テヘラン便りの初レポートの取材の場となった、イラン中部キャヴィーレメスル砂漠(2012年4月)
テヘラン国際書籍見本市での日本ブース(2013年5月)
世界遺産ビーソトゥーンの碑文(2017年12月)
早いもので、終始コロナ関連の話題が絶えなかった2021年も終わりを迎えようとしています。昨年に始まったコロナ危機の延長となった今年は、このレポートではなるべく読者の皆様がご自宅でお楽しみいただけるような話題として、主にイランの料理やデザート、軽食のレシピと作り方をご案内してまいりました。今月は年末ということもあり、ひとつの節目として、また初めての試みとして、これまでお届けしてまいりましたテヘラン便りを振り返り、総括しての雑感をつづってみたいと思います。
中部イスファハーンの世界遺産の1つ・イマーム・モスクを見学(2015年12月)
拙レポートは東日本大震災の翌年、すなわち2012年の4月より、ソフィア株式会社・代表取締役の川﨑 知様より、いわゆる普通のメディアや当時のガイドブックなどでは得られないと思われる、イラン在住者からの直接的な生の情報を提供して欲しいとのご依頼を受け、毎月の定期レポートという形で開始させていただきました。
それ以来、市販のガイドブックには掲載されていないと思われるイランの見所を少しでも多くご紹介したいという思いが強まり、イラン国内旅行を中心に毎月のレポートをアップさせていただきました。特に初レポートとなった旅行先のイラン中部・キャヴィーレメスル砂漠では、日本では見られない一面の砂漠のほか、初めて経験したラクダ乗りや、土壌に含まれる塩分が生み出す大地の幾何学模様、砂漠の夜空に広がる満天の星がとても印象的でした。
コロナ大流行前までは、特に自身が旅行好きでもあることから、折あるごとに訪れてきたイランの見所、いわゆる有名な場所はもちろん、市販のガイドブックやメディアにはあまり出てこないのではと思われるような場所にもスポットを当ててご紹介してまいりました。
北部ギーラーン州・ルーデハーンの城砦(2012年11月)
実はこの城砦を見学することになったのには、ちょっとした裏事情があります。この時のツアーを申し込む際に、別の場所を訪れるつもりで申し込んでいたのが、複数の事情が重なってそのツアー自体が中止となり、代わりに薦められたのがルーデハーン城砦だったというわけです。ですが、行ってみたら話題も多く素晴らしいスポットであることに感激し、非常に思い出の多い旅行となりました。
イランといえば、一般の日本の皆様がご想像されるのは「砂漠」かもしれません。そのとおり、イランには確かに砂漠が存在しますが、いわゆる普通のイメージとして浮かぶ砂漠とはまた一味違う、イランならではの砂漠が存在しています。そこでお勧めしたいのが南東部ルート砂漠にある様々な形状の砂柱が形成する、ペルシャ語でキャルートと呼ばれる独自の地形です。
これはさながら、イランのグランドキャニオンとでも言うにふさわしい光景と思われます。ほかの乾燥地帯にはない、イランならではの砂漠の雰囲気を味わうのに最適なスポットとして是非お勧めです。
しかしイランの自然は決して砂漠だけではありません。キャビアで有名なカスピ海とその沿岸部の緑豊かな地域は看板と言ってもよいのではないでしょうか。
ハスの花が咲くアンザリー湿原
カスピ海は地理学上は湖ですが、行ってみたら向こうが見えないのにビックリ。総面積が日本よりも大きいのですから、当然ですよね!テヘランから車で3,4時間ほどでアクセスできる世界最大の内海のスケールを味わってみてはいかがでしょうか。
カスピ海沿岸の「海の家」(2018年11月)
そして、イラン北部の名所といえば、ギーラーン州にある階段状の家並みで有名な「マースーレ村」があります。ある家の屋根がその後ろ側の家の庭になっているという、大変面白い建築構造で知られています。
マースーレ村。前の家の屋根が道路や後ろの家の庭になっている不思議な光景(2013年7月)
しかし、イランにはとにかく見所が多く、地形や景勝地もじつにバラエティに富んでいます。
イラン国内最大、かつ地底湖がある洞窟としては世界最大とされる西部アリーサドル洞窟(2019年4月)
イランの自然として注目したいもう1つの看板的存在は「ペルシャ湾」ではないかと思います。ニュースなどに出てくる「石油地帯」、「湾岸戦争」などのイメージとは打って変わって、エメラルドグリーンに輝く、まさに「美ら海」にふさわしいのではないでしょうか。紺碧のペルシャ湾に面したバンダルアッバース港湾から(2014年11月)
