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<テヘランでの断食明けの礼拝の様子>
イランを初めとするイスラム諸国は、つい先日まで毎年恒例のラマダン月・断食月にありましたが、大半のアラブ諸国では6月25日、そしてイランと一部の国・地域では26日に新月の観測により断食明けが発表されました。イスラム諸国では、断食明けは大きな祝祭と見なされ、これにちなんだ特別な礼拝や慣習が実行されます。今回は、イランにおける断食明けの祝祭の様子をレポートすることにいたしましょう。
断食明けは、イスラム圏内のアラブ諸国ではイード・アル・フィトル、ペルシャ語圏のイランではエイデ・フェトルと呼ばれています。イード(エイド)は、アラビア語で祝祭を意味し、フィトル(フェトル)は断食明けを意味しています。さらに、断食明けを意味するフェトルという言葉は元来、アラビア語で花開くことを意味しており、即ちこの日には、人間は本来の自分に立ち返り、生まれ変わりと新たな開花により、自らの新しい人生を祝う、という意味がこめられています。
断食月ラマダン入りや断食明けなどは、陰暦であるイスラム暦に基づいて行われ、新月観測委員会により新月が確認されることで、ラマダン入りやラマダン明けが決まります。今年のイランでは、カレンダー上に予定日として記されている断食明けの前夜に当たる6月25日の夜に、断食明けが発表され、それまでの厳粛なムードから一転して祝賀のムードに変わりました。ラマダン中には歌舞音曲は自粛という原則が守られていたのが、翌日テレビをつけると男性歌手が登場していたり、笑い声に溢れたクイズ番組など、華やかでにぎやかな番組が沢山放送されていました。番組の合間にも、以下のような断食明けの祝賀のムードを表す、華やかなデザインのロゴが沢山出ていました。
また、断食明けは確かに大きな祝祭ではありますが、1ヶ月間の断食を通しての自己浄化や自らの新たな生まれ変わりを祝うという精神的、厳粛なものであるため、革命記念日などのように街中を色とりどりのイルミネーションなどで飾ることはあまりないようです。ですが、この日を境に、ラマダン期間中自粛されていた子どものお誕生会や結婚式といったお祝い事の開催が解禁されます。
それから、今年は断食明けにちなんで、2日間が公休日と発表されたことから、このときを利用して旅行に行く人も多く、断食明けの発表と同時に、カスピ海沿岸のリゾート地やテヘラン近郊に向かう高速や主要道路は、早くも渋滞となりました。
他の平常時の礼拝と違って、断食明けの礼拝は1年に1回きりです。この年に一度きりの礼拝に参加しようと、大勢の人々がモスクの境内に向かって行きます。
テヘラン市内でのあるモスクで行われた、断食明けの集団礼拝の様子。1ヶ月間の断食の締めくくりに、みんなで一生懸命に祈っています。これはまた、イスラム教徒間の間の親睦を深め、団結を促し、また1ヶ月間の断食という修練をもって新しい自分に生まれ変わることのできたことに対する感謝でもあるそうです。
大勢の人々が集まって礼拝している光景は、本当に壮観です。
礼拝の集団の先頭には、説教師が立って礼拝を先導します。この説教師の後ろで礼拝をしているのは、服装からして警察官のようです。その隣には普通のお役人さんのような方が立っています。まさに、神の御前では「人類みな平等」だということを痛感させられます。
若い人も中高年者も、断食明けという共通の出来事に際して、一心に祈っています。
とにかく、人出の多さには驚かされます。このモスクでは、大きな敷地内にも信者が入りきれず、入り口のところにまで立って礼拝を行っています。
モスクなどの公共の礼拝の場では普通、男性の集団の背後に女性たちの集団が並んで礼拝をします。こちらの女性たちも、断食を無事に終えた喜びを神に感謝しながら祈っているのでしょう。なお、女性はモスクなどの宗教施設に入る場合は、頭からすっぽりと体を覆うチャードルと呼ばれる被り物を身に着けます。
女性の礼拝者の数も相当なものです。色とりどりのチャードルを身に着けた女性たちが、断食明けの礼拝に参加しています。
そしてもちろん、説教師による訓話もあります。
集まった人々は、説教師による訓話に聞き入っています。
また、モスクでの断食明けの礼拝に参加する人は、モスクの入り口のところでフェトリーエと呼ばれる、いくらかの寄付金を納めることになっています。この金額は、毎年政府から発表され、断食をした証、断食の仕上げとして、自分が断食をしたことにより生じた余剰分を貧しい人のために差し出す、という意味がこめられています。ちなみに、今年は1人当り4500トマン(日本円にしておよそ150円ほど)と発表されています。また、このフェトリーエは、モスクでなくても、街中のいたるところに設けられている募金箱に投じることもできます。なお、ある情報によりますと、今年はテヘラン州内だけで1000箇所ものフェトリーエの募金箱が設けられたということです。以下の写真は、街中に設けられているフェトリーエの募金箱です。
また、フェトリーエの納付は自己申告制であり、自分の断食により生じた余剰分を貧しい人に寄付する意味をもつことから、納付しても証明書などは発行されません。また、モスクでも、街頭の募金所のいずれか一方に納めればよいことになっています。
このように、断食明けの祝祭に当っての礼拝の実施、そして寄付金フェトリーエの納付をもって、その年の断食が完了したことになります。イスラム教徒は、これまでの1ヶ月間の断食により自己を律する訓練を行い、禁欲さを身につけ、貧しい人々への共感や他のイスラム教徒との団結心を身につけ、この祝祭をもってその年の断食に最後の仕上げをすることになります。彼らがこうして身につけた禁欲さや自律の精神、貧しい人々との共感などは、その後の彼らの日常生活にもきっと生かされていくことでしょう。