日常生活

在日イラン人ナウ‼日本の専門学校に留学中のイラン人女子学生の「今」

日本語学校卒業式でのアイダさん

日本語学校のクラスメートとの研修旅行で(アイダさんは中央)

昨今は世界各地をはじめ日本でも猛暑が続いており、少々体を動かしても、さらには冷房なしでは室内で普通に過ごしていても、すぐに汗が出てくるような毎日が続いています。仕事や勉強、そのほかの活動をしようにも今一つやる気が出なかったり、何事にも億劫になりがちなのではないでしょうか。しかし、そのような暑さにも負けず勉学や仕事、さらには屋外での労務作業に携わっている人々も決して珍しくありません。

実は、筆者は本来ならば今頃はイランに赴き、国内の涼しい地域あるいは、近隣国に出かけて現地からのレポートを計画しておりました。ところがご存じの通り、イラン・イスラエル間戦争とそれに伴う中東情勢の悪化により、不本意ながらもこの夏の渡航を取りやめにせざるを得なくなりました。こちらとしてはどうしようもない不可抗力により非常にがっかりしていた中、現在日本の専門学校で学ぶイラン人女子留学生と間近にお話する機会を得ました。実はこの方は、筆者が以前テヘランで暮らしていた時期に、筆者のご近所さんだったご夫婦の娘さんで、現在は日本の専門学校でコンピューターを熱心に学んでいます。そこで今回は、この暑さにも負けず、今まさに日本の専門学校に留学中のイラン人女子学生、アイダ・バーバーイーさんの日本での生活や勉学の様子などを、ご本人様へのインタビューをもとにお伝えしてまいります。

さて、まずは今回お話を聞かせてくれたアイダ・バーバーイーさん(21)についてごく簡単にご紹介したいと思います。彼女は2004年1月15日テヘランで生まれ、テヘランで高校を卒業し、2024年1月3日に日本への留学を目的に来日しました。もっとも、彼女は過去にも親戚の伝手で2回の来日歴があり、留学目的の今回は3回目の来日ということです。では、ここから実際にアイダさんのお話を交えながら進めてまいりましょう。

筆者(以下Q)もう日本の生活には慣れましたか?

ーアイダさん(以下A);私はこれまでに2回日本に短期間来たことがありました。ですが、今回はそれまでとは大きな違いを感じています。それは、今回は短期の旅行や親族訪問ではなく、日本で本格的に暮らし、勉学を始めることになったからです。ちなみに、過去2回は母と一緒に日本に来て2週間ぐらい滞在し、たくさんの観光名所などを見て回るくらいでしたが、今回は1人で日本に来ました。これは私にとってそれまでなかった新しい経験で、わくわくしたと同時に、少しだけ心配もありました。それは日本語がそれほど分からず、イランで平仮名とカタカナ、そしてごく簡単なフレーズを学んだぐらいだったからです。でも、今回日本に来たからには日本語をもっと覚えるために、自分なりに頑張ってきました。これまで1年半近く日本で暮らして、日本での生活にはかなり慣れたと思います。

Q.今日本語はどのくらいできますか?また日本語のどんなところが難しいですか?

ーA.日本語はとても面白い、とても好奇心の沸く言語だと思います。漢字からもとても面白い点を学びましたが、同時にすごく複雑で難しいです。特に、同じような読み方、発音で書き方や意味が全く違う単語が多いのに驚きました。今まで自分でも色々努力し勉強した結果、現在、日本語能力試験のN3(日常で使われる日本語をある程度理解できる)レベルに達しました。でもまだ、学校で先生のお話の内容がよく分からないことがあります。そのような時には、日本人の友人に助けてもらっています。

Q.日本に来てよかったこと、日本のこういうところが好き、というものがあれば教えてください。

ーA;そうですね、私が日本のもので好きなものの1つが東京の電車・地下鉄です。本当に路線の数も多く、まさに日本語で「すごく便利」だと思います。実は私は、日本に到着したその日から日本語学校の授業に行かなければならず、そのためには自宅から学校までの道順、最寄り駅からどの電車に乗ってどこで降りて、といったルートをすぐに覚える必要がありました。そのためにも、電車や地下鉄という公共の交通機関をなるべく多く利用しました。テヘランにも地下鉄はありますが、特に東京の地下鉄はそれとは比べ物にならないほど路線が多く、入り組んでいますね!

