砂漠だけではないイランの自然の多様性;夏でもクーラーが必要ない地域も多数
イラン有数の温泉地帯の1つ・北西部アルダビール州サルエイン
筆者が長年在住するガズヴィーン州に横たわるアヴァーン湖
近年では世界的に地球温暖化や異常気象に伴う問題が盛んに警告されており、気候区分上は温帯に属するはずの日本も例外ではありません。先だっては日本の国内の複数の都市で摂氏40℃に達するなど、日本も亜熱帯化していると言われています。当然ながら、こうした状況ではクーラーなどの冷房装置は不可欠で、それに伴って電力使用量も大幅に増大します。
一方、イランにおいても首都圏でさえ42、3℃を記録することは決して珍しくなく、さらに中部、南部の多くの地域ではそれ以上に達します。もっとも、イランの気候は乾燥していますので、一般に考えられているよりはしのぎやすいかもしれません。
つい先だっては、テヘラン東部に隣接したセムナーン州でも摂氏50℃に達したとの報道がなされていました。さらに、南部ペルシャ湾岸地帯では50℃代後半にまで上昇します。筆者自身ももうかなり前に、8月の猛暑の最中にペルシャ湾岸に行ったことがありますが、その時はすぐ近くにあった寒暖計が54℃を指していたのを目の当たりにし、非常に衝撃を受けました。日焼け止めクリームをしっかり塗り、サングラスやつばのある帽子を着用していたものの、その時の記憶では、50℃を超える暑さの中では皮膚が焼けつくような痛さとともに、熱風の中に閉じ込められているように感じたことを覚えています。
しかしながら、世界や日本、そしてイラン国内のかなりの地域で猛暑が報告されている一方で、そのイランには同時に夏でも冷涼で快適に過ごしやすい、いわゆる避暑地とされている都市や地域も存在します。つい先だって、筆者もこの夏、即ち7月上旬から8月下旬までの約1か月間を、テヘランから約180キロ離れたガズヴィーン州クーヒンというところで過ごしました。ここは、コロナ前を含めて数年前から筆者が滞在していた町ですが、日中はそれなりに気温も上がり汗ばむこともありました。しかし、朝晩は急激に涼しくなり、夜は窓を閉めて就寝していたほどです。このため、夏の一番暑い時期であるにもかかわらず、クーラーなしで過ごすという珍現象を経験することとなりました。
日本のことわざでは「暑さ寒さも彼岸まで」と言われるものの、近年は必ずしもその通りではないケースが続出し、「彼岸過ぎまで」ということも珍しくないのではないでしょうか。そこで、今回は「暑い国」「乾燥した砂漠の国」と思われがちなイランにある避暑地、夏でも冷房器具なしで過ごせるイランの都市や地域をご紹介してまいりたいと思います。
さて、避暑地と言えば首都テヘランから遠く離れた場所をイメージされるかもしれませんが、実は意外なことにテヘラン州内に年間平均気温が摂氏8℃とされる避暑地が存在しています。テヘランは正確にはテヘラン州と呼ばれるイランの州(日本の都道府県に相当)の1つで、さらに22区から成るテヘラン市とその近郊の郡に分かれます。東京都内の東京23区と奥多摩のような関係をイメージしていただければ分かりやすいかと思われます。ここでご紹介するのは、東西南北に長く伸びたテヘラン州北東端に位置するフィールーズクー郡です。ちなみに、テヘラン州の北部にはエルブルズ山脈が走っており、中央よりやや左上の黄色い部分がテヘラン郡で、テヘラン郡内にさらに東京23区に相当するテヘラン市、23区外の市に相当するアーフターブ市、マルキャズィ市、キャン市があります。
今回ご紹介するフィールーズクー郡はテヘラン市の東約150kmに位置し、同市内からは車でおよそ2時間ほどです。ご参考までに、イラン最大の空の玄関口テヘラン・イマーム・ホメイニー国際空港はテヘラン市から離れた、やや左下のロバートキャリーム郡にあります。また、地図右寄りのダマーヴァンド郡は北をマーザンダラーン州に隣接しており、同州にあるダマーヴァンド山(通称・イラン富士)の山麓の一部となっています。北方にエルブルズ山脈を臨むフィールーズクー郡
