ハーブ野菜やヨーグルト、ピクルスなどを添えて
クルミやバーベリーなどで装飾したクーフテタブリーズィー
暦の上では立春を過ぎ、既に春に入った現在、筆者の在住しておりますイラン・ガズヴィーン州でも、厳寒期よりは少々寒さが和らいできました。また、過去2年ほどは新型コロナウイルス感染拡大の影響で、規模縮小または取りやめとなっていたこのシーズン独自のイスラム革命勝利記念行事なども、かなり復活しています。
もっとも、イラン北西部の旧ソ連に近い内陸の地域などではまだまだ厳しい寒さが続き、大雪の便りも聞かれます。
今回は、そうしたイラン北西部・東アーザルバーイジャーン州の中心都市タブリーズが起源とされる郷土料理の1つで、現在ではイラン全土に普及している、野菜や卵、スプリットピー、クルミなどを用いた大型のミートボール・クーフテタブリーズィーの作り方をご紹介してまいりたいと思います。
本場のアーザルバーイジャーン地方では、大型のものが作られることもあります。
イラン料理の歴史におきまして、肉団子・クーフテは非常に重要な役割を果たしたとされ、ガージャール朝時代の作家・歴史家の1人ナーデル・ミールザーは、料理に関する自らの著作において重要な料理としてクーフテを挙げています。
<用意するもの>
・牛ひき肉 400gから500g
・米 食事用(カレーライス)用スプーン6杯
・スプリットピー 食事用スプーン5杯
・卵 1個(つなぎ用)プラス、肉団子の個数分(あらかじめ茹でて皮をむいておいてください)
・玉ねぎ(中程度の大きさのもの) 2個
・刻んだハーブ野菜(パセリ、ミント、ニラなどその時にあるもので可) 食事用スプーン3杯
・トマトペースト 食事用スプーン5杯
・サラダオイル、塩、胡椒、ターメリック それぞれ適量
*(好みによって)バーベリー(主に装飾用)、アンズ、クルミ(肉を団子状に丸める際に、中に包みます)
*(好みによって)粗みじん切りにして炒めた玉ねぎ(肉団子をくるむ際に、卵やクルミなどとともに中に入れて包みます)
なお、下準備として米とスプリットピーはあらかじめ一定時間水につけておき、それぞれ別途に半煮えの状態まで煮て、ざるにあけて水をよく切っておいて下さい。
1.煮込み用ソースを作っておく。玉ねぎのうち1つを摩り下ろして、鍋の中で少量の油と中火で炒めながら、適量のターメリックを加えて玉ねぎ全体がキツネ色になるまでさらに炒める。
2.さらにトマトペーストスプーン5杯分を加え、ソース全体によく馴染ませ、塩と胡椒を適量加えて風味を整える。
3.背の高いコップ4~5杯の水を加えて沸騰させ、沸騰したら弱火にしてグツグツと煮立たせる。
ソースを煮ている間にミートボールを作る。
4.残りの玉ねぎをやや粗めに摩り下ろし、水気を搾り取っておく。
5.4.にターメリックと胡椒を加え、よく混ぜ合わせる。
6.調味料と混ざった玉ねぎに、あらかじめ半煮えにして水を切っておいた米とスプリットピーを加えて混ぜ合わせる。
7.粗みじん切りにしたハーブ野菜と卵を加えてさらによく混ぜ合わせる。
8.ひき肉を加えて半煮えの米とスプリットピー、ハーブ野菜、玉ねぎなどとよく混ぜ合わせる。材料がよく混ぜ合わさっていないと、後述の鍋の中で煮ている間に形が崩れてしまうので、混ぜ合わせに時間をかけてください。
9.混ぜ合わせた肉を適切な大きさのミートボール状に丸める。この際に、真ん中にゆで卵のほか、好みによってクルミやアンズ、炒めた玉ねぎなどを入れて包み、1つあたり直径約10cmのボール状に丸める
好みによって真ん中に鶏肉を入れることもできます
丸め上がったクーフテ。通常は1個当たり大体10cm前後のことが多いようです。
10.1~3までで作っておいたソースが煮立っているところに、9.で作った肉団子を入れ、弱火で30分ぐらい煮込む。肉団子が大きい場合はもう少しかかります。なお、鍋の蓋は半開きにしておくか、開けたままの方がよいそうです。
