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久しぶりの行動制限なしの春の新年ーコロナ期の3年を振り返って

3年ぶりの行動制限なしの「自然の日」のピクニック(2023年4月2日)

コロナ禍中で街中の新年ノウルーズの装飾を囲む人々(2021年3月)

外出時のマスク・手袋着用が義務化(2021年、テヘランにて)

2020年3月に、WHO世界保健機関が新型コロナウイルスの感染拡大を受け「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言して以来、イランや日本をはじめとする全世界が、1920年代のスペイン風邪流行以来とされる、感染症の世界的大流行に見舞われました。この3年間、世界各地でコロナが猛威を振るい、日々コロナ感染状況に関するニュースが報じられ、誰もが移動・外出・イベントの自粛や3密の回避、自宅待機、強制隔離、入国制限といった、息詰まるような生活環境を迫られてきました。

コロナ禍の市場で、お正月飾り用の草飾りと金魚を買い求めるマスク姿の女性(2022年3月)

しかしやっと最近、世界的に見てコロナ流行も一時期よりもかなり下火となり、各国が入国制限の緩和・解除に踏み切りました。そして、日本でもマスク着用義務が解除され、コロナの5類への引き下げ決定や、海外からの入国・帰国に際しての制限・水際措置の廃止など、ようやくコロナ前の状況が戻りつつあります。

そして、筆者の在住しておりますイランでも先日、3年ぶりにコロナ制限のないイラン文化圏の春の新年・ノウルーズの到来となりました。もっとも本年は、イスラム教徒の断食月であるラマダンのシーズンとお正月が重なっていることから、主に日没後に家族・親戚の訪問に行く人々の光景が見られました。そして、13日間の正月シーズンの最終日にあたる「自然の日」には、久しぶりにマスクなしで和気藹々と戸外でのピクニックを楽しむ人々の姿が復活しました。

そこで今回は、3年ぶりのコロナ制限のない春の新年の締めくくりに当たる「自然の日」の人々の様子や、ホットな声をお届けするとともに、コロナ禍中のイランをざっと振り返ってみたいと思います。

さて、冒頭でお話しましたように、今年はラマダンと春の新年がちょうど重なりました。しかしながら、3年ぶりのコロナ制限の全くない新年シーズンであること、そしてイラン人の知人によれば、イスラムの慣習上ラマダンであっても特に自宅から50km以上離れた人や旅行中の者は断食を免除されるとのことで、人々は思う存分、西暦の4月2日にあたるお正月シーズンの最後の日である「自然の日」を楽しんだ様子です。

というわけで、今年はこの時期、特に大都市圏から自然環境がより多い郊外・地方都市に向かう街道に例年の混雑が戻ってきました。

テヘランから北部マーザンダラーン州に向かう街道の混雑の様子

「やれやれ、コロナがなくなったと思ったら、今度は渋滞か。でも、コロナよりはマシかな」

 

今年はコロナ禍中とは打って変わって大渋滞。コロナ中はこの街道もガラガラでした。

テヘランから気軽に車でアクセスできるとあって、特に北部ギーラーン州やマーザンダラーン州はこの時期、大勢の人々でにぎわいます。緑の多いこれらの地域は、久しぶりに人々が設営したテントでカラフルに彩られています。

お祖母ちゃんとピクニック。「今年は自然の中に遊びに来れてよかった!」「やっぱり外でのピクニックはいいよね」

水ギセルを吸う青年。「去年とか一昨年の今頃はまだ、家の庭で過ごしてました。すごいストレスがたまってたから、今日は思いっきり楽しみます!」

「自然の日は緑の中の一服に限るよ。もう自粛はたくさんだ!」(北東部ゴレスターン州にて)

大自然の中でのイラン式・串刺し焼き鳥を作る男性。「こんなことは3年ぶり。自然の中での自家製焼き鳥は、家で食べるよりもっとおいしく感じるね!」

ここで、テヘランから北東部ゴレスターン州に遊びに来たある家族連れに話を聞くことができました。

ーコロナの3年間はどうでしたか。

ー(一家のお父さん);私たちは、テヘランではアパート住まいでして、普段はともかく、この3年間はまさに「籠の中の鳥」「缶詰状態」でした。何か急用でちょっと外出しようにもマスクに手袋。一番コロナ制限が厳しいときには、道端に警察官らしき人が立っていて、「どこに行きますか?ご用件は?」などと聞かれる始末。挙句の果てには、車で市外や州外に出ようとしたら検温されたり、「ここの市民ですか、居住証明を見せてください」とかで、とにかく制限、禁止、規則ばかりでもううんざりしました。やっと息ができるようになった気分です。

ー(奥さん);日々の食材や日用品を買おうにも、外出制限をかけられ、本当に不自由でした。でも、我々大人はともかく、子供たちはもっとつらかったのでは。ネット授業はいくら登校しなくてもいいとはいえ、しばらく経つとだんだん飽きてきて、とにかく「外に出て走り回りたい、公園に行きたい」、「友達と遊びたい、遊びに来てほしい」、「いとこの子に会いたい」とフラストレーションがたまってきました。親としても、子供がネット授業や宿題をする以外の時間をどうしてよいかわからず、非常に困りました。昨秋からやっと学校に行けるようになって、「ふうー」という感じです。もうコロナはこりごりです。