このフィールーズクー郡にはいくつかの見どころがありますが、その代表的なものの1つがヴァ―シー峡谷です。
この峡谷の岩盤面には、ガージャール朝時代のファトフアリー・シャー国王の彫刻があります。この彫刻の大きさは縦6m、横が7mほどで、鹿に乗って狩りをするファトフアリー・シャーとその3人の息子たちの様子が描かれています。また、この峡谷内を流れ落ちる滝も、この峡谷の見どころの1つです。
このように、テヘラン市郊外にも意外な避暑地が存在しますが、やはり何と言ってもイラン国内の避暑地の多くはイラン北西部、つまり東西両アーザルバーイジャーン州やアルダビール州を含む、アーザルバーイジャーン地方に多く見られます。それでは次に、イラン国内でも特に冷涼な地域と言われるアルダビール州サルエインをご紹介しましょう。イラン全体の形状を座っている猫に例えると、アルダビール州はその左耳からその下の部分に当たります。この地域は冷涼で、1年のうち約半年は雪に覆われていますが、残り半年は豊かな緑に包まれます。アルダビール州は、イラン国内で3番目の標高を誇り火山でもあるサバラーン山があることから、国内有数の温泉地としても知られています。サバラーン山(標高4811m)
サルエインの温泉の1つ
アルダビール州にはそのほかにも景勝地が多く存在します。以下は、落差が25mあるキャルキャリー滝と、美しい緑に囲まれたスーハ―湖です。キャルキャリー滝
ニジマスが生息するスーハ―湖。湖畔ではキャンプの他、釣りを楽しむこともできます。なお、ニジマスの産卵期には釣りは禁止されるそうです。
また、州の中心都市アルダビール市から22キロ離れたヒール郡には、全長200mのガラスの吊り橋があります。これは、2020年6月11日に開通し、国内の意外な見どころとして話題を呼んでいます。この地域のひんやりした陽気に加えて、ゾクッとするスリルも味わってみてはいかがでしょうか。
ヒール吊り橋
ちなみに、このつり橋につきましては、2022年5月の本レポートで取り上げていますので、詳しくはそちらをご参照下さい。
では次に、アルダビール州に隣接した東アーザルバーイジャーン州スク―郡キャンドゥヴァーン村をご紹介しましょう。この村は同州の中心都市タブリーズの南およそ60kmの地点にあり、現在はおよそ160世帯が暮らしているということです。一見すると、トルコの著名な観光地カッパドキアを連想させるこの村は、正確には東アーザルバーイジャーン州オスク―郡内に位置しています。ここでは、石をくり抜いて作った昔ながらの住居に、今なお人々が伝統的な生活様式に沿って暮らしています。
全体像としては、まるでキノコがにょきにょきと生えてきたような感じに見えますが、その中では意外と快適な暮らしが営まれており、室内の温度は適温だそうです。一説によれば、キャンドゥヴァーン村という形で集落が形成されたのは13世紀から14世紀ごろと言われています。しかし、歴史的にはこの地域には今から7000年前から人が暮らしていたということです。
また、一般的にこの村のある地域を含めたイラン北西部は亜寒帯・冷帯気候区に属し、日本の北海道のような気候で、夏でも冷涼であるとともに、冬の寒さは相当厳しくなり、氷点下10℃以下になることも珍しくないそうです。雪に覆われた冬のキャンドヴァーン村
そして、イラン国内でも最も厳寒な地域の1つ・西アーザルバーイジャーン州オルミーイェにも注目したいところです。この州は、東アーザルバーイジャーン州の西に隣接しているほか、トルコ、イラク、アゼルバイジャン・ナヒチェバン自治共和国と国境を接しています。この州の自然の最大の見どころはやはり、オルミーイェ(ウルミエ、レザーイェとも)湖だと思われます。世界第2位の塩湖であるウルミエ湖畔で、イラン国内の他の地域が40℃や50℃を超える暑さに見舞われている中、爽やかな潮風に吹かれてみるのはいかがでしょうか。この湖は国内最大の湖で、総面積は約5960km²にも及びます。もっとも、西暦2000年以降は水位が大きく低下し干上がる傾向が見られ、それに伴い総面積も減少しつつあることが懸念されています。そのため、最近では「白い砂漠」が出現したとの声も出ています。
