*テヘラン便りで取り上げた地域の旅行手配も承ります*
イランには、何日もかけて旅行をしなくとも、日帰りで行ける観光スポットが数多く存在します。今回は、前回までとは方向を変えて、テヘラン北東部に足を延ばし、中東最高峰とされるダマーヴァンド山の絶景を楽しみ、またイラン人の間にもあまり知られていないと言われるシャーハーンダシュトの滝を見学してまいりました。距離的にも、これまでに行った場所と比べて断然近いのですが、イランにはそうした意外なところに魅力的な景勝地が存在します。
通称「イラン富士」、ダマーヴァンド山見学
朝6時にテヘラン市内をバスで出発し、2時間ほども走ったでしょうか。朝食のため、途中停車した町がダマーヴァンドです。ここは、その名の通り中東最高峰と言われるダマーヴァンド山がある町です。さて、まずはこの町のレストランでパンと目玉焼きの朝食をとりました。この場所がダマーヴァンド山見学に最高の場所であることから、このレストランにはひっきりなしにドライブ客が訪れます。
山のふもとの涼しい空気を胸いっぱい吸い込みながら、同じバスで仲良くなった人たちとの会話を楽しみ、いざレストランの外の見学スポットへ。そういえば昨年、日本に一時帰国した際に東海道山陽新幹線で九州に向かう途中、新富士の駅を通りましたが、この時にかなり近い距離から富士山が見えたことを思い出しました。ダマーヴァンド山はイラン富士とも呼ばれるだけあって、見た目が富士山とよく似ています。エルブルズ山脈中部、テヘランの北東およそ70キロメートルの地点にあり、標高は5611メートルから5670メートルほどと推定されています。その均整の取れた形、頂上付近に雪が積もっているところなどは、本当に富士山を思わせるものでした。但し、山頂は富士山よりもやや尖った形状で、白煙のようなものが吹き上がっているのが見えました。ガイドさんのお話では、これは水蒸気のため、白雲と間違えられることもあり、また硫黄が噴出すこともある、ということです。また、ダマーヴァンド山は地質学的には最も新しい時代である完新世(第4紀)に出来た成層火山であり、現在は休火山となっていて、最近の噴火は3万8500年前とされています。
ダマーヴァンド山は、今から5年前にイランで初の国の自然遺産に指定されており、またイランの伝説上にも良く出てくるとのことでした。イランの大詩人フェルドウスィーの英雄叙事詩「王の書」にも、この山が出てくる部分があります。「王の書」によりますと、英雄フェリドゥーンがイランの伝説上の暴君ザッハークを縛り、この山の洞窟に閉じ込めていたということです。
ちなみに、ダマーヴァンドという名前の名称については諸説がありますが、ペルシャ語でダマー(むせ返るような空気、蒸気、煙)+ヴァンド(~のような、~を帯びた)ということで、山頂から硫黄が噴出し、白い蒸気のようなものが噴出している山、という解釈が最も有力だそうです。
シャーハーンダシュトの滝
さて、ダマーヴァンド山を後にして再びバスで1時間ほども走ったでしょうか。テヘラン州とマーザンダラーン州の州境の町ミールザーハーシェムを通過して、マーザンダラーン州アーモル郡にあるシャーハーンダシュト村に着きました。ここには、マーザンダラーン州最大規模の滝とされるシャーハーンダシュトの滝があります。この滝を初めとするシャーハーンダシュトの村は、海抜1780メートルの地点にあり、夏でも冷涼で快適でした。この滝を見学するには、徒歩の場合ですとかなり起伏の激しい、また何箇所も足場の悪いところを超えて1時間半ほど歩く必要があるとのことでした。私たちは、時間的に限られているため、途中まで数台のライトバンに分乗し、駐車場で下車して、そこから先は20分ほどかけて山道を登りました。
道幅が狭く、また一部に少々危険かと思われる箇所をいくつも通り過ぎましたが、そうしてたどり着いたシャーハーンダシュトの滝は、本当に見事なもので、しかもその周辺にはこの滝を含めて全部で6つの滝がある、ということでした。50メートルといわれる落差のあるこの滝のそばまで行ってみると、流れ落ちる水の轟音と共に、細かい水しぶきが飛び散っています。テヘランではまだ暑い時期だったにもかかわらず、ここでは少々肌寒いくらいでした。この滝も、イランの国の自然文化遺産に指定されているとのことです。
バフマンの城砦
この滝の脇にある山林の中で昼食をとり、1時間ほど休息してからもと来た道を引き返しているときに後ろを振り返ると、シャーハーンダシュトの滝の上方に石造りの城砦の跡のようなものが目に入りました。これは、天使バフマンの城砦といわれ、今から3000年ほど前に建設されたということでした。今から400年以上前に、サファヴィー朝ペルシャのアッバース大王の軍勢との戦いで、この地が征服された後に破壊されたということです。1889年には、フランスのイラン学者モルガンが調査のためここを訪れており、またあるフランス人の旅行家によりますと、石の積み上げ方の点から、この城砦はイスラムに征服される以前のものと推定されているとのことでした。ちなみに、この城砦も西暦2000年にイランの文化遺産に指定されています。
この城砦は、構造面で非常に興味深いものがあります。それは、この城砦には地上の入り口が1つもなく、地下道からしか入れない仕組みになっているということです。なお、この地下道は現在は閉鎖されています。
テヘランの近郊にある、知られざる見所はまだまだ沢山あるといわれ、これから時間をかけて、ガイドブックにも出ていないようなところを訪れてみたいと思います。