料理

海に恵まれたイランの魚料理・ガルイェマーヒーをどうぞ

じっくり煮込んだ魚のおかずにライスとピクルスなどを添えて

野菜と魚をじっくり煮込んでサフラン染めライスと一緒に

早いもので、2025年も最後の月となりました。テヘランだよりではこれまでに、イランの国民食ともいわれるチェロ・キャバーブ(イラン式焼肉とライス)をはじめ、日本にある材料でも作れるメニューを中心に、様々なイランの家庭料理をご紹介してまいりました。イランと日本では、そもそも米飯の炊き方から大きく異なるとともに、味付けも味噌や醤油などをベースとしたものではなく、サフランやターメリック、トマトペーストなどが中心となっており、日本にはないイラン・中東独自の風味をお楽しみいただけたかと思います。

海に囲まれた島国・日本とは対照的に、多くの国と陸の国境を有するイランの料理には、確かに鶏肉や牛肉、ラムやマトンを使ったメニューが多くなっていますが、ペルシャ湾やカスピ海という世界的に知られた内海や外洋にも面しているイランは海の幸も豊富であり、当然ながら魚料理も存在します。「イランに魚!?」と思われるかもしれませんが、特に冬でも暖かいイラン南部はペルシャ湾、そしてオマーン海に面していることから、魚やエビなどを使ったメニューは食卓にも登場します。イランに24年近く滞在した筆者も、同国では魚を生で食べる習慣は見たことがありませんが、煮魚や焼き魚はよく目にしました。白身の焼き魚にハーブとレモンを添えたイラン風焼き魚料理の例

また、カスピ海やペルシャ湾に面した地域にはもちろん、テヘラン市内にも大きな魚市場が存在し、日本の普通の商店やスーパーではまずお目にかからないと思われる珍しい魚がたくさん売られています。テヘラン市内の魚市場

イランの魚市場で販売されていた魚の例

そこで、今回は主にペルシャ湾に面したイラン南部地域でよく食されている魚料理・ガルイェ・マーヒー(魚と野菜のピリ辛煮込み)をご紹介してまいりましょう。

ちなみに、ガルイェとはもともとペルシャ語で細切り肉を意味し、マーヒーは魚のことを指しています。それから、イラン南部の地域の料理は全般的に、それ以外の地域に比べて酸味と辛みがより強いことも、まず知っていただければと思います。

この料理はイラン南部のペルシャ湾沿岸地域、特に以下の地図の③フーゼスターン州、④ブーシェフル州、⑥ホルモズガーン州、②スィ―スターン・バルーチェスターン州などで昔からよく食され、一般家庭の食卓で親しまれている代表的な料理の一つです。地図で見ると、テヘランから南に約1000キロほど離れた、気候風土も大きく異なる、非常に暑さの厳しい地域とされています。ちなみに、これらの地域には当然ながら港湾が非常に多く、ペルシャ語で「港の多い地域、港町」を意味するバンダリーと呼ばれています。もちろん、北部カスピ海沿岸地域にもバンダルアンザリーなどの著名な港湾がありますが、ペルシャ語でバンダリーといえば、一般的にペルシャ湾に面した南部地域を指します。

首都テヘランを初めとする多くの地域で現在、本格的な寒さが到来している中で、ペルシャ湾に面した南部地域はまさに今この時期でもボート遊びや海水浴が楽しめるほど暖かく、逆に夏は摂氏50℃を超える酷暑となります。かつてこれらの地域の漁業関係者らは、特にこの地域の酷暑という厳しい気候条件がゆえに、魚を長期間保存するために塩漬けや乾燥といった方法のほか、様々なおかずとして煮込むなど、様々な方法を駆使していました。今回ご紹介するガルイェマーヒーもそうした煮込み料理の一つで、手に入りやすい食材でできることから、栄養価が高く美味しい料理として南部の人々の間で人気を博しました。そして、当初こそ南部地域が主流だったものの、南部地方の様子が他地域にも知られ有名になるにつれて、イランの他の都市にも広まっていったということです。ちなみに、確かもうかなり前に筆者が南部地域を旅行した折、地元のレストランでこの料理を注文した際に、そのレストランの関係者から聞いた話によれば、イランにおけるこの料理の歴史は正確には不明であるものの、約1000年前に遡るそうです。また、州や地域によっても材料は少しずつ異なり、ブーシェフル州では魚の代わりにエビを使うこともあるそうです。ですが、ここでは魚を使用してのごく基本的なレシピと調理手順をご紹介してまいりたいと思います。

