隣国アゼルバイジャンにかけて広範囲に広がるヒルカニア森林群はユネスコ自然遺産にも指定され、その見事な紅葉は実に驚くべきものです。上空から見たヒルカニア森林群。赤、黄、緑の三色に美しく彩られた森林の中を街道が通っています。茶色い落ち葉と緑の苔の調和が見事です。赤いじゅうたんの敷かれた「黄色のトンネル」の中を歩くような様子を連想させます。一面に広がる落ち葉の絨毯に、思わず寝転がりたくなります!多数の木々の影が独特の光景を生み出しています。秋晴れと白雲に映える植物

では今度は、このヒルカニア森林に所属する地域を個別にのぞいてみたいと思います。特にカスピ海に面したギーラーン州、マーザンダラーン州、ゴレスターン州などの北部地域には紅葉の名所が目白押しです。

ギーラーン州アラスの女性。色鮮やかな地元独特のスカーフでポーズ

マーザンダラーン州アーモルにて。紅葉真っ盛りの秋の行楽を楽しむ家族

カスピ海南東岸(イラン北東部)ゴレスターン州ナーハ―ルーホラーン森林公園内の四阿でくつろぐ人々

ナーハールホラーン公園内の紅葉の中で回る観覧車

真っ赤な「落葉の絨毯」の上を自転車で通り過ぎる人(ナーハールホラーンにて)

ナハ―ルホラーン森林公園は、ゴレスターン州の中心都市ゴルガーンの南約4kmの地域に広がっています。ちなみに、ナハ―ルホラーンとはペルシャ語で「昼食を食べる人々」を意味します。それはその昔、この地域がサウジアラビアのイスラムの聖地メッカへの巡礼に行く人々や隊商にとっての通過点となっており、ここで昼食を初めとする食事・休憩をする人が多かったことから、この名がついたと言われています。

以下、ゴレスターン州内の秋の一コマをいくつかご紹介しましょう。

紅葉の中のシーラーバード滝

爽やかな森林の中で写生をする女性。まさに「芸術の秋」です

一面の落ち葉の絨毯の上で自撮りを楽しむ人々

森林の中の小道を1人で歩く男性。ウィーン北部ハイリゲンシュタットにある散策路を歩くベートーベン、のようなイメージでしょうか

ジョギングをする女性。「スポーツの秋」を思わせる光景です

では次に、隣接のマーザンダラーン州、ギーラーン州、アルダビール州に視点を移してみましょう。

マーザンダラーン州ラームサルから30kmほど離れたダールハーニー樹林;別名「イランの天国回廊」。赤く染まった落葉が積り、その両側に見事な紅葉の木立が並ぶ樹林内の並木道の絶景

ちなみに、ラームサルといえば、「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」、つまり通称ラムサール条約が1971年に採択された町として有名です。

マーザンダラーン州ヌール郡にあるエリマーラート湖;紅葉した樹林がダム湖の湖面に映り、絶景を醸し出しています。

マーザンダラーン州内でも、チャール―ス市はテヘランから最も近いカスピ海沿岸都市と言われています。テヘランからこの町につながるチャール―ス街道はまさにイラン有数の紅葉の見どころでもあり、上空から見ても、実際にここを走ってみても実に見事な紅葉を満喫できます。紅葉真っ盛りの中に雲がかかるチャール―ス街道

チャール―ス街道の「紅葉のトンネル」

国内有数の落差を誇るラートン滝(ギーラーン州)

民家の窓格子の美しい「天然の装飾」(北西部アルダビール州)

紅葉途中の森林の中に切妻屋根の家屋が(ギーラーン州)

紅葉と木漏れ日の共演(アルダビール州)

深緑色の湿原と紅葉が見事にマッチ(ギーラーン州)

緑の山肌に紅葉した一面の灌木、低空に浮かぶ雲の絶妙な組み合わせ(北西部アルダビール州)

アルダビール州ハルハールに通じるアサーレム街道;「ギーラーンの楽園」の異名も

北西部・東アーザルバーイジャーン州アラスバーラーン樹林の中を通り抜ける山道

落葉の中の結婚写真。ジューンブライドの方が有名かもしれませんが、爽やかな秋の結婚式も乙です(ギーラーン州にて)

さて、ここまでは主にイラン北部を中心にご紹介してまいりましたが、それ以外にもイラン国内には紅葉狩りができる多くの地域が存在します。いわゆる名勝のほか、ごく普通の公園や自然環境の中にも、イランの美しい秋が見て取れます。以下に、そうした見どころの他にも、日常生活に見られる「イランの紅葉」をご覧ください。

西部ロレスターン州の中心都市ホッラマーバード

ホッラマーバードから65km離れたビーシェの滝。赤く染まったもみじと見事に調和

童心に帰って落葉遊びに興じる女性たち(西部ハメダーン州)

「読書の秋」はイランでも共通のようです。(中部イスファハーン州チャハ―ルバーグ公園にて)

見事な「黄色いトンネル」の中を歩く人々(イスファハーン州チャハ―ルバーグ公園にて)

東部セムナーン州シャーフルード郡の「雲の樹林」;樹林の紅葉のそばに迫る雲海

そして、期間的には日本よりやや短いながらも、テヘランの秋の美景も見逃せません。国内最大の人口を抱えるテヘランでも、大きな公園などを中心に紅葉が楽しめます。

メッラト公園内の黄葉のトンネルと紅葉の絨毯を散歩

多数の高層ビルや様々な施設、住宅街の中の紅葉

紅葉に囲まれたサアダ―バード宮殿(市内北部)

ポレタビーアト橋を彩る黄葉(市内中心部)

市内中心部を走る高速

とにかく、イランの国土は日本の4倍半と非常に広大であることから、紅葉で知られる地域のみを見て回っても相当に広範な範囲に及び、それこそ紅葉狩りツアーが組めそうな感じさえします。テヘランを中心とする首都圏では日本と比べて春と秋が比較的短く感じられるものの、今回ご紹介した地域では存分に秋の爽やかな陽気と紅葉を目いっぱい楽しむことができます。よく、海外旅行案内では、それぞれの国や地域について旅行に最も適したベストシーズンが紹介されていますが、イランでは決して春や夏のみならず、紅葉が楽しめるシーズン・地域もあるほか、先月ご紹介したような真夏でも快適に過ごせる場所も少なくありません。また、これから冬に向かっていく中で、テヘランなど他の地域では寒くとも、ペルシャ湾岸地域を初めとする南部では快適な陽気の中で過ごせる地域もあります。このレポートでは今後、こうした話題も是非取り上げていきたいと思います。どうぞ、お楽しみに。

ジャムシーディィーエ公園にて(テヘラン市内)

マーザンダラーン州を走るラール街道の「秋の虹」

ABOUT ME
yamaguchi
IRIBイランイスラム共和国国際日本語通信でニュース翻訳のほか、イランのことわざを週2回紹介しています。20年以上にわたりイラン滞在の経験があり、2016年からはイラン人の夫とともにテヘランから西に150kmほど離れたガズヴィーン州に滞在していました。現在は、イランと日本を行き来しながら、日本の皆様に普通のメディアには出てこないようなイランのホットな情報をお届けしています。