料理

イランの家庭料理のご紹介;肉・ナスのトマトペースト煮込み、シーラーズ風サラダ

サフラン染めのライスを添えた、ナスと肉のトマトペースト煮込み

細かく刻んだトマト・キュウリ・玉ねぎの混合サラダ・シーラーズ風サラダ

 

イランでは先月、新型コロナウイルスが猛威を振るう中で春の新年・ノウルーズを迎えました。しかし、既にコロナ危機と重なっていた昨年と同様、例年の年明けのようにとても手放しで祝賀ムードに浸れる気分ではなく、自粛を原則とした新年のスタートとなっています。ニュース報道などでご存知のとおり、イランや日本をはじめ世界はお正月気分はおろか、喜ばしい状態にはほど遠いのが正直なところではないでしょうか。旅行や行事などの殆どが中止され、引き続き集まりごとや移動の自粛が叫ばれている現在、このレポートではこの機会に、ご自宅で皆様に少しでも楽しんでいただけますようなテーマにスポットを当ててみたいと思います。

先月と先々月の2回にわたりまして、デザートやどちらかと申せば軽食に近いイラン料理を取り上げましたが、今回は本格的なイランの家庭料理の1つとされる「米飯とナス・肉のトマトペースト煮込み」、そしてイランでも特に有名な付け合せサラダとしての「シーラーズ風サラダ」をご紹介することにいたしましょう。

イランの家庭料理は一般的に、肉などの材料を長時間煮込むという調理パターンのものが多いようです。しかし、イランは気候風土の多様性に恵まれていることから、各地方独自の郷土料理も数多く存在するとともに、全国共通のメニューであっても食材や味付けにそれぞれ違いが見られます。また、日本の筑前煮や石狩鍋、佃煮などのように、イラン料理にも発祥地の地名の付いたメニューもあります。今回取り上げます付け合わせの「シーラーズ風サラダ」も、イラン南部ファールス州の中心都市シーラーズが元祖だと言われています。これについては後ほどまた詳しくご説明してまいります。

さて、まずは数あるイラン家庭料理の定番として有名なライス付きのメニュー・「ナスと肉のトマトペースト煮込み」(ペルシャ語でホレシュテ・バーデンジャーン)のレシピと作り方をご紹介してまいりましょう。

なお、イラン料理に出てくる米飯は、原則的に粘り気のある一般的な日本のうるち米(ジャポニカ米)ではなく、形状としては細長く、出来上がった時に比較的パサパサのインディカ米が使われ、その調理法も日本の一般的な「炊く」方法ではなく、米を半煮えの状態にしたところで水を切り、蒸らすという「湯取り」法であることに、まずご留意ください。但し、北部のカスピ海沿岸地域では、日本のうるち米に似た粘り気のある米も多く生産、消費され、テヘランやそのほかの地域でも入手可能です。なお、ここでは普通のうるち米を湯取り法で調理することで、イラン式のメニューに合う形態にしてみたいと思います

材料(4人分)

カレー・またはシチュー用の肉(牛肉または鶏肉)   500g

ナス(中程度の大きさのもの)    6本

玉ねぎ            大1個

トマト(中程度の大きさのもの)   2個

トマトペースト         食事用スプーン2杯分

塩、ターメリック、胡椒      適量

レモン汁           適量

米(普通のうるち米でOK) 人数分

作り方;

1.玉ねぎを粗みじん切りにし、適当な大きさに切った肉とともに鍋の中でサラダオイルで少々炒める

2.塩、胡椒、ターメリックをそれぞれ適量加え、表面の色が変わり、肉の生臭みが消えるまでさらに炒める

3.トマトペーストを追加してさらに1分ほど炒める

4.コップ5,6杯の水を加えて沸騰され、弱火で肉が煮え全体が馴染むまでに煮込む

5.この間に煮汁の量をチェックし、少なければ水を追加する。また別途にフライパンでナスを天ぷらサイズに切り、サラダオイルで炒めておく。なお、好みによってナスの皮は剥いても剥かなくてもOK。

6.肉が煮えたところでレモン汁を加え、全体に馴染むまで少々煮込む。レモン汁が定着したところで、5.で炒めておいたナスを加えて更に少々煮込む

7.ナスが柔らかくなったら、トマトを輪切りにして加え、トマトが柔らかくなったところで出来上がり

*なお、湯取り法による米飯の調理法は以下のとおりです。

1)多めに水を入れた鍋に米を入れる
2)沸騰したら米をざるにあげる
3)蒸し器でしばらく蒸して出来上がり

湯取り法で調理した米飯は粘り気が抜けて、普通の日本式の米飯よりぼそぼそしているほか、糖分が少なくなるのでダイエットにもよいそうです。

イランでは、出来上がったライスを好みにより、また特に来客用などにサフランで黄色く染めます。粉末にしたサフランを熱湯で溶いたもので、全体のうち少量をサフランで染め、ほかの白いライスの上に振り掛けることが多いようです。

