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長く大きな国旗とともに行進するイラン市民
イランでは、1979年にルーホッラー・ホメイニー師の指導によるイスラム革命が起こり、それまでのパフラヴィー王制が打倒され、イスラム教をベースとする民主主義を謳うイスラム共和制が成立しました。ホメイニー師が亡命先のフランスからイランに帰国した2月1日から、この革命が最終的に勝利を収めた2月11日の革命勝利記念日までの10日間は、「夜明けの10日間」(ペルシャ語でファジル)と呼ばれています。この期間は、特にイスラム革命勝利週間としてイラン各地や、世界各地のイラン大使館などで、盛大な祝賀の行事が執り行われるほか、この期間の前後には、イランでファジル(夜明け)という名を冠した数々のフェスティバルが実施されます。今回はこれにちなみ、偶然にも日本の建国記念日と重なっている2月11日に開催された、イラン各地の革命勝利記念日の様子をお届けすることにいたしましょう。
イランでは昨年末に、一部の都市で物価高などを理由とした市民の抗議集会などが、これに便乗した一部の暴徒らの扇動により暴動に発展するなど、多少の混乱が見られました。しかし、特に今月の2月11日のイスラム革命勝利記念日に催されたイベントへの国民の大々的な参加は、そのような混乱をものともせず、イラン国民の強い団結や愛国心をうかがわせるものだったと言えます。
まずは、テヘラン市内の様子からご紹介しましょう。前日の2月10日の夜から翌日いっぱいにかけて、大群衆が繰り出してくる事態に備えて、市内中心部にあるヴァリーアスル通りなどの目抜き通りをはじめ、多くの通りで通行規制がしかれました。中でも、市内西地区にあるアーザーディー広場は、毎年恒例の革命記念日に大群衆が集まるスポットの1つとされています。
そのアーザーディー広場に向かう主要なルートの1つでも、群集による大行進が形成されています。
背中に自分の体をすっぽり覆うほどの大きな国旗をかけている少年たち。その中の1人はVサインをした両手を高く掲げており、とても誇らしげな様子がうかがえます。
それでは、今度はテヘラン市内の街中に出てみたいと思います。人々が、実に色々な方法で自らや街中を、イランの国旗を彩る緑、白、赤で装飾し、イラン、そして愛国心、1979年のイスラム革命の理念に対する支持をアピールしていました。
特に、大きく長い国旗が大勢に人々により掲げられている光景が印象的でした。
群集による大行進は、毎年お馴染みの光景となっています。こちらは、「我らは指導者の命令に従う」というスローガンを掲げての行進です。
これほどの群集が集まると、本当に壮観です。
革命のスローガンを書いたプラカードも、決して欠かせないものです。この少女が掲げているプラカードには、「我々国民は目覚めている、扇動行為はもう御免」と書かれています。これは、年末に発生した一部の都市での騒乱に反駁する意図を示したものでしょうか。
しかし、やはり何と言っても革命勝利記念大行進の中核をなすのは、この革命の指導者であるホメイニー師や、現在の最高指導者ハーメネイー師への支持ではないでしょうか。この女性が掲げているスローガンには、「名誉ある三色旗よ、永遠なれ」と書かれています。そして、まさに「ホメイニー師は永遠に不滅です」という理念をアピールしているのでしょう。
しかし、革命記念行進に参加しているのは、決して大人ばかりではありません。親子や家族連れでの参加者も数多く見られました。こうした親御さんに育てられた子供さんも、きっと革命の精神を受け継いでいくのではないでしょうか。
子供といえど、きちんとイランの三色旗をあしらった装飾で、愛国心や革命への支持を表現しています。
また、派手な装飾や横断幕、国旗を掲げずとも、ワンポイント・アクセントにより見事に愛国心をあらわしている女性もいました。
イスラム革命は、世界でも珍しい宗教的な側面を伴った革命として世界に大きなインパクトを与えましたが、その影で多くの人々が反対派に暗殺されるなどして、命を落としたことも忘れてはなりません。革命の殉教者を出した遺族などによる、殉教者の存在をアピールする行動も、この大行進の注目すべき点の1つだと思われます。しかも、殉教者の遺影には普通の黒枠ではなく、革命という特別な目的に命をささげたことを顕示するため、ここにもイラン国旗の3色の帯が使われています。
街中を行くタクシーにも、イランの地図と国旗がデザインされ、徹底して革命の勝利への祝賀の意を表しています。ですが、このタクシーはなんと、ミサイルまでも乗せていました。最近、一部の国がイランの核問題に便乗してイランのミサイル防衛能力を問題視していることへの抗議でしょうか?
そして、大勢のイラン人に混じって参加する外国人の姿も見られました。革命記念日の大行進に具現されたイラン人の愛国心は、外国人をも触発する威力があるのかもしれません。こちらは行進に参加した中国人です。
さらには、障碍者の方も電動車椅子に乗って参加していました。自ら歩行したり、国旗を掲げることができなくとも、車椅子に国旗をつけて、革命や愛国心をアピールしている姿には、本当に感動させられます。
黒地が主体の中に、1人だけイラン国旗をあしらったパラソルをさしている人もいました。
革命の勝利への祝賀を表す表現方法は、地上のみに限られません。パラシュートをつけて空中でイラン国旗を掲げるパフォーマンスも見られました。
さて、首都テヘランでの革命記念日の行進や行事もさることながら、地方都市も負けてはいません。イラン中部の古都で、かつては世界の半分と謳われたイスファハーンでも、盛大な集会が行われました。以下は観光名所の中心とされるナクシェジャハーン広場での様子です。
また、北東部の聖地マシュハドにある、シーア派8代目イマームレザーの聖廟に向かう道でも、長い国旗を掲げての行進が見られました。
また、イランの各都市の中でも、イラン古来の宗教であるゾロアスター教の信者の多い中部の都市ヤズドでは、白装束に身を包んだゾロアスター教の聖職者も行進に参加していました。
北部カスピ海沿岸の町ラシュトでは、女性たちがハート型の国旗を掲げるという、興味深い光景が見られました。
ラシュト市内での様子。
南部シーラーズでの革命記念集会
西部ロレスターン州ボルージェルド市内にある、三色旗で装飾された小学校
南東部ケルマーンでの革命記念行進
今年の革命記念日は全国的に好天に恵まれたようですが、過去には北西部などを中心に、雨や雪の降る中で大行進が実施された年もあったそうです。まさに、「雨ニモマケズ、雪ニモ夏ノ暑サニモマケズ」といったところでしょうか。
さらに、南部の港湾都市バンダルアッバースでも、海岸を練り歩いての盛大な革命記念行進が実施されました。
そして、締めくくりにペルシャ湾に浮かぶ小島キーシュ島での様子をご覧ください。こちらはさすが、周りを海に囲まれていることから、舟を使ったり、海上でのパフォーマンスによる革命記念イベントとなっており、島という地理的な条件が見事に反映されています。
イランでは、特に昨年11月の西部を中心とした大地震の発生や、年末の一部の都市での騒乱・暴動、そして年明けから間もなく発生したタンカーの事故など、生憎マイナスの出来事が連続しています。しかし、そのような中で、否、そのような時こそ、革命の勝利記念という共通のテーマのもとに、ここまで国全体をあげて国民が団結する姿には、本当に感心させられるものがあるのではないでしょうか。特に、来年はイスラム革命の勝利から40周年という大きな節目を迎えます。激動の中東情勢の真っ只中にありながら、自らの理念を貫き、これを世界にもアピールしているイラン国民の芯の強さを感じさせるこのイベントは、今後も続けられていくことでしょう。