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待ちに待った新学期、1年半ぶりの対面式授業

久しぶりのクラスメートとの再会を喜び合う小学生

新学期に備えて文房具を買い求める親子

地域や学校によってはマスク着用での新学期

以前のこのレポートにおきまして、コロナ禍で新学期を控えるイランの学齢期の児童生徒やその保護者の状況についてレポートいたしました。その際はイランもコロナ感染拡大の大きな波に遭遇しており、小中高・大学のすべてがオンライン授業となりました。このため児童生徒はもちろん、教育現場の教師や保護者も手探りで、それまでにはなかった方式と格闘している様子が随所に見て取れました。

さて、あれから2年以上が経過した現在のところ、イランではひところよりはかなり感染者・死亡者数も減って、感染状況は比較的落ち着いています。このため、日本での秋分の日にあたるこの9月23日から始まるイランの学校の新学期は、全教育課程が対面式授業になる予定です。この日から学校に通う予定の児童生徒は、久しぶりの登校やクラスメート、担任の教師との再会を心待ちにしています。

著者自身も学校時代、新学年のスタートの時期には、今度の担任の先生は誰になるか、誰と一緒のクラスになるかにどきどきし、また新しい教科書をもらう時のわくわくした気持ちを、今でもよく覚えています。真新しい制服に身を包み、新しい教室で新しい教科書を広げ、新しい教師に教えてもらう楽しみは、イランも日本もそれほど変わらないようです。

新しい教科書。以前は最寄の文房具屋さんに予約して購入するのが一般的でしたが、最近では学校に教科書代を支払い、学校から配布されています

真新しいノートや文房具を買い揃えるのも、新学期を迎える子どもの楽しみの1つといえるのではないでしょうか。

 

イランでも2020年の年度の途中でコロナ大流行により、それまで当たり前のようにあった全日制の通学方式から、これまで児童生徒はもちろん、保護者や教師たちも経験したことがなかったと思われるオンライン方式に変わりました。それ以来イランでは、確かにまだコロナの完全収束は宣言されていません。しかし、今年は約1年半ぶりの対面式の授業の再開とあって、特に子供たちの間からは「また学校に通って友達や先生に会える」と嬉しそうな声が聞かれます。そして、そうした学齢期の子供を持つ親御さんも感無量のようです。

そこで今月は、久しぶりの学校再開を控えた巷の学齢期の子どもさんの様子をお伝えしてまいりたいと思います。

但し、イランの学校と一口に申し上げましても、地域や各都市、あるいは学校によって状況や方針はまちまちかと思われ、さらに今後の感染状況の変化やインフルエンザの流行の可能性もあります。そのため、ここで取り上げる例はあくまでも現時点での1つの例であることを、あらかじめお断りしておきたいと思います。

新学期目前のテヘラン市内のある文房具屋さん。子どもの喜びそうな文具が大量に店先に並びます。

 

今回は、この9月からテヘラン西部ガズヴィーン市内の小学6年生になる12歳の女の子P・Qさんにお話を聞くことができました。

ーしばらくぶりの学校生活ですね。今どんな気持ちですか?

ーP・Qさん(以下P);「また仲のよかった友達や先生に会えるのが嬉しいです。今までは時間になるとタブレットで暗証を入れてログインだったのが、新しいかばんに新しいノートや教科書を入れて学校に行けるのが最高の気分です。オンライン授業の時は制服がなかったのが、もうすぐ注文していた新しい制服ができてくる予定です。私の好きな色とデザインなので、早く着たいです!」

女子小学生の制服の例。イランでは小中高生女子の制服はマグナエと呼ばれる頭巾と上っ張り、ズボンの組み合わせです

ーP;「それから、去年まで使っていた背負いかばんが、もうあちこち擦り切れ、ポケットの部分が破れてしまったので、新しいものを買ってもらいました。私の好きなアニメの絵がついてます」

新学期を前に販売される児童用背負いかばん。日本のようなランドセルや学生かばんではなく、アニメのキャラクターが入ったものや色柄も様々です。

ーP;「そして、こないだ学校に聞いてみたら、まだコロナが完全になくなってはいないので、私の通う学校ではマスクをつけなければいけないと言われました。友達と座るときも間隔をあけなきゃいけないそうです。でも、もうずっと家にいてオンラインじゃ退屈だから、マスクをつけなきゃいけなくても、やっぱり学校に行って友達とか先生と話したいです。とにかく、新学期が待ち遠しいです」

地域や学校によっては、まだマスクの着用を義務付けるところも多いようです

イランの学校でも、まだしばらくは教室内で間隔を空けて座ることになりそうです

こまめな手洗いや消毒もしばらくは欠かせないようです

 

ー今までのオンラインの授業はどうでしたか?