そしてペルシャ湾に浮かぶゲシュム島は、島全体がまさに自然博物館という感じです。ペルシャ湾とともに、ゲシュム島もお勧めのスポットの1つです。
ゲシュム島内の特異な地形「星の谷」
ゲシュム島の「マングローブ林」
ペルシャ湾に面した魚市場で新鮮な魚を販売する女性
イランの観光名所として、今後ぜひ加えていただきたいと思われるスポットの1つに、同国の建国者ホメイニー師の生家があります。テヘラン南部にあるこの人物の墓廟が有名かもしれませんが、イランの偉人の生家を観光ルートに加えてみてはいかがでしょうか。
中部マルキャズィ州ホメインにあるホメイニ師の生家の入り口
ホメイニ師の生家の一室にて(2017年1月)
イラン中部には意外な名所が目白押しです。
イスファハーン州にある世界最大規模のヌーシャーバード地下都市遺跡(2019年6月)
赤レンガの町並みに花柄のスカーフが印象的だった中部アブヤーネ村(2015年10月)
気候風土の変化に富んだイランには、滝も数多く存在します。
中部カーシャーン近郊;ニヤーサルの滝(2017年3月)
また、テヘランからそれほど遠出をしなくとも、近郊地帯に意外な名所が存在します。その1つが、テヘラン北東部にそびえ、外見が富士山に類似していることから「イラン富士」とも称される中東最高峰のダマーヴァンド山(標高5611m)です。
イラン富士として知られるダマーヴァンド山(2013年11月)
ところで、イランはイスラム教国ではありますが、ほかの宗教にも寛容であり、古くからキリスト教徒やユダヤ教徒らと平和共存してきている様子がいたるところに見られます。以下は、テヘラン西部ガズヴィーン州にある、国内最小のキリスト教会・カントゥル教会です。
イラン最小のキリスト教会・カントゥル教会(テヘラン西部ガズヴィーン、2015年6月)
複数の宗教の共存といえば、イランではゾロアスター教(拝火教)の存在を忘れてはなりません。イラン中部ヤズドの名所の1つに、かつてゾロアスター教徒の鳥葬に使われていたとされる鳥葬の塔(通称;沈黙の塔)があります。なお、現在は観光用複合施設となっています。
沈黙の塔(2014年1月)
なお、中部ヤズドは世界最大の「日干し煉瓦の町」でもあります。
日干し煉瓦の建物が並ぶヤズドの町並み
アラムート城砦(テヘラン西部ガズヴィーン、2019年5月)
そして勿論、世界遺産もいくつかご紹介してまいりました。先にご紹介した名所のほか、イランにある世界遺産を、コロナ収束後にはぜひ日本の皆様にも訪れていただけますことを願っております。
中部イスファハーン・「ナクシェジャハーン広場」(2015年12月)
北西部ザンジャーン州の「ゴンバデ・ソルタニエ」を背景に(2017年8月)
南西部シューシュタルの水利設備群(2013年2月)
南西部フーゼスターン州にあるチョガザーンビルのジッグラト(2013年2月)
西部ビーソトゥーン壁画・ヘラクレス像の前にて(2017年12月)
イラン式庭園の1つ・フィーン庭園(中部カーシャーン、2015年11月)
そしてこのレポートでは、イランの観光名所のみならず、折々のイベントや年中行事なども取り上げてまいりました。
シーア派最大の追悼儀式アーシュラーでの「鎖打ち」の行列(2018年9月)
ノウルーズ最終日の「自然の日」のピクニックの様子(2018年4月、テヘランにて)
イスラム革命40周年の節目に当たる革命記念日の大行進(2019年2月)
ラマダン月のモスクでの断食終了後の夕食(2018年5月)
イラン暦の春の新年の最後の火曜日の夜に行われる跳び火のイベント(2016年3月)
名所旧跡のみならず、イランに複数の宗教が共存していることは、国内のアルメニア教徒のクリスマスの儀式にも見て取れます。
テヘラン市内のアルメニア教会の聖歌隊(2016年12月)
クリスマスシーズンにアルメニア教会を訪れるイスラム聖職者
イランは7世紀にイスラムが伝来するまでは、ゾロアスター教(拝火教)と呼ばれる、日本で言う神道に相当する古来の宗教が主流でした。アラブ人の侵略によりイスラム化して以降は、わずかではあるものの中部ヤズドをはじめとする国内のゾロアスター教徒は自らの宗教信仰や慣習を守り、それは現在でも生き続けています。この宗教については、2013年4月にご紹介しました。
