色とりどりのチューリップの見学に訪れた人々
テヘラン西部キャラジ近郊コンドル村の山間に咲き乱れるチューリップ
イランもすっかり春の陽気となりました。先だって迎えたイランの春の新年ノウルーズにまつわる一連の行事や、祝賀ムードも抜け、またつい最近ではイスラム教徒の断食月・ラマダンも開け、すっかり平常モードに戻っています。
日本の一般の皆様にとりまして、イランという砂漠の国に色とりどりの花が咲き乱れる、という概念自体、いささか想像しがたいかもしれません。しかし、イランは日本と同様に四季の変化があり、また多種多様な気候風土に恵まれていることから、この時期にはあちらこちらから花便りが聞かれます。
このほど、テヘラン西部アルボルズ州キャラジ市に在住する知人の伝で、同市内で最近チューリップ祭りが開かれ、またその近郊にあるコンドル村でチューリップが満開を迎えているという情報が得られましたので、今回はその華やかな様子をお届けしてまいりたいと思います。
コンドル村は、テヘラン西部に隣接するアルボルズ州の中心都市キャラジの北東22kmに位置しており、テヘラン市内からはおよそ60kmで、車でアクセスできる地域にあります。しかしその一方で、大都会の喧騒から離れた、心地よい温和な陽気と自然を楽しむことができ、緑豊かな平原や庭園に加えて、旧市街も存在します。
「コンドル村へようこそ」の看板が立つ村の風景。アルボルズ山脈を背景に
村内にあるコンドル滝。チューリップ平原以外の見所の1つとなっています。
この村は、日本ではエルブルズ山脈(ペルシャ語読み;アルボルズ)の間に位置しており、比較的起伏が大きいことから農耕や牧畜が盛んに行われてきています。
このため、イラン北部地域からやってきたイラン系民族のメディア人の一部がコンドル村に住み着きました。
その名残は今なお残っており、現在も村民の間では、紀元前7世紀末から6世紀はじめにかけて栄えた古代メディア王朝時代から残るとされる言語・ターティー語が話されています。
なお、コンドルという名称の起源はペルシャ語でコハン(古い)+ドゥール(遠い)、すなわち太古の昔を意味し、まさにこの村の辿ってきた歴史に由来しています。
さて、この村では春のこのシーズンになると、村内の平原に一面にチューリップが咲き乱れ、エルブルズ山脈を背景にさながら大自然が織りなす絨毯が広がります。この地域に広がる山と空とのコントラストも、実に見事です。
岩山の間から垣間見える「チューリップの絨毯」
山間のチューリップの中に1人たたずむ女性。
なお、この村の観光に当たっての最適な時期は、大体3月下旬から5月いっぱい位とされています。今まさにチューリップの満開の時期を迎えているコンドル村には多数の観光客が訪れ、大自然が織り成すカラフルな花の絨毯を堪能しています。
見学客の間からは「とにかくすごいの一言」「きれい!」「最高!」の声か聞こえてきます。
テヘラン市内からやって来た若い夫婦;「いやあ、見事だね!ここはイランじゃなくてオランダかな(笑)」
遠くからの「チューリップ絨毯」も実に壮観です。
さて、キャラジ市内にあるチャムラーン公園では、2005年に同市役所・公園緑地管理局により、大掛かりな花園が設けられました。このときには、3万m2の敷地内にチューリップをはじめとする30万種類もの花が植えられていたということです。
冒頭でご紹介しましたキャラジ市チューリップ祭りは2013年以来毎年、春の新年ノウルーズの期間から5月にかけて開催されています。今年は先月4日から今月5日まで開催され、関係者の話によりますと、今回は9回目の開催だということです。チューリップの開花の最盛期とあって、連日多くの人々が来場し、色とりどりに咲き誇る「チューリップの絨毯」を堪能しています。
このイベントでは、実に25万本ものチューリップのほか、ジャスミンやカーネーションなど48種類もの花が植えられているということです。とにかく、その見事さ、壮観さには目を見張るものがあります。
2020年に殉教したイスラム革命防衛隊の故ソレイマーニー司令官の肖像画の周りをチューリップが美しく彩っています。
花の王女様になった気分で記念撮影。お母さんのカメラにも「ちょっと緊張気味」です。
美しい「花の絨毯」に、蝶も一役買っています。
園内のチューリップの手入れをする係員。「虫がつかないようにきちんとやらないと」
紅白のチューリップの植え込みに見入る来場者の行列。
白鳥の花壇に真っ赤なチューリップのコントラストも見事です。
屋内にも見事な花園が設けられていました。
家族で記念撮影。
車椅子を使用する人も写真撮影に興じていました。こうした光景には、何かほっとするものを感じさせられます。
自撮りに興じる人々
「私も自撮り!!」こんな小さな子供も見事に携帯電話のカメラを使いこなしています。
お気に入りの花をカメラに収める少女;「私もきれいなお花の写真とる!」
敷地内の模擬ハウス(?)の窓越しに記念撮影
ちなみに、この「キャラジの花園」は3700m2にもおよび、西アジア最大の花園とされているそうです。
なお、今回のイベント会場であるチャムラーン公園の周辺にも意外な見所があることを付け加えておきたいと思います。
その1つがチャールース街道であり、イラン国内で最大の絶景となる街道と言われています。
さて、今回テヘラン西部近郊キャラジで行われた「チューリップ祭り」の様子はいかがでしたでしょうか。日本では砂漠の国としてイメージされがちなイランにおいて、このようなイベントが実施されていることは意外かもしれません。
しかし、先だってもお話しましたように、イランには日本と同様に四季の変化があることから、日本よりは幾分短いものの、イランの春の魅力には計り知れないものがあります。
幸い、新型コロナウイルスの世界的大流行も収まりつつあり、世界では国境を越えての旅行者の移動も回復傾向を見せています。もし、皆様が将来、イランを実際に訪れてみたいと思われましたら、春の旅行シーズンには是非、テヘラン近郊に足を伸ばしていただき、今回ご紹介しました西アジア最大の花園もご堪能いただけますよう願っております。
そして、今回のイベント開催に関する情報・資料をご提供いただいたキャラジ在住の知人数名にも、心から謝意を申し述べたいと思います。
今後とも、イランの知られざる魅力や見所をたくさんご紹介してまいります。どうぞ、お楽しみに。