北部伝統料理ミールザーガーセミー(右)とその考案者ガーセムハーン・ヴァーリー
早いもので、3月も既に過ぎ去ろうとしています。日本やイランはもちろん、世界では新型コロナウイルスが収束する兆しは一向に見られず、まだまだ外出や旅行を控え、1日の大半を自宅過ごさなければならない時期が当分続きそうな気配です。そこで今月も、ご自宅で手軽にできるイラン料理をご紹介してまいりたいと思います。
今回は、以前の拙レポートにて少々取り上げました、イラン北部カスピ海沿岸地域を起源とする郷土料理ミールザー・ガーセミーの作り方をご案内することにいたしましょう。
この郷土料理はもともと、イラン北部ギーラーン州およびマーザンダラーン州を起源としていますが、現在ではごく一般的なメニューとしてイラン全国に知られ、普及しています。使用する材料も、これといって特別なものはなく、日本にある材料でも十分作れると思われますので、ぜひこの機会に皆様にもお試しいただければと思います。
それではまず、用意する材料からご紹介してまいりましょう。以下にご紹介する分量は、4人分を目安としたものです。
・中程度の大きさのナス 5本
・トマト 2個
・ニンニク 一塊
・卵 3個
・サラダオイルおよび塩、胡椒 適量
<作り方の手順>
1.皮をむかずにナスをガスなどの直火であぶる。柔らかくなってきたらナスの皮をむいてへたを除去し、すりこぎなどでつぶす。
2.トマトを熱湯に入れて皮をむき、小さく刻む
3.ニンニクは皮をむいてつぶし、熱したフライパンでサラダオイルとともに少々色がつくまで中火で炒める
4.つぶしたナスと刻んだトマトを3.に加え、汁がなくなるまで炒める。
5.塩と胡椒を適量加えて少々炒め、ここで炒めたナスとトマトを一旦別の容器に移し、そのフライパンに卵を割ってスクランブルエッグを作る
6.別の容器に移しておいたナスとトマトを再びフライパンに戻し、卵とよく混ぜ合わせて炒めて出来上がり
なお、このメニューは通常はパンと一緒に食べることが多くなっていますが、ライスと共に召し上がっていただくこともできます。また盛り付けの際には、お好みでパセリやオリーブ、ピクルスなどを付け合せに加えてもよいかと思います。
イラン北部でのミールザーガーセミーの盛り付け・付け合せの一例
それではここで、この郷土料理の由来について少々ご説明したいと思います。以前の拙レポートにて取り上げましたように、この料理の名称は、このメニューの考案者であるモハンマド・ガーセムハーン・ヴァーリー(1800~1872)という人物にちなんだものです。
モハンマド・ガーセムハーン・ヴァーリーは、ガージャール朝の王・ナーセロッディーンシャーの治世に、現在のイラン北部ギーラーン州の為政者だった人物です。彼はナーセロッディーンシャーの命令により、ジョージア・トビリシにあるイラン領事館に勤務し、またロシア・サンクトペテルブルク駐在のイラン大使を務めていた経歴もあります。そして、1860年にサンクトペテルブルクでの任期が満了してイランに帰国後、ギーラーン州の為政者となります。料理好きだった彼はその在任中にこのメニューを考案し、これを男性の敬称ミールザーおよび、自らの名を合わせたミールザーガーセミーとして発表します。
ナーセロッディーン・シャー(1831~1896)
当時の王ナーセロッディーンシャーはこのメニューが大変気に入り、このメニューをイラン全国に広めるようお触れを出したと言われています。
なお、この郷土料理の発祥地・お膝元とされるギーラーン州では、このメニューを焼きたてのパンとともに食することもあれば、イラン有数の米の産地であることから、上の写真のように米飯とともに食する場合もあるということです。非常に興味深い点として、ギーラーン州では朝食に日本のように米飯を食べることもあり、しかもいわゆる一般のイラン食に出てくる細長いインディカ米ではなく、日本式の米飯によく似た、粘り気のある米飯も食されているということです。ちなみに、日本式の米飯に似たものは、ペルシャ語では「半粒の米」、もしくは「丸い米」と呼ばれています。
イランでは、ナスは「畑の鶏肉」とも称され、植物でありながら良質のたんぱく質を含む食材として知られています。このことから、今回ご紹介しましたミールザー・ガーセミーは、イラン全国で一般的な昼食や夕食として食されるほか、分量やボリュームによっては軽食、前菜として、またはつけ合わせなどを工夫して来客用に出されることもあります。
是非この機会に、カスピ海地域を起源とするこのポピュラーなイランの郷土料理をお試しいただければと思います。
来月もまた、どうぞお楽しみに。