ーP;「正直言って、「楽だ」と最初は思っていました。特に冬の寒いときとか、雨が降っているときとかは、朝早く起きて学校に行かなくていいし、ヨカッタ!と思っていました。授業が始まる時間も学校に行っていたときより遅いし、前の日にちょっと遅くまで起きて遊んで、次の日の朝に寝坊してもそんなに問題にならない。ずーっとオンラインでもいいじゃないか、と思ってました。

でも、1年間ずーっとオンラインだった去年は、ちょっと飽きてしまいました。確かにネット授業はあって、先生が勉強を教えてくれるけど、すぐ隣に友達がいなくて『あれっ!?、そうだ、オンラインだった』という感じでつまらない。

逆に、ネットだから先生に怒られることもないし、ついさぼってしまったりとか、ほかの事をしてしまったこともありました。そのせいかどうかは分からないけれど、あんまり学力がついた気がしないです。ネット授業も合わせた生活全体がだれてマンネリ化してました。教室の授業もネットも、やっていることは同じなのに段々、こんなんでいいのかな?と思うようになりました」

勉強だけでなく、学校環境での同年の友達や先生との触れ合いは子どもの人格形成にとって欠かせません。

 

ーさて、朝起きて学校に行かなくていい、ということで最初は大喜びだった子供たちも、オンライン授業が長期化するにつれて、やはり今までのように学校に行って先生や友達と一緒に勉強したい、という気持ちが芽生えてくるのがほとんどのようです。また何事も長所と短所が抱き合わせであり、文明の利器とされるインターネットもその例外ではありません。Pさんは、オンライン授業の意外な問題点についても、率直に語ってくれました。

ーオンライン授業で、特に困ったこと、大変だったことはどんなことでしたか?

ーP;「やっぱり一番困ったのは、オンラインだとそれほど力がつかない、よく覚えられないということです。授業や宿題のちょっと分からないところとか、聞き逃したところを聞きたくても、誰もいない。えーっ、どうしよう?とすごいパニックでした。

先生もそれほど詳しくは説明してくれなくて、もう1回言ってほしくても、そのまま進んでしまうので、その場で質問ができないんです。教室だったらすぐ手を上げて質問できるのにな、と思いました。

そのため、私の学校では各クラスで教科担当代表を決め、クラス内での質問をまとめて代表のクラスメートが先生にネットで質問する、というやり方でした。でもこれでは納得いくまで説明してもらえません。本当に困った時は先生方はコロナ中も学校に来ていたので、個別に聞きに行ったこともあります。でもしょっちゅうこんな事はできません。本当に今一つすっきりしなかった。

それから体育や図工とかの実技科目は、ネットでは本当にやりにくかったです。体育は先生から与えられた課題の運動を動画に撮影し、図工は作品を撮影してネットで送りました。でも、こういうものは先生から直に手取り足取り見てもらわないと、ほかの教科よりもっとわかりにくいです。それに、ネットでは球技などの団体スポーツはできません!

ほかにも、停電やネット不良などで授業が中断されると、せっかく先生の話に集中していたのに内容が途中で切れてしまい、その後10分後、20分後に再開されても集中できず、やる気もなくなってしまいました。特に、ネットでの音声はそのときの具合によって聞き取りづらかったり、音声が途切れたりと、本当に大変でした。特に去年は夏休み前の最後の大事な時に停電がすごく多くて、宿題をネットで出そうとしたら停電でネットがつながらなくて、「どうしよう、どうしよう」と泣いたこともあります。ネットは便利ですけど、いい事ばかりじゃないんだな、ということがよくわかりました。

私の遠い親戚の1人で、同じ学年のTちゃんは、ガズヴィーンの町からものすごく遠く離れた、車で2時間ぐらいの田舎に住んでいます。そこでは人口も少なくてインターネットがありません。学校もものすごく小さく、子供の数も少なくてコロナにかかった人がいなかったそうです。だから、Tちゃんの地域ではオンラインではなくて、少人数のままいつもどおり学校に行って対面式での授業があった、と言ってました。すごいうらやましかったです。

それに新学期・授業が始まるといっても、オンラインではあんまり実感がわかない。友達や先生に会える、と思うと勉強にもやる気がもっと出てきて、学校に行こう、という気持ちになります。最初のうちは、登校しなくていいのは楽だ、と思っていたのが、去年の終わりには、『やっぱり学校じゃなきゃ嫌だ。全然勉強した気分にならない』と感じました。コロナ前は授業中に別のことを考えたり、友達と無駄話をしたこともありましたが、今度からはもっと先生の話をきちんと聞こうと思います。そして、友達とも思いっきり遊びたいです」

子どもにとって、やっぱり友達のいる学校が一番!

