骨付きの鶏肉とスープやサラダ、ニンニクのピクルスを添えて
スープと鶏モモ肉などを添えて
骨付きラムを別途に盛り付けた例
このレポートではこれまでに、数多くのイランの代表的な家庭料理や人気メニューの数々のレシピ、そしてそれらにまつわる歴史や話題などを取り上げてまいりました。日本と同様に米を主食とするイランでは、実にバリエーション豊かな混ぜご飯や炊き込みご飯が家庭の主婦の間で作られ、また来客の接待やホームパーティーなどの食卓を彩っています。
イランではちょうど現在、ソラマメの収穫シーズンを迎えており、街中の八百屋さんの店頭には産地直送と思しき新鮮なソラマメが大量に安価で販売されています。そこで、今回はソラマメのシーズンにちなんで、筆者の1つである「ソラマメの炊き込みご飯(ペルシャ語で「バガリーポロウ」)のレシピと、これにまつわる話題をご紹介してまいりましょう。
中部イスファハーン州カーシャーン郡でのソラマメ収穫の様子
綺麗なお焦げつきで骨付きラムを添えて
ちなみに、イランでは骨付きのラムや鶏のもも肉などを付け合わせに添えて出されることが多くなっていますが、今回は鶏肉付きのものをご紹介したいと思います。
<用意するもの>3人分
・皮をむいたソラマメ (さやから取り出し、外側をむいたもの) 200g
・ディ―ル(せり科の野菜)のみじん切り カレー用スプーン5杯
・インディカ米 3合
・じゃがいも(中程度の大きさのもの、お焦げ用)2つ
・鶏もも肉(できれば骨付き) 3本
・玉ねぎ(中くらいの大きさ) 2個
・ニンジン(中くらいの大きさ) 1本
・にんにく 2片
・塩、コショウ 適量
・ターメリック 紅茶用スプーン1杯
・サフランの粉末(ライス用と鶏肉用); ライス用に紅茶用スプーン半分、鶏肉用に紅茶用スプーン半分(お好みで調節してください)
・サラダオイル 必要量
・バター 50g
<作り方>
<作り方>
<作り方>
1.米はあらかじめ30分以上水に浸けておき、十分に吸水させる。ソラマメはあらかじめ下茹でし、半煮えの状態にしておく。
2.ジャガイモの皮をむき、7㎜程度の厚さの輪切りにして、一度水にさらして水気を切っておく。
3.玉ねぎを薄切りにし、鍋もしくは大きめのプライパンでしんなりするまで炒める。
4.その上に一口大の大きさに切ったニンジン、粗切りにしたニンニクを加えてさらに炒める
5.鶏肉を加え、玉ねぎ、にんじん、ニンニクとともに両面が少々キツネ色になるまで炒める
6.塩、コショウ、ターメリック(お好みでシナモンを加えてもOK)を全体に振りかけ、グラス1杯の水を加えて沸騰させる
7.サフランの粉末を湯で溶かして加え、このまま1時間近くじっくり煮込む
8.大きめの鍋に水を入れて沸騰させ、水に浸けておいた米を入れて沸騰させる。沸騰したら半煮えのソラマメを加えてゆっくり混ぜる。米が半煮えの状態(中に芯がある状態)にでざるに空けて水を切っておく。
9.ディ―ルを洗って水を切り、細かく刻む
10.大きめの鍋の底にサラダオイルを敷いて行きわたらせ、お焦げ用のジャガイモを敷き詰めていく。
11.ジャガイモの上に、水を切っておいた半煮えの米とソラマメを全体の3分の1を入れ、その上に刻んだディ―ルの3分の1を振りかける。10.の作業工程を2回ほど繰り返し、米とソラマメの混ぜ合わせと刻んだディ―ルを交互に入れていく(この時にお好みでシナモンを少々加えてもOK)。
12.サフランの粉末をカレー用スプーン2杯分の湯で溶かし、11.の全体に振りかける。
13.鍋の蓋を布巾などで包んで鍋に蓋をし、30分くらいじっくりと蒸らす。米が中まで煮えたら出来上がり。
14.蒸らし上がった炊き込みご飯と鶏肉を大皿などに適切に盛り付ける
今回のメニューを初めとするイラン料理は、食材の工夫や盛り付け、付け合わせなどによりバリエーションがきき、見た目も非常に鮮やかに日々の食卓やホームパーティーの場を盛り上げてくれます。ソラマメの炊き込みご飯も、来客用に出されることも多く、イラン人の間でも非常に人気があるメニューの1つです。