ー娘さん(中学1年);やっと学校も始まって、新しい友達もたくさんできました。コロナで会えなくて寂しかったので思う存分学校生活を楽しんでいます。そして今年のこの日は、やっと家族でピクニックに来れてよかったです。皆でワイワイやるのが楽しいです。

ー娘さん(小学2年);久しぶりのピクニックをとても楽しみにしてました。家の中ばかりでなく、たまには自然の中で、広いところで、皆で集まってご飯を食べるのはとても楽しいです。もうマスクも手袋もいらない。すっきりしました。

 

テヘラン市内の大きな公園なども、3年ぶりにマスクなしの自由を楽しむ人々でにぎわいました。

テヘラン市内のポレタビーアト公園を散策する大勢の人々。マスク姿の人はまばらです。

ポレタビーアト公園で自撮りに興じる人々。「マスクなしで自由に外に出れるってのは最高だよなー」

市内の大市場・グランドバザール。大群衆が復活するも、マスク姿の人はごくわずか。

道行く群集を相手に声を張り上げる売り子さん。「安い婦人服はいかがですかー?やっぱり俺たちはこうでなくちゃ!」

 

また、地方都市では広い一戸建ての家が多く、周りを自然に囲まれていることから、自宅のそばで戸外の雰囲気を楽しむ様子も多くなっています。

テヘラン東部セムナーン州にて

3年ぶりの制限なしのコロナに喜びを隠し切れないのか、石造りの塀に上る人もいました。「落ちないように気をつけて!」(セムナーン州)

特に地方都市では、遠出をしなくとも家族でピクニックに行ける場所がたくさんあります。(テヘラン西部ガズヴィーン州)

そして、この行事の締めくくりは、それまで自宅に飾っていた新年の縁起物の1つで、豆などを発芽させたものを近くの川などに流すことです。

さて、今でこそやっと、例年通りの光景が戻ってきているイランですが、コロナ禍中はそのほかの国と同じように、行動規制や社会的距離の維持、マスク・手袋着用の義務化など、市民は様々な困難を強いられてきました。以下に、その一こまを振り返ってみたいと思います。

人々の密集を防ぐため、公園も立ち入り禁止に

町中から人の姿が消えたテヘラン市内西部。人との接触や面会の自粛を呼びかける看板のそばを歩く人(2020年末)

全国の病院はコロナ患者で満杯。医療崩壊が問題に(2021年のテヘラン市内のある病院)

空の玄関口イマーム・ホメイニー国際空港(テヘラン)もガラガラ(2020年)

飛行機内を入念に消毒する作業員。「といっても、どうせこの飛行機もしばらくは誰も乗らないんだけどな」

市場やモスク、人の集まる公共の場所はくまなく消毒

ロックダウンの実施により閑散としたアーケード商店街

コロナ感染拡大で店舗も営業停止に。シャッター通りが続く商店街(テヘラン、2021年初め)

テヘラン市内西部アーザーディー広場も消毒。いつもなら大勢の人で賑わっているこの場所もガラガラ。

交通整理をするマスク姿の警察官

普段マスクをつけることのない市民がすべてマスク姿に

子どもも感染予防のためマスク着用。母親;「人ごみの中に出なきゃいけないからしょうがないわね」

職場や学校などでのワクチン集団接種もスタート

児童生徒は当初はマスク・手袋着用での登校が許されるも、その後すべてオンラインに。教室内でも間隔をあけて着席(テヘラン市内の男子高校)

コロナ感染拡大で授業はすべてオンラインに切り替わるも、不慣れなネット授業の長期化に子供たちも退屈

マスク着用で大学入試に臨む女子学生(2021年)

そしてもちろん、政府関係者もマスク姿となり、閣議での社会的距離の遵守やテレビ会議が一般化しました。

とにかく、この3年間に新型コロナウイルスによる様々な行動制限やそれにともなうシステムの変化などが、人々の生活に及ぼした影響は計り知れません。

コロナ感染拡大もようやく落ち着きつつある現在、イランでも人々がコロナ関連の行動制限のない、ほぼ例年通りの春の新年を楽しんでいる様子には、ほっとさせられるものがあります。実際、そうした状況を目の当たりにするとともに、このレポートをまとめながらも、独特の嬉しさを感じました。

本レポートではこれまでにもコロナ感染拡大により学校への通学や職場への通勤、日常の就労、就学、国内外の移動が大幅に制限されたこの期間中の人々の暮らしの一こまとして、様々な話題を取り上げてまいりました。

今後はさらに、イランでも他国と同様にコロナをはじめとしたほかのウイルスの感染拡大防止や、感染対策を講じながらの通常活動の継続、そして打撃を受けた経済や産業分野の建て直しなどが課題になるかと思われます。そのような中で、1日も早くイランや日本、そして世界の人々の暮らしや日常の活動がコロナ前の状態に完全に戻ることを祈りつつ、今月のレポートを締めくくりたいと思います。