イランの大自然が織り成す絶景・マーフネシャーン丘陵
七色に輝く「地上の虹」
これまでしばらくは、全世界を巻き込んだ新型コロナウイルスの大流行の影響により、旅行や移動が大きく制限された状況が続いていたことから、旅行に関する話題よりも皆様がご自宅で楽しんでいただけるような話題、特に料理を中心とした話題をご紹介してまいりました。
しかしこのほど、ある伝で思わず目を見張るようなイランの知られざる見所の存在を知るに至りましたことから、是非日本の皆様にもお伝えしたく、またコロナ危機が収束した暁にはイラン観光ルートにも組み入れていただきたいと考えました。おそらくは、市販のガイドブックなどにも掲載されていないと思われますことから、この機会にご紹介させていただきたいと思います。
今回ご紹介するのは、テヘランの北西およそ300キロほど離れた、北西部ザンジャーン州にあるマーフネシャーン丘陵です。正確にはザンジャーン州マーフネシャーン郡、隣接した東アーザルバーイジャーン州の中心都市タブリーズの北東25kmに位置しています。
この丘陵地帯は、この地域で話されているトルコ系の言語・アゼルバイジャン語でアーラー(色)=+ダーグ(山)ラール(複数形語尾)、即ち「色の山々」と呼ばれ、まさにその名のとおり七色に輝く山となっています。
七色に輝く山といえば、中国北西部・張掖にある「張掖丹霞地形」、通称・七彩山や南米ペルー・クスコ市近郊にあるレインボーマウンテンなどが特に有名かと思われますが、今回はそのイランバージョンというに相応しい、「イランの七彩山」が織り成す絶景と、これにまつわる話題をご紹介してまいりましょう。
ザンジャーン州といえば、数年ほど前に本レポートにおきまして、ユネスコ世界遺産にも登録されている「ソルターニーエ・ドーム」をご紹介させていただきました。しかし、この州にはそれ以外にも見落とせない、知られざる景勝地が存在しています。
その意外な景勝地が、これからご紹介する「イランの七彩山」ことマーフネシャーン丘陵です。今回は、大地の虹、地上の美術とも言えるこの大自然の美を、皆様にお楽しみいただければと思います。
とにかく、この丘陵の第1印象は鮮やか、えもいわれぬ色という表現に尽きるのではないでしょうか。
まず、マーフネシャーンという名称についてですが、先人の言い伝えによりますと、ここには太古の昔、イラン系の民族メディア人が居住していたことから、ペルシャ語でマード(メディア人)+ネシャーン(しるし)と呼ばれていましたが、後に現在の名称のマーフネシャーンに変わったと言われています。また当時、メディア人たちはイラン暦の新年を祝うに当たって、この地域のカラフルな土で自宅を装飾していたとも伝えられているそうです。
その山肌は赤、緑、緑、オレンジ、黄、白、茶色などの色彩を放っているように見えますが、これはこの丘陵地帯を形成する土壌に含まれる鉱物や堆積物が長期間にわたり酸化、圧縮されたことによるものだということです。赤は土壌に含まれる鉄分によるもので、緑に見えるのは、土壌に含まれる銅が炭酸化することによるものだそうです。また、地質学的な見解では、この丘陵地帯の歴史は1500万年前に遡ると言われています。
まさに「大地の色鉛筆」とも言える、カラフルな色の筋が印象的です。
まるで、天然のチョコ・ホワイトクリームケーキの断面のようです。
まるで、布地やカーテンを広げたようにも見えます。
このカラフルな丘陵地帯の総面積は約70km2、この区域の最高峰は、ベルゲイス峰の標高3300mとされています。
とにかく、この丘陵地帯はそのときの天候や陽気、また見る角度や地点によって、実に様々な様相に見えます。特に見え方を左右するのは太陽光線の加減のほか、秋雨や冬の積雪だということです。このため、この丘陵は常時見学シーズンにあり、年間を通して四季折々の独自の見え方が楽しめると言えます。
大自然が生み出した芸術は、まるで別世界のようです。
雲がかった空と縞模様の山肌が生み出す見事なコントラストを楽しむこともできますし、山肌の1つ1つに注目してみても面白いものです。70km2もある広大な丘陵地帯であるがゆえに、見る位置や角度、地点によっても実に千差万別の様相が見て取れます。
虹のかかった貴重な瞬間
筋状の残雪も丘陵地帯の美しさを引き立たせています。
この丘陵地帯だけに注目していると、あたかも別の惑星にいるような感覚さえ沸いてきそうです。
山肌とそこに生えている植物のコントラストも見事です。
臙脂と白が見事にマッチした山腹の斜面
とにかく、摩訶不思議の世界の連続という感じです。
山肌に見える皺も、絶景をかもし出す上で大きな役割を果たしていると思われます。
水溜りに映し出された丘陵地帯。山の色の茶と白、青空のコントラストが見事です。
不思議な縞模様が作り出す世界
残念ながら、現時点ではこの区域には観光客を受け入れる十分な宿泊施設などはまだ整っていないようです。そのため、国外はもとよりイラン国内でもこの名所はあまり知られていないということです。このため、今後この地域への投資・開発により、さらに多くの観光客を誘致していくことが望まれます。
このたびご紹介させていただきました、「自然の色鉛筆箱」などとも称されるマーフネシャーン丘陵は、イランの大自然の豊かさに花を添えるような存在かもしれません。とにかく、この丘陵地帯は総面積が広いことから、見る角度や地点によって、また同じような地点でもその時の天候や日光の加減などによって見え方が微妙に違ってくるようです。
コロナ危機が収束、あるいはもう少し落ち着いた暁にはぜひ、皆様に直にイランを訪れていただき、イラン人にもそれほど知られていない国内の名所をご覧いただけますことを祈願いたしまして、今月のレポートを締めくくりたいと思います。