中部ヤズドでの拝火教の儀式
先にご紹介したイラン暦の春の新年前の跳び火の儀式、そしてこのレポートで何度か取り上げたイランの春の新年ノウルーズの儀式も、実はゾロアスター教が起源となっています。以下はゾロアスター教徒によるノウルーズの儀式の様子です。
なお、今ではイラン国内のいずれの宗教の信者もノウルーズを盛大に祝いますが、その際に食卓に備える縁起物に加えて、イスラム教徒はコーランを添え、ゾロアスター教徒は教典「アヴェスター」を添えることになっています。またこの風習はユネスコの無形文化遺産に登録されており、2010年に国連総会は3月21日をノウルーズ国際デーと発表しています。
ノウルーズの食卓(2013年3月ほか)
さらに、これもゾロアスター教起源と言われ、日本やそのほかの北半球の国のクリスマスシーズンにちょうど重なる折、冬至の儀式もご紹介しました(2013年12月)。この日にはザクロやスイカなどを食べるほか、家族や親戚で集まってハーフェズ詩の占いも行われます。
冬至の夜にハーフェズ詩集による占いに興じる家族
さらに、先にお話したような多種多様な気候風土、自然の豊かさなどから、それに直結したイベントも決して少なくありません。
特に毎年5月から6月にかけて中部カーシャーンで行われる、食用、香水用のバラの摘み取りおよび、バラ水作りはその代表ともいえるものです。この作業は、コロナ発生後もつつがなく実施されています。
カーシャーン近郊でのバラの摘み取り(2020年5月ほか)
バラ水生産工房で、大なべを使ってのバラ水抽出(2019年7月にご紹介)
コロナ禍中もザクロ収穫(中部マルキャズィ州、2020年10月)
逆さチューリップの開花(南西部コフギルーイェ・ブーイェルアフマド州など、2020年5月)
そして、イランでの日常生活や生活に密着した風習なども取り上げてきました。
イスラム聖職者が立ち会っての婚姻の儀式(2016年11月)
イランの新学期(2015年9月)
イランの食文化に見るパン(2020年12月)
春の新年用の麦芽ペースト(サマヌー)作り(2019年3月)
記録的な大雪の中で雪遊びに興じる人々(2019年1月)
しかし、自然・宗教・文化・一般的な習慣やイベントに加えて、イラン人の政治意識には目を見張るものがあります。それが如実に現れているのが選挙であり、投票という行動に対する彼らの誇りが見て取れます。
イラン大統領選で投票し満面の笑顔でVサイン(2017年5月)
夜になっても投票待ちの列は絶えず、また若者や女性の姿も目立ち、世界的にも注目(2017年5月)
そして、日本とイランが関係する重要な出来事や、筆者が参加したイベントを取り上げたほか、日本と何らかの形で関わりのあったイラン人やイランに関係した外国人のインタビューも試みました。
安倍首相夫人がイランをご訪問(2016年5月)
世界有数の親日国家とされるイランでは、日本文化週間のイベントも開催されました。
餅つきや華道の体験も実施(2016年2月)
テロ組織ISISの犠牲者・後藤健二さんのお母様である石堂順子さんに書簡を送ったアーテフェ・タルガーニーさんにインタビュー(2015年2月)
世界を自転車で旅するドイツ人サイクリスト夫婦と(筆者は左端、2017年4月)
テヘラン国際書籍見本市に、日本・イラン友好協会代表として琉装で参加(2013年5月)
そして、親日国イランの特に最近10年ほどの動向として特に注目したいのが、様々な年齢層や大都市や地方都市をはじめとして、折り紙が認知され盛んになってきていることです。
最近では、特にイランの幼稚園や保育園で折り紙がカリキュラムに組まれているところが多くなっています。
2015年3月には、テヘランに「折り紙はうす」とでも言うべき「ロウシャナー折り紙ランド」が開設されました。またコンテストやワークショップ、講習会なども頻繁に行われています。
作品展に出展されたイラン人による折り紙の作品。年々手の込んだ複雑な作品が沢山出品されています。
最近ではイランでも折り紙用の紙が市販
そしてもちろん、イランは古来からの独自の芸術や手工芸の盛んな国でもあります。
イランの伝統的な打楽器トンバク(2020年1月)
ペルシャ書道の作品(2016年6月)
西部ガズヴィーンの手工芸(2019年11月)
北西部マメガーン地区の独特の手工芸(2021年1月)