国内の他地域の料理に比べて辛みと酸味を追加することが多い南部料理

それから、これまでご紹介した煮込み式のイラン料理では、多くの場合トマトペーストが使われていましたが、今回ご紹介するメニューには、南部地方独特の料理に使われるタマリンドペーストが出てきます。なお、ここでは省略しましたが、ふつうこの料理は米飯と一緒に食べることが多いため、別途に普通に炊いたライスをご用意ください。

<用意するもの(5~6人分)>

・魚の切り身(サワラ、ハタ、イサキ、メバル、フエダイ、ニベ、タイワンサワラ、スギなど、煮込んでも崩れにくい白身魚がおすすめ) ・・・500g

・玉ねぎ ・・・1個

・つぶしたニンニク ・・・数個

・細かく切ったハーブ野菜(コリアンダー、フェヌグリーク、ニンニクの葉、ホウレンソウなど。イランでも地域によって色々な野菜が使われます) ・・・500g右からコリアンダー、フェヌダリーク(ころは、マメ亜科の一種)、ニンニク

・タマリンドペースト(タマリンドの果肉をペースト状に加工した調味料、通販などで入手できます) ・・・1/2カップ

・ターメリック ・・・小さじ1杯

・粉末もしくは赤唐辛子 ・・・小さじ1~2杯、もしくは数本

・油・・・少々

・塩、コショウ ・・・少々

・乾燥ライム、もしくはレモン汁(酸味をつけたい場合)・・・適量

<作り方>

1.魚の切り身を食べやすい大きさに切り、水洗いして、塩、コショウ、ターメリックをふりかけ、冷蔵庫に入れて15分から20分ほど冷やしておく。

2.ハーブ野菜を洗って水を切り、細かく刻む。コリアンダーとフェヌダリークの組み合わせの場合は、出来上がったときに苦みが出ないようコリアンダーが4,フェヌダリークが1の割合にするとよいそうです。

3.鍋に適量の油を入れて弱火にかけ、玉ねぎを粗みじん切りにしてきつね色になるまで炒める(写真ではフライパンになっていますが、後ほどほかの材料を加えますので、鍋で炒めることをお勧めします)

4.潰したニンニクと粉末の唐辛子を加え、ニンニクの匂いが出てくるまで1分ほど炒める

5.みじん切りにしたハーブ野菜を加えて、中火で水分が出てくるまで炒める(炒めすぎず、野菜の生臭みが残らない程度に)

6.別のフライパンに適量の油をしき、1.で冷蔵庫に寝かせておいた魚の切り身を、表面に色がつくまで軽く炒めておく(魚は炒めずにそのまま後で野菜と加えて煮ることもできますが、煮崩れしないため炒めて表面を固めておいた方がよいと思います)

7.5.で野菜を適度に炒めたところに水3カップを加え、さらに適量のターメリックと塩、コショウ、タマリンドペーストを加えて煮立たせる。

8.沸騰したら弱火にして、香辛料と野菜が完全に混ざるよう少々煮込む。

9.6.で炒めておいた魚を8.に加え、ふたを半開きにして弱火で30分~40分煮込む。この間に煮汁が少ないと思われた場合は、水を少々加える(この際に、お好みで乾燥ライムやレモン汁を適量加えると、本格的なイラン南部の料理のように辛みと酸味のある風味になります)

10.適当な器に盛りつけ、ライスやサラダ、ピクルスなどと一緒にどうぞ。

赤唐辛子を添えた例

さて、筆者もイランに長期滞在していたころ、このガルイェ・マーヒーを作ったことがありますが、イラン人が作るような本場の味を出すことはなかなか難しいと感じました。そこで、少しでもおいしく作るにはどうしたらいいかと、色々な友人・知人などに聞いてみました。そうした折、筆者の知り合いのつてで、南西部フーゼスターン州アフワーズ出身の女性S・Kさんに話を聞くことができました。彼女が教えてくれた、ガルイェ・マーヒーをおいしく作るこつは、以下のようなものです;