 

ここで、イラン料理にナスが使われていることから生まれた、非常に面白いペルシャ語の慣用句をご紹介したいと思います。それは、日本語の「胡麻すり」、「こびへつらい」、「ご機嫌取り」に相当する慣用句「皿の周りにナスを並べる」です。

この慣用句は、前回少々ご紹介しましたガージャール朝の国王ナーセロッディーンシャーの治世に遡ると言われています。

ナーセッロッディーンシャーの時代には、宮廷の役人や大臣、官僚たちがある特定の日に集まって、調理の知識・経験が全くないながらも、調理人のように奉仕するという習慣がありました。彼らの一部に与えられた責務は床に胡坐をかいて座り、大量のナスを次々に皮を剥くことであり、ほかのメンバーに対しては、それらのナスを鍋で煮込み、煮えたナスを手際よく皿に並べていくよう命じられました。

ガージャール朝時代の官僚らによる「ナスの皮むき」の様子

これらの「にわか調理人」たちは、ナーセロッディーンシャーが調理場の視察にやって来た際、いかにも真面目な仕事ぶりを見てもらおう、王に気に入ってもらおうと、それはそれは丁寧に規則正しく、きれいにナスを並べて王のご機嫌をとろうとしたとされています。このことから、ご機嫌取りやへつらい、胡麻すり行為をさす表現として「皿へのナス並べ」が生まれたということです。

どうやら、目上の人をはじめとする他人に認められたい、気に入られたいという思いからわざとらしく偽装する、という行動は古今東西に共通していると言えそうですね。

さて、それでは次にイラン料理での付け合わせとして最も有名なサラダの1つ、「シーラーズ風サラダ」の作り方をご紹介してまいりましょう。

<材料>

トマト(中程度の大きさのもの)   3個

玉ねぎ            大1個

キュウリ            4本

塩、胡椒、レモン汁       適量

ミントの粉末      食事用スプーン1杯

なお、好みでオリーブ油スプーン1杯を追加することも可能です。

<作り方>

1.トマト、キュウリ、玉ねぎを荒みじん切りよりやや大きめに刻む

2.刻んだ3種類の材料をよく混ぜ合わせる

3.2.で混ぜ合わせた材料に、塩、胡椒、レモン汁、ミントの粉末を加えて、適切な器に盛り付ける

 

ところで、このサラダには、サアディやハーフェズなどのイラン大詩人のゆかりの地であるシーラーズの名が付いていますが、これはこのサラダの発祥地がシーラーズであるからだとされています。これについては、シーラーズの町に古くから伝わるある伝承がもとになっているということです。それによりますと昔、当時のシーラーズの王は諸都市の人々の間で「シーラーズの人は怠慢だ」という噂が広まったことを聞きつけ、この悪いイメージを払拭しようと策を練り、その結果町の住民に対し、日々の食事のメニューでも非常に手間のかかる料理を作らせて、これにシーラーズの名前を関したメニューとして発表することを決意します。このため、王様は自ら料理コンテストを開催し、優勝者には金貨1万枚を授与すると発表します。

王様が出した課題は、トマトとキュウリ、そして玉ねぎを丹念にみじん切りにして混ぜ、オリーブ油と未熟な葡萄の汁をかけて、翌日の宮廷での晩餐会に持参せよというものでした。

さて、翌日の夜、宮廷内の大きなテーブルには人々が王様の命令どおりに作った三色サラダが品評会のため並べられます。人々が、集まったこれらのサラダに見入っているところへ王様が姿を現し、今回のコンテストの参加者全員を入賞者として発表するとともに、コンテストの開催目的が実は、「シーラーズの人は怠慢」というイメージ払拭のため、シーラーズ独自の料理を住民に作ってもらうことにあった、と告げます。この出来事をきっかけに、このサラダがその後「シーラーズ風サラダ」として歴史に刻まれ、シーラーズの人々はもはや怠け者の代名詞ではなくなった、ということです。

なお、食卓を彩る存在としてのこのサラダは冒頭の写真のような盛り付けが一般的である一方、ほかにも工夫次第で面白い盛り付けが可能です。以下にこのサラダの面白い盛り付け例をご紹介します。

 

 

今回は、本格的なイランの家庭料理の定番の1つと付け合せのサラダをご紹介してまいりましたが、いかがでしたでしょうか。皆様がご自宅での時間を少しでも有意義に過ごされますよう祈願いたしまして、今月のレポートを締めくくりたいと思います。今後ともまた、皆様に親しんでいただけそうなイランの家庭料理をご紹介してまいります。どうぞ、お楽しみに。