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イラン中部・カーシャーンへのバラの旅

 

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イラン中部・カーシャーンへのバラの旅

イランでは、誕生日のパーティーで唱えられる文句に、次のようなものがあります。「ゴラーブ、ゴラーベ・カーシュネ、タヴァッロデアリージュネ」 カーシャーンのバラ水、カーシャーンのバラ水、アリーちゃんの誕生日、という意味ですが、~ちゃんの誕生日のところには、当然誕生日を迎える人の名前を入れます。このように、カーシャーンで生産されるバラ水は、非常に優雅で美しいもの、よい香りをもたらすものに例えられています。イラン中部の都市カーシャーン、正確にはその近郊の集落にて、毎年5月上旬から1ヶ月間ほど、バラの花を摘み取ってそれを煎じ、その蒸留水を取り出すという、イランの他の地域では見られないイベントが行われます。先日はこの行事に密着取材してまいりました。今回はその最新情報をお伝えします。

 

カーシャーンとその近郊都市

カーシャーンは、テヘランの南およそ200キロ、すなわち首都テヘランと、かつては世界の半分と評されたイスファハーンのほぼ中間に位置しています。今回、バラの花の蒸留水を造る作業を見学するのは、カーシャーンの南西45キロほどのところにあるバルゾクという村です。カーシャーンの近郊都市でバラの生産地といえば、むしろガムサルやニヤーンサルといった町の方が有名ですが、実際には今回訪れたバルゾクでのバラの生産量だけで、全体の70%を占めているとのことです。

さて、車でテヘランを出発し、宗教都市ゴムを経てカーシャーンに入りました。内陸ではあるものの完全な砂漠ではなく、背丈の低い潅木がたくさん見られます。ところで、カーシャーンを出て目的地のバルゾクに向かっていると、いつの間にかカーシャーンよりも涼しくなってきていることに気づきました。カーシャーンとその近郊の集落だけで4つの気候区分が存在する、といわれるゆえんです。車で数十キロ移動しただけで、もう気候が違ってくるという、何とも面白い現象でした。

バルゾク村のバラ畑

そして、いよいよ目的地のバルゾクに到着しました。ここは、人口わずか5000人ほどの小さな集落で、行政区分上はカーシャーン市の管轄下にあります。周りを山に囲まれたこの村の名前は、小川の流れる高度の高い土地、という意味だそうです。目の前には、一面のバラ畑が広がっており、その面積はなんと400ヘクタールにも上る、ということでした。先にもお話したように、この村で取れるバラの量は実質的に他のどの町よりも多く、また400ヘクタールという広さのバラ畑も随一だそうです。広いこの畑には、シーズンとあってか、たくさんの人々が見学に訪れていました。よく見ると、それぞれのバラの植え込みの根元に、黒いホースが通っています。ホースには穴があけてあり、バラの根元のみに効率よく水分を送るための措置だということでした。

バラの花の蒸留水を取り出すのに使われるのは、ゴレモハンマディーと呼ばれる、ピンク色で小さなサイズのバラです。それまで連想していた赤いバラとは違い、桃の花のような上品なピンク色のバラでした。においとしては、普通のバラとさほど変わりませんが、普通のバラよりはとげも短く、花の形は日本の八重桜のようなイメージを受けました。畑では、作業員の方が1つ1つ丹念にバラの花を摘み取っていきます。このバラの摘み取り作業は、朝日差しが強くなる前に行われるということでした。

バラ水造りの作業所とバラ水の特質

この町ではバラ水を大量生産する工場をいくつか見かけましたが、大量生産されたバラ水よりは、伝統的な方式で作られるバラ水のほうが品質もよく、値段も違うということです。一般に販売されているバラ水は、ほとんどが大量生産されたものだそうです。なお、この町には、現代的な大量生産方式の工場のほか、伝統的な方式でバラ水を作る作業所が120箇所以上もあるとのことでした。

今回は、伝統的な方式でバラ水を造っている個人の作業所を見学させていただきました。一面のバラ畑から車でさらに10分ほど走ったでしょうか。バラの蒸留水を取り出す作業を行っているお宅の作業所に到着しました。ここでは、家内工業のようなスタイルで、毎年このシーズンに集中的にバラ水を生産しています。また、バラ水だけでなく、ミントなど30種類もの植物の蒸留水を生産しているとのことでした。出来上がったバラ水を保管してある倉庫に案内してもらうと、たくさんのポリタンクに詰まったバラ水が、2種類に分けて保管されていました。なぜ、2種類に分けられており、またこの2種類のバラ水にはどのような違いがあるのでしょうか。これについて、今回見学させていただいた作業所のオーナーのご親戚にあたる、ハミード・ダスターニーさんによりますと、「この作業所では、1つの大きな釜に、水とおよそ30キロのバラの花を入れて煎じ詰めますが、この花は2回使用します。つまり、1回目の煮出し作業で使った花をさらに数時間煎じて、もう1回蒸留水を採る、という作業を行っています。1回目の作業で取れた蒸留水は第1種、2回目の作業で取れた蒸留水は第2種として区別されます。結論から言って、第1種のほうが品質も優れており、お菓子作りや冷たい飲み物の香り付けなどに使用されます。これに対し、第2種の蒸留水は、お墓参りの際にお墓を清めるために撒くときなどに使われます。また、バラの蒸留水は、食物や飲料の香り付けに使われるとともに、心臓や神経、歯茎の強化など、天然の薬用効果もあります」ということでした。

