アーモンドやピスタチオ、バラのつぼみ等で装飾したショオレザルド
早いもので、ついこの間明けたばかりだと思っていた2022年もあとわずかとなりました。本年は、世界的に見てやっとコロナ流行も一時期よりは下火になりつつある中、ウクライナ危機やそれに伴うインフレ、エネルギー危機の発生、さらには日本の安倍元首相やエリザベス女王といった世界の著名人の相次ぐ他界、世界各地での山火事や洪水などの自然災害の多発など、世界規模での衝撃的な出来事が相次ぎました。そして最後は西アジア初開催となったサッカー・ワールドカップW杯カタール大会で、相当の盛り上がりが感じられました。
イランでは、コロナ流行がかなり減少し、ほぼコロナ前に戻っているといえます。しかし、そうした中で去る9月から全国デモやストライキが今なお続いており、実のところ、今後の成り行きが予測しづらい状態にあります。
拙レポートを通じましてイランにご興味・ご関心をお持ちいただいた皆様に、お気軽にイランまで足を運んでいただくことがいささか困難な状況にあります中、本年最後のレポートといたしまして、再び西アジアの風味たっぷりのイラン式デザートの作り方をご紹介してまいりたいと思います。
今回ご紹介するのは米とサフランのプディングで、ペルシャ語で「黄色い炎」を意味する、ショオレザルドと呼ばれるデザートです。このデザートは主に米、サフラン、砂糖、バラ水などを使って調理され、先だってご紹介した「願掛け」用のメニューにも頻繁に登場します。
願掛け配布用に大量に作られたショオレザルド。シナモンで表面を装飾した例
来客向けの盛り付けの例
このデザートにはビタミンA、C、D、B1、B2、B6などの各種ビタミン、タンパク質、炭水化物、繊維、抗酸化物質、カルシウム、鉄、葉酸、セレン、マグネシウム、カリウム、リンを豊富に含むことから、胃や心臓の強化に効果があるほか、リューマチによる痛みの緩和、心卒中や脳卒中、血栓の予防作用があると言われています。
このメニューも表面の装飾に工夫を凝らすことで、非常にバリエーションがきくとされていますが、今回は一番基本的な作り方をご案内したいと思います。
<用意するもの>
米(普通の日本米でよいと思います)背の高いガラスのコップ2杯
砂糖 同3杯(甘みを聞かせるため、このくらいの量を必要とします)
バター 50g
バラ水 ティーカップ半分
サフラン 適量(全体が黄色く染まるのに十分な量)
シナモン 適量
<作り方>
1.米を洗って水に浸けておく。インディカ米を使用する場合は5~6時間は浸けておくとよい
2.水でふやけさせた米と適量の水を鍋に入れてガスにかけ、沸騰してきたら、中火でそのまま煮続ける。水が完全になくならないように注意しながら、木製のしゃもじなどで時折混ぜる
3.米を煮ている間に、サフランの粉末を湯で溶かし、沸騰しているやかんの上に乗せて煎じる
4.米がある程度煮え、形が崩れかかってきたら弱火にしてさらに完全に形が崩れるまで、水を少しずつ加えながらどろっとした状態になるようにさらに煮込む。
5.米の形が完全に崩れたところで、湯に溶かしておいたサフランを加えてよく混ぜ、全体に行き渡らせる
6.バター50gを加える。(旨みをつけるため)
7.砂糖を加えて、ゆっくりとよく混ぜ合わせる
7.味付けの最後に、バラ水を加えてよく混ぜ合わせて出来上がり。
なお、ここまで煮込むための時間は具体的には触れていませんが、使用する米の質などによって異なるようですので、中火で沸騰させて、米の割れ具合、形の崩れ具合や水の量をご自分で確かめながら煮込んで下さい。そして、最終的には写真のように水が多すぎず、少なすぎず、どろっとした状態になればよろしいかと思います。
また盛り付け方の基本は、適量のシナモンで字や模様などをつけることですが、ほかにもアーモンドやピスタチオ、カルダモン、乾燥したバラなどを加えて、さらに華やかな装飾にすることもできます。
また、出来上がったショオレザルドを型に入れて冷蔵庫で冷やして固めても、面白いものが出来上がります。
ところで、今回ご紹介したショオレザルドは、イラン南東部ケルマーン州が発祥地だと言われ、同州では「イブラーヒーム・ハーニー」として知られています。これは、このデザートがガージャール朝時代(1785~1925)にケルマーンの為政者だったイブラーヒーム・ハーン・ザヒーロッドウレ(位1803~1824)により、初めて民衆の間に配られたことに由来しています。
イブラーヒーム・ハーン・ザヒーロッドウレ(位1803~1824)
伝えられるところによりますと、イブラーヒーム・ハーンがあるとき米を湯取り法で米飯に炊き上げようと、米を半煮えの状態にしようとしていました。ところが、彼が気がついたときにはすでに米は煮えすぎて、形が崩れ開いてしまっていました。そこで、彼は自分より位の高い上官に叱責されまいと、この煮過ぎた米に砂糖とサフラン、そしてバラ水を加え、新たなメニューと称します。
当時はガージャール朝中央政府の為政者アーガー・モハンマド・ハーンの襲撃の影響で、ケルマーン地方の人々の暮らしや栄養状態は劣悪なものだったとされていました。そこで、イブラーヒーム・ハーンは人々の生活水準の改善を目的に、まず最初の措置して人々の栄養改善のため、自ら創作したこのメニューを「イブラーヒーム・ハーンの食事」、すなわちイブラーヒーム・ハーニーと称して調理し、民衆に配ったということです。彼は特に、民衆によりスムーズに配布できるよう銅製の器にショオレザルドを入れ、自身の名でこれをイブラーヒーム・ハーニーと宣言し、以後ケルマーンではこのデザートがイブラーヒーム・ハーニーと呼ばれるようになったとされています。
その後、このメニューは比較的簡単に調理でき、しかも栄養価も大変優れていることから、一般大衆そして貧しい人々の間にも広く流布したということです。
このことから、現在でもケルマーン州では、ラマダン月の願掛け食として、特にショオレザルドが配布されることが多くなっているそうです。
一般への配布用に大量に調理されたショオレザルド
シーア派追悼行事の際などに配布されるショオレザルド。表面にシナモンでシーア派の偉人の名が書かれています。
お蔭様をもちましてこの拙レポートは本年、投稿開始から10周年という大きな節目を迎えることができました。その一方で、10周年はあくまでも1つの通過点と捉え、より一層の内容の充実化を目指しまして、気分新たにその後も日本でお試しいただけそうな内容や、著者の身の周りで起きているホットな話題などを中心にお届けしてまいりました。
現在、日本など東アジアを中心にまだまだコロナ流行が心配されているものの、観光業界や航空業界も回復の兆しが見られるようになってきています。今後は益々国際化、ボーダーレス化が進み、自分の身の周りが必ずしも日本生まれの日本人ばかりではなく、色々な国からやってきた、様々な背景を持つ人々が共存していくことが一般化していくと思われます。
拙レポートを通じましてより多く身の皆様にイランの真の魅力を知っていただき、そしていつの日か読者の皆様にイランに実際に足を運んでいただけますことを願っております。そして、毎月のこのレポート発信により、本当の意味での「地球村」の実現に少しでも貢献したいと考えております。
本年も、拙レポートをお読みいただき、本当にありがとうございました。2023年が読者の皆様にとりまして、より一層輝かしい年になることを祈願いたしまして、今月のレポートを締めくくりたいと思います。それではまた、新春のレポートでお会いしましょう。