Q.数ある国の中から、どうして日本を選んだのですか?

ーA.実際に私にはドイツ、オーストリア、カナダなどいくつかの選択肢から日本を選んだのですが、その理由は家族から特に日本がいいと勧められたことが大きいと思います。そして今、こうして日本を選んで本当によかったと思っています。その理由は、私の専攻がコンピューターだからです。日本はこの分野を学ぶのに本当に進んでいると思います。

Q.日本に来てから今までの経緯について教えてください。

ーA.来日したばかりのころは、東京都練馬区にある日本語学校に通い、その学校の付属の学生寮で生活しました。来日後1年3カ月ほどはISI日本語学校に通い、とても素晴らしい経験ができたとともに、日本語レベルでもかなり上達したと思います。日本語学校で様々な国からのクラスメートと(アイダさんは中央やや右より)

それからしばらくして東京にほど近い埼玉県にワンルームの物件を借りることができて、今はそこに暮らしています。

もっとも、好きな国日本での生活とはいえ、トラブルにも遭遇しました。それは日本語学校に通っていた時期のことで、就学ビザの問題でした。それは場合によっては自分の今後の計画が狂うかもしれないような出来事で、その最中にいたときは本当に神経をすり減らし、ストレスを抱えていました。来日前に入学予定の日本語学校とやり取りしていた際、学校側からはこの学校で2年間日本語が学べると告げられていました。ところがある日突然、日本語学校で学べるのは1年3カ月だけで、日本語を学ぶための就学ビザは延長してもらえないと言われ、この時は本当に毎日どうしようとやきもきしていました。

そんなこんなでしたが、欠席や早退なく皆出席で2025年3月にISI国際日本語学校を卒業し、成績がよかったので学校から推薦状をもらい、数ある専門学校の中でもとてもレベル・質の高い学校の1つ・HAL東京の入学試験に合格、入学できました。この学校は、教えてくれる先生方もとても素晴らしく、現在毎日楽しくこの学校に通っています。HAL東京の入学式で

当然、HAL東京での授業は全て日本語で受けていて、私にはまだ少し難しいです。でも私は、「どんな難しいことでも自分がそれを好きならば、やりたいと思うならできる」と信じています。

Q.とても素晴らしい考え方ですね!では今学んでいる学科を選んだ理由について教えてください。

ーA.私は小さい時からパソコンや、それをいじること、使うことにすごく興味を持っていて、毎年夏になるとテヘラン市内にある技術専門施設の講習会に通い、プログラミングやウェブデザイン、フォトショップやプレミアといった様々な講座を受講していました。12歳の時に初めてICDLの講座を受講したのですが、特にその時からコンピューターに興味がわき、一部の技能もこなせるようになりました。日本に来てからは、この国がコンピューター分野での先進国で、この分野に関する中心地の1つであることから、コンピューター学を学ぼうと決めました。

今私はHAL東京の1年生で、コンピューターサイエンス学科に在籍しています。もう少し後になってからAI人工知能やネットワークセキュリティー、ウェブデザイン、ホームページ制作などの中から専攻分野を選ぶことになっています。私が在籍しているのは4年間のコースで、4年制大学の学士課程に当たると思います。

Q.勉強面でとても充実しているようですね。では今度は日本での生活についてお聞きしますが、イランでの生活と比べて日本での生活はどうですか?

