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イラン西部の世界遺産と名所旧跡めぐり(3)並びに2017年イラン・イラク地震関連トピックス

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イラン西部の世界遺産と名所旧跡めぐり(3)並びに2017年イラン・イラク地震関連トピックス

橋の廃墟(シェキャステ橋、別名シェキャステ橋)

 

前回は、ロレスターン州の中心都市ホッラマーバードにある最高の見所の1つ、ファラコル・アフラク城砦をご紹介しました。今回は、ホッラマーバード市内に加えて、ロレスターン州に隣接したケルマーンシャー州にまで足を伸ばしてみたいと思います。

まずは、前回見学したファラコル・アフラク城砦の南、またホッラマーバード市内の南に位置する、橋の廃墟(シェキャステ橋)をご紹介することにいたしましょう。

 

橋の廃墟(シェキャステ橋)

この橋は、ペルシャ語で壊れた状態を意味するシェキャステという名が示すとおり、廃墟となっており、ホッラマーバード市の前身ともいえるシャープールハースト旧市街の西に位置しています。また、サーサーン朝時代の建築物の中の大傑作とされ、シャープール橋という別名もあります。これは、この橋がサーサーン朝のシャープール1世(在位241-272AD)の治世に建設されたことに由来します。この橋の全長は本来は230メートル、高さが10.75メートルにも及び、もともとは28のアーチ型の穴があったとされていますが、現在はそのうちの5つのアーチのみが残されています。

 

当時、この橋はロレスターン州の東部と西部をつなぎ、さらに西方のフーゼスターン州、そして現在はイラクのチグリス川東岸にあるサーサーン朝ペルシアの政治と経済の中心地・クテシフォンへと通じる橋でもあったということです。

地元の関係者の話では、かつては以下の写真のようにこの橋は豊かな水量を誇る川にかけられていたということです。

 

現在ではこの川は干上がってしまっていました。

 

今度は、橋の一部にもっと近づいて、橋の表面を観察してみました。石材を何段にも積み上げた基礎部部の上に、レンガや泥が混じっているようです。

近代的な建築機材もなかったと思われる時代に、これほど大規模な橋を作るには、資材を積み上げるにせよ、運搬するにせよ、その労働量は現代とは比べ物にならないほどの規模であったと思われます。しかも、イランでは既に当時から優れた測量技術も発達していたことをうかがい知ることができました。

中東で最大規模を誇る最新鋭の天文台・カースィン天文台

これまでにも、ホッラマーバード市内にある様々な見所をご紹介してまいりましたが、何と驚くべきことに、ホッラマーバード市内には、中東で最大規模を誇る最新鋭の機材をそろえたカースィン天文台があります。この天文台は2013年に創設され、市内でも高台にある地域、即ち海抜1700メートルのモダベ山の頂上に造られています。

また、5階建てとなっており、そのうち2つの階は宿泊施設、残りの3つの階はレストランと観測用スペースとなっています。

<カースィン天文台の構造>

この天文台にあるレストランは、完全にガラス張りになっていて、外の風景、夜景を楽しみながら食事ができます。

さて、この天文台を訪問したのは、夕方から夜にかけてでした。モダベ山の曲がりくねった車道を、車で10分ほどかけて登りました。到着した天文台の敷地内から望んだホッラマーバード市内もまた格別でした。

ホッラマーバード市内の夜景もまた見事でした。

先だって訪問した、ファラコル・アフラク城砦もライトアップされ、遠くからとてもきれいに見えました。

天文台の中に入ってみると、さすが中東で最新鋭といわれるだけあって、揃っている機材も外国のものと決して見劣りしません。

帰り際に見たカースィン天文台。看板には、ペルシャ語で「カースィン天文台」の文字が見えます。

帰りに通った山の車道もきれいにライトアップされていました。

2017年イランイラク地震関連情報

さて、本来はここで、ロレスターン州の次に訪れた隣接州のケルマーシャー州にある世界遺産をご案内する予定でした。ですが、去る11月12日、イラン現地時間で21時48分にイラン西部及びイラクにまたがる広範囲でマグニチュード7.3の強い地震が発生したことにちなみ、急遽予定を変更して、ここからはこの地震に関するホットな情報や話題をお伝えすることにいたしましょう。