煮崩れを防ぐためのポイントは、肉団子の材料中に極力水分が残らないようにすること、ソースが煮立ってから肉団子を入れ、弱火で煮ることです。
さらに煮崩れを防ぐために、肉団子の種を作る段階で、ひよこ豆パウダー(日本で売っている黄な粉に似ています)をカレー用スプーン2杯分加えることもできます。
*ちなみに、レストランなどで調理される場合は、肉団子を煮ている最中に崩れないよう、肉を包むときに調理用の布などで包んだまま煮込み、出来上がってからはずす場合もあるそうです。
11.できたての肉団子を盛り付け、好みによってバーベリーやハーブ野菜などで装飾する。煮汁を別のスープ皿に盛り付けてもよい。
煮汁は別の器に盛り付けても
バーベリーやハーブなどで装飾
真ん中に卵を入れた例
ちなみに、クーフテとはペルシャ語で「団子のように丸めたもの」を意味し、さらに語源をさかのぼると、ペルシャ語で「叩いてすり潰す、肉を挽肉にする」の意味を持つ動詞Kuftan(kubidan)に由来するといわれています。著名なイラン式の挽肉によるケバブ・クビデもこれに由来します。
このほか、ペルシャ語で「くたくたに疲れきっている」ことを意味する表現として「疲れてクーフテ」(原語ではkhaste vo kufte)という言い方があり、叩き潰されたように疲れきっていることを表しており、また音韻上うまく韻を踏んでいます。
そして、今から30数年以上前に、イランで日本の有名なテレビドラマ「おしん」が大ヒットした際、面白いことに、ご飯を握って作ったおにぎりが「米のクーフテ(Kufte-ye berenji)と訳されていました。
但し、厳密には「クーフテ・ベレンジ」というのは今回ご紹介したクーフテとは少々違った別のメニューを意味しており、混同を避けるために「クーフテ・ベレンジェ・ジャポニー」という言い方もなされています。
そして、ここでは割愛させていただきましたが、今回ご紹介した代表的なクーフテのほかにも、イランにはほかにも数種類のクーフテが存在することを付け加えておきたいと思います。
それから、現在のトルコ共和国を元祖とする、ひき肉をメインにさまざまな具材をこねて丸めて調理した、ミニハンバーグや肉団子のような肉料理・キョフテの語源にもなっています。イランとトルコは地理的にも国境を接する隣国であり、原語や食文化の面でも、相互に大きく影響し合っていると言えます。
トルコ式ハンバーグ・キョフテ
ところで、現在ではこれに類似したメニューは西アジアのほかにブルガリアなどの東ヨーロッパ、南アジアにも存在しており、国や地域によって「コフタ」、「キュフタ」、「ケフテ」、「グプタ」など、微妙に違った発音で呼ばれています。実際に、イラン国内でも発祥の地とされる北西部アーザルバーイジャーン地方では、トルコ語の強い影響を受け「キュフタ」と呼ばれています。こうしたことは、ペルシャ語起源の言葉や文化がその近隣や、さらに遠い国・地域にまで広がり、影響を及ぼしたことを示すものではないでしょうか。
本来はイラン北西部タブリーズの肉団子料理であったものが、現在ではイラン全域に流布し、さらには形式や呼称の微妙な違いを伴いながら、国境を超えてほかの国や地域に広まっていったことは非常に興味深い現象だと思われます。
日本でもよく知られているトルコ式焼肉のシシケバブ、イタリアのピザやパスタ、さらには和食の「スシ」、「スキヤキ」、「シャブシャブ」などは、ある国を発祥とする料理が国境を超えて世界に広まり、もはやそのまま世界で通用するようになった例と言えるでしょう。
これらのメニューと同様に、イラン式焼肉のキャバーブ、さらに今回ご紹介しましたクーフテも、もはやイランやイラン文化圏という境界を越えて、イラン起源の要素としてもはや国際的な食文化の一旦を担っていると言えるのではないでしょうか。
次回もどうぞ、お楽しみに。