ーA.私にとっては、イランと比べて日本での生活は大きく違うと思います。私はイランでは両親や家族と一緒に生活していましたが、今日本では一人暮らしです。ですから当然、専門学校での勉強以外は家事や日常の雑事、役所の事務手続きなどは全部自分でしなければなりません。それから、イランではほとんどの場合、どこに行くにも家族の自家用車で出かけていて、鉄道や地下鉄はあるものの自宅からは遠いので、電車にはあまり乗ったことがありませんでした。でも日本では、ほとんど毎日どこかに出かけるのに電車や地下鉄を使っています。

それから、イランの食事と日本の食事もとても大きな違いがあり、完全に違っていると言ってもよいと思います。それから、これは食生活に関する、あくまでも私の現時点での考えなのですが、イランでは調理方式・方法に非常に気を使い、日本では食事の頂き方や作法にも重きが置かれているように感じています。

そして私が感じたもう1つの点は、学校の教室でのことです。先生方は決して、ある生徒を他の生徒と比べないことです。私はこの点がとてもよかったと思っています。生徒は1人1人違う、ということがベースになっているからでしょうか。それから最後に、気候面の違い、特に日本は湿度の高い国だと日々感じています!日本語学校での卒業式でお世話になった先生と記念撮影

Q.将来はどこで何をしたいですか?

ーA.近い将来やりたいと思っている一番大切なことは、まず自分の日本語能力をもっと高めて、日本語能力試験の一番上のレベル・N1に合格することです。そして、大学に進学し勉学を続けて、最終的には日本の一流企業に就職したいです。

Q.では最後に、このレポートを読んでくださっている日本人の読者の皆様にメッセージをお願いします。

ーA.1人の在日イラン人留学生として、美しい自然や豊かな文化と歴史を持つ日本の皆さんのことをもっとよく知りたいです。日本とイランは両方とも、古くから伝統・慣習を大切にしてきており、また美しい自然と四季折々の変化に富んだ国です。私はこれまでの日本での生活を通して、日本人の皆様の温かさや優しさに触れ、色々な場面で助けてもらいました。まずは、このことに心からの感謝の意を表したいです。そして将来的にも、日本の社会にとって有益な存在になりたいと思っています。日本は極東アジア、イランは西アジアに位置し、地理的には確かに遠く離れていますが、相互に尊重し合うことで共に友好の橋をかけていきましょうと呼びかけたいです。

―素晴らしいお話をたくさん聞かせていただき有難うございました!これからも頑張ってください。

筆者はこれまでに何度かアイダさんにお会いしていますが、そのたびに学校や日常生活での出来事などを、とても楽しそうに話してくださいました。また、お母さまのご親戚が日本に長年暮らしていらっしゃるとのことで、幼少期から日本についての情報を得ており、また今回の留学前にも来日経験があることから、他の国よりも日本に対する親近感が強かったと思われます。

日本語学校の卒業式で。「最後まで本当によく頑張りましたね!」

アイダさんは、来日してまだ1年8カ月ほどですが、学校生活や日本社会での様々な事象に触れ、日々新しいことに挑戦、経験しています。特に21歳とまだ年若い彼女にとっては、日本という異国の地での経験は何もかもが目新しく、また今後の彼女の人生設計や人格形成に大きな影響を与えるものと思われます。とても純朴でさわやかな笑顔を絶やさない、そしてチャレンジ精神にあふれたアイダさんの今後の日本での生活が益々充実したものとなり、また将来の彼女の願望が叶うことを心から祈願して今月のレポートを締めくくりたいと思います。

アイダさん、これからも頑張ってください!

 

 

 

ABOUT ME
yamaguchi
IRIBイランイスラム共和国国際日本語通信でニュース翻訳のほか、イランのことわざを週2回紹介しています。20年以上にわたりイラン滞在の経験があり、2016年からはイラン人の夫とともにテヘランから西に150kmほど離れたガズヴィーン州に滞在していました。現在は、イランと日本を行き来しながら、日本の皆様に普通のメディアには出てこないようなイランのホットな情報をお届けしています。