そしてPさんは、オンライン授業のもう1つの意外なデメリットとして、「これからは大雪が降っても授業が休みにならない。オンラインでばっちりやらなきゃいけない。コロナ前だったら勉強が休みになったのになー!」と苦笑していました。

 

今回の小学生・Pさんへのインタビューを通して、外部からは想像できない、オンライン授業の現場での色々な問題が垣間見られたような気がします。

やはり成長期、人格形成期にある子供にとっては、近隣社会や学校、そのほかの集まりごとなど、同年齢をはじめとする様々な人との交流は決して欠かせないものであると感じさせられました。

イランでも、日本やそのほかの国でも、特に自分と年齢の近い友達やクラスメート、先生の存在は子供にとって勉強などの活動の「動機付け」ともいえるのではないでしょうか。勉強はあまり好きではなくとも、「友達や先生がいるから学校に行く」ようになり、そうして周りに刺激されて色んな活動に取り組むようになったお子さんも決して少なくはないと思われます。

「やっぱり、先生に直接教えてもらわなきゃ!」

もちろん、この時期に基礎学力をつけることの大切さは決して否定できませんが、同時に他人とのかかわりあい方、接し方を身につけることは、今後どのような道に進むにせよ必要不可欠で、オンライン上のやりとりの基盤にもなると思われます。

もっとも、その一方で前代未聞の危機や緊急事態に直面したことで、学齢期の子供さん自身もきっと、学校に普通に通えることが決して当たり前ではなく、本当に価値のある貴重なものなのだということに気づいたのではないでしょうか。コロナ前まではどちらかというと勉強をさぼりがちだったり、学校にあまり行きたがらなかったような子が、これからは学校の有り難味に気づいて、今までとはがらりと変わる、ということにもなるかもしれません。

その一方で、仮に対面式の授業がなくても、また親や先生、誰かに言われなくとも自主的に宿題や勉強に取り組むことの大切さも、今回のコロナ危機を通して子供さん自身が体感したとも言えるのではないでしょうか。

そして、Pさんの体験談を初め、これまでのコロナ危機全般を通して、ニュース報道やネット記事、周囲の色々な人々の生活の変化などから、私自身今まで気づかなかった非常に多くのことを学ばせていただきました。

直接どこかに出向き戻るという、往復にかかる時間が減ったことからその分余暇が増えたことになり、これを1つのチャンスとみなして、それまでできなかったこと、やってみたいと思ってみたことに取り組み、またイランでは非常に多い親戚・近所同士の行き来が減った分、自分自身や自らの今後を見つめなおす機会にもなったと思います。

今回のコロナ危機により、一定期間人との直接対面を回避せざるを得なくなり、テレビ会議やオンライン授業、ネットでの在宅勤務が急速に広まり、また重要な手段となりました。今やインターネットによる情報化、デジタル化は世界的な潮流であり、時代の流れに逆らうことはできません。しかしその一方で、直接対面でないと不可能な事例もたくさんあります。また、このような時代だからこそ、人との関わりやアナログ形式のものの大切さが再確認されたような感がいたします。

2020年に始まったコロナ危機により、世界は良くも悪くも色々な意味で大きく様変わりしました。この期間中の経験を踏まえて、旧来のやり方にこだわることなく、必要に応じてこれまでの直接方式とオンライン形式の双方を有効に活用する、いわばハイブリッド方式が求められているようにも感じます。今後また、このような一大危機が生じる可能性も否定できないことから、今回のコロナ危機の経験は今後の色々な場面で是非とも生かされるべきではないでしょうか。

まずは学校に元気な子供たちの姿が戻り、また近いうちに彼らが、そして今回たくさんの貴重なお話を聞かせてくれたPさんが以前のように普通の学校生活が送れるよう祈願しまして、今月のレポートを締めくくりたいと思います。