イランはイスラム教国であり、日常生活のいたる所にイスラムの教えが浸透しています。街中のいたるところにはモスクがあり、礼拝の時間になるとそうしたモスクのほか、テレビやラジオでも礼拝の開始時刻を告げる合図・アザーンが流れ、外出時には女性は異教徒であってもスカーフをかぶり、年に1回断食月がめぐってくる、といったものはイスラムのシンボルの一部と思われます。ほかにも、イスラム暦の第1月と2月はシーア派の偉人イマーム・ホセインの殉教を悼む追悼月として、また聖なる月とされる断食シーズンのラマダン期間中には、結婚式や子供の誕生日のパーティー、コンサートなどの開催が自粛される、といった現象があります。こうしてみてくると、イランのそのような環境では音楽など許されないのでは、と思われるかもしれません。しかしながら、そうしたシーズン以外の時期にはイラン人の間も、折りあるごとに設けられる集まりの場、ホームパーティー、ピクニックなど、様々な楽しみごとが見られます。特にホームパーティーなどではリズミカルな音楽をかけて踊ったりすることが多く、イランにもいわゆるよく知られたポップミュージックが存在します。イラン人は、楽しみごとを自粛するべき時期や場所と、そうでない場合とをきちんと分け、気軽にポップミュージックを楽しんでいます。そこで、今回は最近のイラン人の間でよく知られ、パーティーなどで定番として頻繁に使われる曲をはじめとした、イランのポップミュージックについてお話したいと思います。
まずは、女流ポップシンガー、シーリーン・ガーネムの歌唱で知られ、2014年にリリースされた「私の植木鉢の花」(ペルシャ語名;ゴレ・ゴルドゥーネ・マン、ファルハード・シェイバーニー作詞、フェリドゥーン・シャフバーズィヤーン作曲)からご紹介しましょう。シーリーン・ガーネムは1944年にイラン北部・マーザンダラーン州トネカボンに生まれ、1969年以来歌手として活動しています。
まずは、以下のアドレスにアクセスして、実際にこの曲を聞いてみてください。https://www.aparat.com/v/3Asne/%DA%AF%D9%84_%DA%AF%D9%84%D8%AF%D9%88%D9%86_%D9%85%D9%86%2F%2F_%D8%B3%DB%8C%D9%85%DB%8C%D9%86_%D8%BA%D8%A7%D9%86%D9%85
さて、実際にお聞きいただくと、この曲全体からは何となく物悲しいイメージ、しんみりとしたイメージが感じられるのではないかと思います。
この曲に歌われている歌詞の意味は、大体以下のようになります(一部省略)。
私の植木鉢の花は、風の中で壊れた
私の心が叫ばぬうちに、お前もおいで
夜芳しい香りを漂わせた花は、もはや香りがない
夜芳香を漂わせた花を、誰が摘み取ったのか
空の片隅には虹があふれ
私はあたかも暗闇の用、お前はさながら月光のよう
もし、風がお前の巻き毛の先を通らなければ
私は消えうせ、森の中で寝入る
私の植木鉢の花は、私のテラスの月
私は、水から引き上げられた魚のごとく、あなたから引き離された
空は青さを増し、花は太陽の如く
柳の枝の上でさみしがる
お前は手を振り、星に命を与える
次にご紹介するのは、イランのホームパーティーなどでのダンスミュージックとしてよく使われる、「今夜は美人になったね」(チェ・ホシュケルショディ・エムシャブ)をご紹介します。歌は、アンディの通称で知られるアルメニア系イラン人のシンガーソングライター、アンドラーニック・マダディヤーンです。彼は、1958年にテヘランにて生まれ、1977年以来歌手として活動しており、現在は主にアメリカに在住しています。
この曲は、とてもリズミカルでダンスミュージックによくあっているとされ、ホームパーティーや結婚式などのBGMの定番ともいえるものです。これも以下のアドレスにより、まずはその軽快なテンポや雰囲気をお楽しみください。
歌詞全体の意味は、大体以下のとおりです。
今夜は美人になったね、今夜はきれいになったね
お前は夜空に浮かぶ月のよう
暗黒の夜にも、私にはお前がいる
お前は私にとって唯一の星
お前が入ってくるや否や、ジャスミンの香りが漂う
お前の赤い唇はさながら蕾のよう
それは桜色だ
見てごらん、何ときれいなんだろう
何と甘美なことか、女性たちよ
今夜はきれいになったね
お前の微笑みは砂糖のよう
お前の唇はハチミツのよう
今夜は花のようになったね
黄昏時には街中に明かりが点る
恋する者たちは我々のように家から出てくる
若い男女が、心に恋愛の情熱をたぎらせ
至る所で一斉に彼らの笑い声が広まる
(以下略)
そして、もう1つリズミカルなポップ音楽をご紹介したいと思います。レザー・バフラームによる恋の花(ゴレ・エシュグ)を、以下のサイトによりお楽しみください。
この曲の歌詞の大体の意味は、以下のとおりです。
お前の瞳を求めて、町から町へ、ある家から別の家へと回る
お前は、恋愛の情にかられて恋の花を1つ1つ摘み取り
少しずつ少しずつ、私の心に恋の火を燃やした
さあ、座ってくれ、私の幻想の世界へようこそ
イランのポップスは、日本やヨーロッパのポップミュージックともまた違った雰囲気があると思われます。イスラム圏というと堅苦しいイメージが浮かぶかもしれませんが、イランは敬虔なイスラム教国である一方で、大衆に愛好されるポップミュージックやポップ歌手も多数存在します。既に亡くなっているイラン人大衆歌手として、特に有名な歌手には、ハイデ、マヒスティ、スーサン、アーガースィーなどが挙げられます。
また、現在存命で著名なポップシンガーにはホメイラー、グーグーシュ、モイーンなどがいます。
このほかにもイランには数十年にわたって人気を博しているポップ音楽や映画音楽もあります。今回は、大衆に親しまれているイラン人歌手やポップ音楽のごく一部を取り上げたに過ぎず、イランのポップ音楽の詳細についてはまた、別の機会に譲りたいと思います。