・レシピに記載されたように、適切な量の材料を使うこと。特に野菜を多く入れすぎると、料理全体がが苦くなるので、この点に注意すること。

・南部の人は辛めに作ることが多くなっているが、胡椒の量は個々人の好みで加減できる。また、タマリンド自体に塩分が含まれているため、この料理を作る際は塩分を控えめにするのが良いと思われる。

・この料理に使う魚としては、最初に紹介したようなサワラやハタ、イサキ、メバルなど白身の魚のほか、マグロやサーモンを使ってもよく、それ以外の材料は前出のレシピと全く同じもので作れる。

・タマリンドの風味が苦手な場合、ザクロのペーストを使ってもよい。この場合、南部で作られる本来的な郷土料理とは多く異なってくるが、また別の風味を楽しむこともできる。

最後にS・Kさんは、テヘランだよりの読者の皆様へのメッセージとして「私たちの地域の郷土料理を日本の皆様に知っていただければ、ペルシャ湾岸地域出身者としてとても嬉しく思います。イランから遠く離れた日本でも、日本で調達できる材料でペルシャ湾の風味をぜひ味わってみてください。そしていつの日か、本場のペルシャ湾岸料理を食べに来ていただけることを願っています」とコメントしてくださいました。

冒頭でもお話しましたように、ガルイェマーヒーと一般的な煮込み料理の主な違いは、いわゆる一般的なイラン料理とは違った、タマリンドの酸味に代表される非常に特徴的な風味であり、さらには胡椒や辛子の辛味が感じられ、ニンニクと青菜の香りが際立っていることだといえます。また、主要素である魚は濃厚な煮汁に完全に浸かっている必要があり、これらの要素のどれかが欠けていると、この料理は南部地域の料理が持つ特徴のない、質の低いものになってしまうと思われます。

今回ご紹介したガルイェマーヒーは、魚と野菜をベースにしたイランのシーフードの一種で、スパイシーかつ酸味の溶け合った風味が特徴です。南部で魚を使っての本格的なこの郷土料理は、コリアンダーとフェヌグリークの葉、タマリンド、そしてたっぷりのニンニク・辛子という3つの主要な要素によって風味が引き立ちます。筆者がもうかなり前に南部地域を旅行した際、街中のレストランからはこの料理と思われる匂いが漂い、遠くからでもその香りを認識できたことを覚えています。筆者はあれからもう何年も、ペルシャ湾岸地域からは足が遠のいていますが、今回この料理を取り上げ、久しぶりに南部出身の女性から話が聞けたことで、是非またペルシャ湾岸地域を訪れ、外洋に面したあの独特の南部の雰囲気を味わいたいという気分に駆られています。

以上、今回はペルシャ湾岸を起源とする伝統的な魚料理を取り上げましたが、いかがでしたでしょうか。今年は戦争勃発など、イランを取り巻く状況は非常に厳しいものとなりましたが、イランの持つ豊かな歴史や文化、人々の親密さ、食の文化などは健在であり、毎月少しでもそうしたイランの素晴らしさをお伝えできるよう努めてまいりました。来年は中東情勢全般が今年よりももっと落ち着き、中東との物流や人々の往来が盛んになり、また読者の皆様にとりまして新年が素晴らしいものとなりますよう祈りつつ、今年最後のレポートを締めくくりたいと思います。それではまた、新春のレポートでお会いしましょう。

 

 

 

 

 

 

 

ABOUT ME
yamaguchi
IRIBイランイスラム共和国国際日本語通信でニュース翻訳のほか、イランのことわざを週2回紹介しています。20年以上にわたりイラン滞在の経験があり、2016年からはイラン人の夫とともにテヘランから西に150kmほど離れたガズヴィーン州に滞在していました。現在は、イランと日本を行き来しながら、日本の皆様に普通のメディアには出てこないようなイランのホットな情報をお届けしています。