今回、イラクとの国境に近いイラン西部ケルマーンシャー州エズゲレ、正確には、イラクの都市ハラブチャから南西に32キロ、イラン領にわずかに入った地域を震源とする強い地震が発生しました。

この地震による被害について、現時点ですでに死者が600人近く、負傷者が1万人を突破しており、この数はさらに増える見込みだとされています。

地震の規模は、1995年の阪神淡路大震災とほぼ同じマグニチュード7.3とされ、イランの広範囲及びイラク全土、さらにはトルコやクウェート、サウジアラビア、イスラエルなどの近隣諸国でも揺れが観測されたということです。

今回は、特に震源地を抱えるケルマーンシャー州の各都市で大きな被害が発生しました。これからご紹介する写真は、この州でも特に大きな被害を受けたサレポレザハーブ市とその近郊の様子です。

 

コンクリートで頑丈に造られていたはずの建物の多くがほぼ全壊、半壊、倒壊するなど、衝撃的な光景があちこちで見られました。これらはどうも、集合住宅だったようです。

建物のみならず、止めてあった車両も無残に破壊されています。

こちらは、ガスか水道のメーターでしょうか。配管もすっかりひしゃげていました。

中には、屋外に家財道具が転落し、散乱しているところもありました。

そして、地震で潰れこそしなかったものの、壁や窓ガラスの破壊はすさまじいものでした。

そして、地割れが起こった箇所も、決して少なくありません。

学校の校舎も破壊されています。

また、昨日まで平穏な生活を送っていた多数の人々がいきなり生活を奪われ、テント生活を強いられ、悲しみにうちひしがれました。

ショックのあまり道端にくず折れてしまった人もいました。

被災現場で呆然と座り込んでいる人もいました。

そして、近親者などを失って悲しむ人々の姿には、本当に心が痛みます。

また、悲しみにくれながらも互いに励ましあう人々の姿もありました。

しかし、悲しんでばかりはいられません。まずは、政府のトップに立つ人々が被災者を励ますため、被災地に向かいました。地震発生から2日後には、ローハーニー大統領が被災地を訪れています。

また、地震発生から8日目には、イスラム革命最高指導者のハーメネイー師も被災地を訪れました。

さらに、政府関係者のみならず、著名人も被災地を訪れ、被災者たちを励ます光景が見られました。イラン・サッカー界の英雄、アリー・ダーイー氏もその1人です。

さらに、被災者の救援を救援隊に任せるのではなく、自ら救援活動に加わった人々もいます。こちらは、イラン北西部のジョルファーから陸路で入国したスイス人夫婦。旅行中にも関わらず、人々の救援に従事しています。大変心温まるものだと思います。

また、直接被災地で活動しなくとも、被災者のための支援用の金品の募集活動をすることも、立派な被災者への支援活動だといえます。被災地から遠く離れた各都市にも、そうした支援物資や寄付金を募るセンターが街頭のあちこちにできていました。何と、リオデジャネイロ・オリンピックとパラリンピックの両方で活躍したザハラ・ネマティ選手も、募集活動に参加していました。体に障害があっても、自分の気持ちひとつで、何らかの方法で他人のために尽くせることを示してくれた、最高の見本ではないでしょうか。

そして、今回の心温まる話題をもう1つ。最近イランで大きな人気を集め、ヤンゴンの名称で名声を博した韓国のテレビドラマ「宮廷女官チャングムの誓い」の主演女優イ・ヨンエ氏が今回の地震に際して5万ドルを寄付したということです。このニュースはイランのメディアでも大きく報じられ、大変感動を呼びました。

また、唯一の救いともいえる点は、今回の地震で大きな被害を受けたケルマーンシャー州にある2つの世界遺産、アケメネス朝ペルシアの王ダレイオス1世が、自らの即位の経緯とその正当性を主張する文章とレリーフを刻んだ巨大な磨崖碑ビーソトゥーン(ベビストゥン)碑文と、サーサーサーン朝時代の遺跡ターゲボスターンが難を逃れたことでしょう。これらの遺跡については、次回のレポートで詳しくご紹介する予定です。

ビーソトゥーン碑文

ターゲボスターンの遺跡

ここで、イランの政府と国民の皆様、並びに被災者や遺族の方々に心からお見舞いと哀悼の意を申し述べますとともに、被災地の1日も速い再建復興をお祈りし、今回のレポートを締めくくりたいと思います。