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世界のどこの国においても、結婚式は一大イベントであり、結婚して家庭を持つことは人生の大きな転換点、そしてプラスに向けたステップと考えられているのではないでしょうか。イランは、人口の大多数をシーア派イスラム教徒が占め、結婚式を初めとする冠婚葬祭の大半はイスラム教の習慣に基づいて行われます。しかし実際には、イラン国内には少数派としてアルメニア系のキリスト教徒やユダヤ教徒、ゾロアスター教徒などの人々もおり、こうした人々はそれぞれ自分たちの宗教や習慣に基づいて冠婚葬祭を実施します。また、地方によっても違いが見られますが、今回は、イランでの一般的な婚礼のしきたりについてお話することにしましょう。
(イランの地方都市での家庭結婚式の様子)
イランにおける結婚の種類は、日本のお見合い結婚に相当する、紹介による結婚と恋愛結婚の2種類に大きく分かれます。特に、昔のイランでは、結婚相手は親が選ぶものとされており、適齢期の息子を持つ親(特に母親)が親戚や知り合いなどを当たり、自分の息子に見合いそうな適齢期の女性を見つけ、娶わせるという方法が主流でした。現在でもこうした紹介による結婚は完全にはなくなっていません。しかし昔なら、本人の希望はほとんど関係なしに親が全てを取り決めていたのが、現在では相手を紹介されたらまず本人同士が面会し、考え方や価値観などが適合するかどうかを確かめ合ってから結婚に至るのが普通のようです。また、最近のイランでは自由恋愛による結婚も増えており、昔と比べると女性の高学歴化や社会進出が盛んになっていることや、就職難などの問題とあいまって、他の先進諸国と同様に男性も女性も平均初婚年齢が上昇しつつあります。ちなみに、統計によりますと、2015年におけるイラン人男性の平均初婚年齢は27.8歳、女性は25.1歳とされています。この数字は、今後さらに上昇すると予想されます。
イランでは、結婚の際に互いに相手に求める条件として、年収などの経済力や容姿、性格、学歴、親との同居の可否などのほか、宗教の問題も大きく関係しています。同じ宗教の人同士であっても、どのくらい宗教的な戒律を重視するかといった宗教観は、それぞれの家庭や個々人にとって大きく異なるため、この点は非常に大きな比重を占めています。また、女性側が持ち家で自家用車を持っている男性を希望するケースも増えています。一方、以前なら女性に対しては結婚後は家事や育児に専念することが求められる場合が比較的多くなっていました。しかし、最近では特に注目すべき傾向として、物価高の昨今において男性1人の収入では生活が成り立たないため、職業を持ち収入のある女性を希望する男性が増えてきています。昨今のイランは、学業を終えて就職しようにも、将来家族を養えるような収入の良い職業を見つけることはなかなか難しく、世間で言われる良い職業を持ち、高収入を得ている若者はほんのわずかです。イラン人同士の結婚の際にも、やはり経済問題は非常に大きなポイントを占めてています。
さて、他人からの紹介や自由恋愛などで知り合い、将来的にその人との結婚を考えたい、或いは結婚の意志が固まったら、まず互いの親に紹介します。
結婚申し込み(ハーストガーリー)
これは、ペルシャ語でハーストガーリーと呼ばれ、初回はまず男性が自分の両親を伴って女性の自宅を訪れ、正式に求婚に行くというものです。場合によっては、男性側は自分の両親のほか、おじやおばなどを伴って行くこともあるようです。このときに、男性は花束をプレゼントとして持参し、そこの家のお目当ての娘さんへの求婚にきた旨を告げます。
話し合いの場では、女性本人と家族も同席して顔合わせをし、主に女性の側から男性側に対し、職業や収入、学歴、持ち家かどうかなど、多くの事柄についての説明が求められます。
このときには、花嫁候補となる女性が、訪ねてきた男性側のお客様たちにお茶を出すことが大きなポイントとされています。
この話し合いの場で、双方が承諾した場合、本人たちがより深く知り合うための時間が設けられます。本人たち結婚の意志を確かめた上で、婚約に当たっての条件が話し合われます。女性側はこのとき、男性側に対して日本の結納のようなものに相当する婚資金に当たるものを請求します。これはメヘリーエと呼ばれますが、日本の結納とは異なり、必ずしも現金ではないこともあります。具体的にまとまった大きな金額でいくら、という形で定めることもあれば、金貨10枚、メッカ巡礼の旅行といったものもあります。しかも、これは女性の側が婚姻成立後いつでも男性側に請求できることになっており、また離婚の際は男性は必ずこれを女性側に出さなければいけないことになっています。さらに、嫁入りする女性を産んで授乳した母乳代として、シールバハーと呼ばれる授乳料を男性側に請求することも可能です。これらはいずれも、女性の権利を守るための手段とも見なすことができると思われます。最近では、このメヘリーエが非常に高額になってきており、いざ、男性側が女性から請求されたときにこれを出せずに裁判沙汰になって問題になるケースも、残念ながら多発しています。
さて、いよいよ結婚が決まると、ここから何段階にもわたる一連の手続きが何段階にもわたって行われます。これらの手続きの段階は、地方や部族によっても異なる場合があり、また中には、日本で行われるものとよく似ているものもあります。場合によっては、予算の都合などで複数の段階をまとめて一緒に行ったり、簡略化して済ませるといったケースもあります。
求婚により話がまとまると、結婚しようとする2人を、正式な婚約に至る前の準備段階として、一時的な婚姻契約を結び、許婚とするためのバレボルーン、あるいはハナバンドゥーンという儀式が行われます。これは、役所などの公式な場ではなく、両家の家族の立会いのもと、女性の父親の許可を確認した上で結婚する2人が許婚関係を宣言するアラビア語の文句を朗読するというものです。これで、晴れて2人はフィアンセとなり、親類縁者などにも公に婚約者であることを公表できることになります。なお、バルボルーンの代わりにハナバンドゥーンという儀式を行う場合には、先にご紹介した許婚としての関係の宣言に加えて、嫁入りする女性の手をヘンナと呼ばれる、ミソハギ科の植物の粉末を水で溶いたものにより、美しく装飾するという作業が行われます。
これ以後の一般的な手続きの流れを簡単にまとめると、大体以下のようになります。
1.アグドコナーン(婚約式)
2.ジャハーズバラーン(嫁入り道具のお披露目式)
3.アルースィー(結婚式)
5.パーイェタフティー(お色直しのようなもの)
6.パーゴシャーイー(花婿側の家族親戚による新郎新婦を招いての食事会)
これらについては、次回詳しくお話する予定です。どうぞ、お楽しみに。