このように見所や名所が多く、楽しい話題やイベントに事欠かないイランですが、長い間には試練もありました。その1つが、2017年に西部ケルマーンシャーを襲った大震災です。この地震で、物的・人的に甚大な被害が発生しました。
建設中の建物が崩壊(ケルマーンシャー州、2017年11月)
最高指導者が自ら被災地を訪問して人々を激励(2017年11月)
そして昨年初めから世界を襲ったコロナ危機は、イランにも押し寄せています。イラン国内も何度もロックダウンを余儀なくされ、町中を消毒する光景が頻繁に見られました。
閑散としたテヘラン市中心部・キャリームハーン広場(2020年3月)
テヘラン市内の消毒の様子(2020年3月)
夜間の通行車両にも検温が実施
コロナ禍は大人ばかりでなく、明日を担う学齢期の子供たちにも容赦なく押し寄せています。コロナ危機が始まってしばらくはマスク・手袋着用、消毒、検温の徹底などによる対面式の授業が許されていました。
マスク着用で登校
教室内では常に手を消毒
教室に入る前に検温
しかし、イランでもコロナ感染者・犠牲者が非常に増えたことから、ついに学校教育もオンライン式となりました。初めてのオンライン式の学校授業は、学齢期の児童生徒にとっても大きな試練だったといえます。マスク着用で文房具店にて必要なものを買い求め、オンラインで授業に臨む日々が始まりました(2020年8月)。
文房具店で新学期に向け学用品を求める親子
自宅でのオンライン授業に臨む小学生
最近になってやっと、イランでも週のうち一部の日のみ登校し、対面式とオンライン式を併用しての授業が開始されています。とにかく、コロナ危機は全ての人々にとっての試練・転換期ともいえるのではないでしょうか。子供たちが以前のように安心して学校に通えるようになる日が来ることを祈るのみです。
コロナ大流行2年目となりました本年は、読者の皆様にもご自宅でお楽しみいただけるような内容といたしまして、日本でも作れそうなイランの家庭料理やデザートのレシピと作り方を中心にご紹介してまいりました。いわゆる名所旧跡や観光面のみならず、日本にいながらにして皆様に西アジアの魅力や風味を少しでも感じていただければ、本レポートを発信させていただく側として、この上ない喜びです。そしていつの日か、コロナ流行が収束、あるいはもう少し落ち着いたときに、ぜひ皆様ご自身にイランに足を運んでいただき、間近にイランの魅力を体験していただけますことを願っております。
イラン北部起源の人気メニュー・「ミールザーガーセミー」
とにかく、イランは観光名所や景勝地、独自のイベントなどが多いほか、日常の身の周りの出来事、四季折々の現象などとにかく話題に事欠くことなく、毎月が新しい発見のような感じでした。もっとも、長い間には国内事情や混乱によりネット遮断や長時間の停電など、ある意味での試練のようなものにも遭遇しました。しかしそれも、今となっては1つの思い出となり、またレポートにまとめる上でいろいろな伝やネットを利用して新たな知識を得られることもあり、お蔭様をもちまして毎回楽しく続けることができました。
しかし、このレポートにてご紹介させていただいた内容、見所は、あくまでもイランのほんの一部に過ぎず、イラン在住20年になる筆者も、まだまだ足を運んだことのない名所、ご紹介し切れていないテーマは沢山あります。来年以降のレポートで、是非そうした内容をご紹介してまいりたいと思います。このささやかなレポートが、日本の皆様のイランやイスラムへのご理解の一助となれば、筆者としてこれにまさる喜びはございません。
本年もほぼ年中を通して、まだまだコロナが猛威をふるい、自由な移動や旅行がなかなかしづらい中での1年でしたが、来年こそはコロナ危機が収束、少なくとも今年よりも改善され、いろいろな意味でもう少し活動しやすくなりますことを切に願うとともに、皆様がよいお年をお迎えくださいますよう、遠くイランから祈願いたしております。
最後になりましたが、毎月拙レポートをお読みくださいました読者の皆様、そしてこのような貴重な機会を与えてくださいましたソフィア株式会社・代表取締役の川﨑 知様、サイトの労をお取りくださっている佐々木優斗様に心より御礼申し上げ、また、今後益々の本レポートの一層の充実化への決意を新たにしまして、今年最後のレポートを締めくくらせていただきます。
それでは、新春のレポートでまたお会いしましょう。