行事

イラン北部で茶祭りが初開催

北部ギーラーン州での第1回茶祭りの様子

ギーラーン州で茶摘み作業に従事する女性

イランの茶所の1つ・ギーラーン州アムラシュ郡の壮大な茶畑

 

「夏も近づく八十八夜、野にも山にも若葉が茂る
あれに見えるは茶摘じゃないか
茜襷(あかねだすき)に菅(すげ)の笠」

日本の皆様にはよく知られているこの唱歌に歌われているとおり、日本は暦の上での立春から88日目に当たる先月2日ごろが茶摘の最盛期とされています。

日本での茶の名産地といえば、静岡県や埼玉県入間市などが有名ではないでしょうか。また、特に狭山茶の主産地である埼玉県入間市では、今年はコロナ感染拡大のため中止となったものの、例年ですと「八十八夜新茶まつり」が、市役所の敷地内にある茶畑を会場に新茶を様々な形で楽しむイベントとして開催されていることはよく知られているかと思います。

ですが、実はイランでもカスピ海沿岸地域に茶の名産地があり、紅茶はもとより緑茶も生産されています。

2018年10月号のこのレポートでもご紹介させていただきましたが、イランの茶の名産地としては、カスピ海に面した北部ギーラーン州ラーヒジャーンが特に有名であり、ここには「茶の歴史博物館」もあります。

ラーヒジャーンにある「茶の歴史博物館」

イランでは1895年に初めてインドから4000本の茶の苗木がラーヒジャーンに持ち込まれ、それ以降茶の栽培が定着したとされています。ペルシャ語では茶は一般的にチャイと呼ばれ、その後のイランでは民衆の間に喫茶の習慣が広まったほか、チャイハーネ(ペルシャ語で「茶の家」の意)と呼ばれる伝統的な喫茶店も出現しており、都市部・郡部を問わず、また各家庭や行政機関などでも、季節を問わず熱いままで、小さく砕いた砂糖の塊とともに飲まれています。

さて、話が少々わき道にそれましたが、先月15日にそのラーヒジャーン市にほど近い、ギーラーン州アムラシュ郡ビーリーランゲ村にて、茶葉栽培関係者や地域の当局者、地元の郷土音楽の楽団などの参加により、第1回「アムラシュ茶祭り」が開催され、大好評を博しました。今回は初開催となった「アムラシュ茶祭り」の様子をお届けしてまいりましょう。

国内での新型コロナウイルス感染状況がかなり減ってきていることから、当日には新茶の畑のそばに設けられたライブ会場に多くの人々が詰め掛けました。

州の当局者や茶栽培の関係者が多数列席。

マスクをつけていない人もかなりいました。

今回の茶祭りはイラン国家茶葉機関および、アムラシュ郡当局の協力により開催されたということです。

ギーラーン州文化遺産・伝統工芸・観光局のヴァリー・ジャハーニー局長は今回のイベント開催について、次のように語ってくださいました。

「こうしたイベントの開催により、当州の観光面での魅力や可能性を、より多くの方々に知っていただけることになると思います。中でも今回の開催地となったアムラシュ郡は、州内で2番目に多い350もの手工芸や史跡、文化遺産などが登録されており、こうした面での多大な可能性を秘めています。また、現時点でおよそ470人もの手工芸職人が各分野で活動しており、いまや州内の一大観光拠点となりつつあります」

ギーラーン州文化遺産・伝統工芸・観光局長が、アムラシュ茶祭りで講演

 

そしてもちろん、集まった来場者らに対し、当地で取れた新茶が振舞われ、皆さんご満悦でした。

実際に、今回のイベントでは、地元の伝統衣装の紹介や手工芸製作の実演も行われました。伝統衣装はとにかくカラフルです!