バラ水蒸留作業の進行過程

いよいよバラ水の伝統的な蒸留作業が始まりました。大きな釜が4つ並んでおり、それぞれの釜にバラの花を30キロ、水を50リットルずつ入れ、しっかりと蓋を閉めます。その蓋に管を差込み、別の入れ物に管のもう一方を差し込んで、蒸留されて出てくるバラ水を溜め込みます。バラ水を蒸留するための所要時間は、およそ4時間とのことです。この作業所のオーナーの娘さんにあたる、シェイバー・ファッラーさんは、「この作業所では、1日におよそ1トン強のバラ水を生産しています。1回当たり、4時間煮詰めると、1つの釜からおよそ80リットルのバラ水が取れます。摘み取ったばかりの新しいバラからまず、第1種の蒸留水を取り出した後、もう1度水を加えて、さらに80リットルの第2種の蒸留水を取り出します。また、この作業に使用されているのは、近くの泉から湧き出る清水です」とおっしゃっていました。

さて、作業は順調に進み、4つの釜に差し込まれたそれぞれの管を通って、4つの別々の入れ物に、バラの蒸留水が溜まってきました。この蒸留水を貯める入れ物は、水の中に沈められ、すぐに冷却される仕組みになっています。ここで、作業所のオーナーの方が蒸留水の溜まった入れ物の蓋を開けて中を見せてくれました。よく見ると、黒味を帯びた粘り気のある物質が水面に浮かんでいます。これは何ですか、と尋ねると、次のように答えて下さいました。「蒸留水の表面に固まって見える、黒味を帯びたこの物質は、バラに含まれている脂肪分です。一般に、バラの香水と呼ばれるものは、この作業のプロセスにより生産され、その品質の高さは保証つきです。なお、私たちの村で造られているバラの香水は、ドイツなどのヨーロッパにも輸出され、とても珍重されています」

そして、この作業所のオーナーの方は、2種類のバラ水の風味を比べてみて欲しいとおっしゃいました。まず最初に出されたバラ水は、バラ特有の香りとともに、ほろ苦い風味が感じられましたが、2回目に出てきたものは、バラの香りはするものの、それは幾分弱く、またほろ苦さは感じられません。お話によると、このほろ苦さのある方が、品質の高いとされている第1種のバラ水だということでした。

バルゾク村の特徴と地元民との触れ合い

お話を伺っている間にも、絶え間なくさわやかな涼風が、辺りの雰囲気を和ませてくれました。この村は、内陸部にあるものの、山岳地帯に囲まれ、水源に恵まれており、また夏の一番暑いときでもクーラーなしで過ごせるとのことです。また、この村にはアフマドアーバードの泉があり、毎年たくさんの観光客が訪れる、ということでした。そして、地元の方のお話では、この村よりもっと気温の高い乾燥した地域では、すいか、なつめやし、ピスタチオが多く見られるのに対し、ここでは水源に恵まれ、夏でも快適な気候であることから、胡桃やアーモンドがたくさん取れるということです。

今回訪れたバルゾク村の人々は、とても純朴でした。大都市と比べると、娯楽なども少ないようで、昔ながらの造りの大きな家屋に住んでいます。彼らは、初めてこの村を訪れた外国人の私を、快く受け入れてくれました。バラ水を造る作業が終わってからは、作業所のオーナーのご家族と一緒の昼食に招かれ、その席上で、どうしてイランに住んでいるのか、またイランでの滞在年数、宗教は何か、日本では仏教徒が多いのか、イランでの生活と日本での生活を比べてみてどうか、など、彼らは好奇心にまかせて様々な質問をしてきます。彼らの話す言葉は、標準語とそれほど変わりないように思われましたが、お年を召した方の話す言葉には、この村特有と思われる方言が見られました。彼らから口々に、是非またこの村に来て欲しい、今度は泊りがけで来てくださいと言われ、私もこの村が気に入ったし、皆さんに再会したいから、必ずまた来ます、と約束しました。ペットボトルに何本ものバラ水をお土産に頂き、バルゾク村を後にしました。

このバルゾク村をはじめ、カーシャーンには今回時間の都合で訪れることのできなかった名所旧跡がたくさんあります。今後、機会ができた折には、もう少し時間をかけてカーシャーンとその近郊をじっくり見て回りたいと思います。

最後になりましたが、今回の番組制作に当たりまして、カーシャーン市ご出身のハミード・ダスターニーさん(Mr.HAMID DASTANI)、シェイバー・ファッラーさん(Ms.SHEIBA FALLAH)、そしてハサン・ダスターニーさん(Mr.HASAN DASTANI)に多大なご協力をいただきました。この場を借りて、厚くお礼申し上げます。誠に有難うございました。
I APPRECIATE YOUR COOPERATION FOR PRODUCING THIS PROGRAM..THANK YOU VERY MUCH. KHEILI MAMNUNAM AZ HAMKARI-YE SHOMA.