ちなみに、イランの調理専門学校「アーシュパズショウ」のサイトによりますと、ソラマメの炊き込みご飯のルーツは、13世紀から14世紀にかけてイランをも治めていたモンゴル系王朝・イルハン朝時代に遡るということです。しかしその後、次第に使用する材料や調味料、調理法などに改良が加えられていったということです。
イランがモンゴル王朝の支配下にあった時代の細密画・ミニアチュール
さらに、それから時代が下ってガージャール朝時代には、ソラマメの炊き込みご飯と鶏肉という組み合わせ、は通常はパーティーや何かの節目の際に出されるようになりました。そして現在では、そうした折に限られず、イラン全土で各家庭はもちろん、レストランなどの外食産業にも注目され、今やイランで人気のある伝統料理の一翼を担っています。
なお、イルハン朝時代にはモンゴル人によりイランに中国文明の影響が広まったことから、それ以前のサーサーン朝時代から一般的だった食文化は徐々に衰退し、遠隔地や地方の料理として扱われていったということです。それというのも、当時支配階層にあったモンゴル人らはイスラム教徒の医師や調理人から何らかの形で毒物を摂取させられることを恐れていたからだそうです。
このため、モンゴル人が契丹人の医師や料理人を雇ったことから、中国の医学が徐々に広まることとなりました。その中心となったのは、現在のイラン北西部・東アーザルバーイジャーン州の中心都市タブリーズに創設された中国医学の専門大学だったとされています。
こうして、イルハン王朝の宮廷ではあらゆる種類のごった煮スープ、麺入りシチュー、サフラン、今回ご紹介したソラマメの炊き込みご飯などが調理されました。そして米食は先ず、当時イルハン朝の支配下にあったイランの隣国アフガニスタン西部ヘラートで習慣化したということです。
また、これに加えてその当時からは、極東の馬乳酒や、アラックと呼ばれる蒸留酒、豆や野菜類などを煮込んだアーシュと呼ばれるごった煮スープ、そしてポロウと呼ばれる炊き込みご飯が一般に食されるようになったとされています。ちなみに、イラン式炊き込みご飯を意味するポロウは、ピラフの語源にもなったと言われています。
現在イラン人の主食の一つである米は、中世には一般的には食されていなかったのが、モンゴル時代から一般的に普及したということです。
それでは以下に、彩り豊かなソラマメの炊き込みご飯の盛り付け例をご覧ください。
香ばしいおこげも立派に一役買っています
沢山の鶏もも肉や骨付きラムを添えて
サラダとヨーグルトの盛り付けに工夫を凝らして芸術的に
型抜きした例。おこげにジャガイモを使っています
付け合わせのヨーグルトにも一工夫
牛肉やラムのミートボールを添えた例
付け合わせの赤玉ねぎでワンポイント・アクセント
盛り付け用の器を工夫して豪華メニューに
今月のレポートの最後に、ソラマメにまつわるペルシャ語の慣用句をご紹介したいと思います。
ペルシャ語には、「ソラマメの中に行ってしまった」という表現がありますが、これは日本語で言う「あさっての方向に行ってしまった」という表現に相当します。なぜこのような言い回しができたのかというと、道端でおいしそうなソラマメを売っているのにつられて、車を運転中のドライバーが道の中央から逸れて、ソラマメを売る屋台の方によって来たことに由来するそうです。イランではよく、車の往来の多い大通りや、地方につながる街道沿いなどで、野菜や果物、花束など、食物などを売る光景が見られますが、これは日本ではあまり見られないかもしれませんね。大通りなどで販売される温かいソラマメとビート
イランで今まさに旬を迎えているソラマメを使った家庭料理はいかがでしたでしょうか。日本でも入手できると思われる材料を使った、西アジアの風味を是非ご家庭で皆様にも味わっていただければと思います。それではまた、来月のレポートでお会いしましょう。