イランといえば、伝統的な黒いチャードルに身を包んだ女性ばかり、というイメージが沸くかもしれません。しかし、確かに顔と手先以外しか外には出ていないものの、こうしたイベントなどに登場する民族衣装などは、とても色鮮やかでぱっと目を引き、郡部在住の女性たちも目いっぱいおしゃれを楽しんでいる様子が伺えます。

実際、このイベントでは伝統的な衣装に身を包んだ楽団による郷土音楽のライブコンサートも実施されました。

伝統舞踊も披露され、楽しい雰囲気をかもし出していました。

地元の児童も、民族衣装に身を包んで参加

地元産の茶葉のほか、伝統手工芸品などを紹介・展示するブースも設けられ、色鮮やかな伝統衣装をまとった女性たちが地元の名産品をアピールしていました。

さて、ギーラーン州文化遺産・伝統工芸・観光局の関係者によりますと、今年は同州において34ものイベント行事やフェスティバルが開催され、その皮切りとなるのが今回の「アムラシュ茶祭り」だったとのことです。

また、イランにおける茶および茶葉生産の位置づけについて、イラン国家茶葉機関の関係者から、次のようなお話をうかがうことができました。

「イラン北部での茶葉生産は、特にその繁忙期には20万人分以上もの季節的な臨時の雇用創出につながっています。ギーラーン州だけに限っても、175箇所の作業所が茶の栽培能力のある州内各郡の経済発展に大きな役割を果たしています。イラン全体では年間3万トンの茶葉が生産されているのに対し、国内の年間消費量は8万トンにも及びます。その差分は輸入でまかなっているわけですが、私たちとしては今後5年以内に茶葉の自給自足達成を目指しています」

なお、アムラシュ郡には4850ヘクタールもの茶畑・茶園があり、およそ8400人の作業員が茶葉の栽培に従事しているそうです。

それでは以下に、ギーラーン州内に広がる茶畑での実際の様子をご紹介しましょう。

この地域は日本と気候条件が非常によく似ており、温帯湿潤気候区分に属し、年間降雨量が多いことから、イラン=砂漠というイメージとは全く異なる風景が見られます。

上空から見た、一面に広がる見事な茶畑

まさに、どこまでも広がる新緑の中での茶摘みの様子。

もちろん少人数では人手が足りないため、複数名で作業

当たり一面に広がる茶畑に「さて、どこから手をつけようか」

膨大な量の茶葉を、1枚1枚丹念に手作業で摘み取っていきます。

集団で茶摘みに従事する女性たち

まさに、「夏も近づく八十八夜」と呼ばれるにふさわしいこの時期、からりと晴れ渡った青空の下での茶摘み作業

作業の合間に、摘みたての茶葉を煎じた新茶で一服

壮大な茶畑の中にぽつんと赤いテントウムシが。ワンポイントで新緑に紅一点です。

摘み取られた大量の茶葉

摘み取った茶葉を大きな袋に入れ、緑豊かな山道の中を歩いていきます。

摘み取った茶葉を馬に乗せて運びます。

日本では特に外国産の茶葉、特に紅茶といえば、インドのダージンティーやスリランカのセイロン・ティー、そしてウーロン茶などに代表される中国産の茶が思い浮かぶのではないでしょうか。しかし、イランでも日本と気候風土が類似しているカスピ海地方で、大規模な茶の栽培が行われています。緑豊かなこれらの地域の風景を見ていますと、ここは本当にイランなのかと自らの感覚を疑ってしまうほどです。

今回ご紹介しましたギーラーン州アムラシュ郡をはじめとするカスピ海地方は、イラン人にも最も人気のあるリゾート・行楽地であるとともに、おいしい魚介類や米、茶、野菜類などが豊富に生産され、食の話題にも事欠かないといえます。しかもこれは、ギーラーン州ひいては、イランの魅力の氷山の一角に過ぎません。今後ともこの定期レポートを通じまして、まだまだ沢山あるイランの魅力をお伝えしてまいりたいと思います。

次回もどうぞ、お楽しみに。