さて、先にもお話しましたように、西アーザルバーイジャーン州は複数の国と国境を接していることから、日本では見られない、複数の国とのいわゆる「陸の国境」が見られます。以下は、イラン、トルコ、イラクとの三国国境に横たわるダーラームパル山と同名の湖です。3国国境地点にまたがるこの湖は、直径約450m、海抜高度はおよそ2720mとされています。写真中ほどの山の雪のかかっている部分および、湖の左端一杯までがイラン、山に少々緑がかかっている部分がトルコ、湖の左端の緑の地面の部分がイラクだということです。ちなみに、地図では以下のようになります(下部の青い線で囲んだ部分)。
次に、カスピ海に面したイラン北部のリゾート地の数々をご紹介してまいります。一般的に、カスピ海沿岸地域は日本の軽井沢に相当するリゾート地のような存在として、またテヘランからも比較的近く、車などでアクセスしやすい事から、国内有数のリゾート地として知られており、いくつもの保養地・避暑地が存在します。その中でも特に著名なものを厳選してみました。まずは、マーザンダラーン州のいくつかの避暑地をご紹介します。カスピ海はペルシャ語で「マーザンダラーンの海」と言われており、この州はカスピ海の南岸に当たります。
マーザンダラーン州の拡大図は以下の通りです。西隣には、ギーラーン州があります。以下の各地名は、この地図をご参考にしていただければと思います。
まずは、ケラールダシュト郡マーズィーチャール村(上の地図の左側の黄色い部分)をご覧ください。この地域は特に、雲が低い高度で間近に見られることで知られています。
筆者自身も、コロナ危機のちょうど1年前にこの地を訪れたことがありましたが、それまで決して見たことのなかった光景に、非常にインパクトを感じたことを覚えています。思わず「雲のベッドの中に入って寝ころびたくなる」ような印象を受けました。
テヘランから最短で行けるカスピ海岸都市の一つ・チャールース(ケラールダシュトの右隣)の南東、エルブルズ山脈の北側斜面には美しいヴァラシュト湖が横たわっています。この地域には標高4000m級の峰が43か所もあり、エルブルズ山脈の屋根とも称されています。その最高峰は、標高4850mのアラムクー峰です。さらに、この山脈に存在する氷河のうち、最大級のものがタフテソレイマーン峰に存在します。イランに氷河???と不思議に思われるかもしれませんね。
なお、ケラールダシュトを訪れたならば、カラメルシロップ、バニラ、チョコレート、ア0モンドをふんだんに使った、カーカーと呼ばれるこの地域特有のアイスクリームを是非味わってみてください。
同じく、マーザンダラーン州バーボル郡フィルバンド村は連綿と連なる雲海が間近に見られるところとして有名です。雲海と言えば、飛行機の窓からしか見たことがなかったのが、それよりもはるかに近いところに見えるのは本当に不思議な感じがします。
ちなみに、この村では冬の寒さが非常に厳しいことから、ここの住民は冬は村を退去して温かい地域に移動し、そこで冬を過ごすそうです。
この他にも、カスピ海に面した北部地域にはいくつもの避暑地が存在しており、特に有名な地域を挙げておきたいと思います。
マーザンダラーン州のダマーヴァンド山周辺地域。先にご紹介したテヘラン州ダマーヴァンド郡に隣接しており、テヘラン北東66kmの地点にあります。
マーザンダラーン州サヴァ―ドクー郡アーラーシュト市。緑豊かな丘陵地帯に切妻式の屋根を持つ家屋が建っており、日本と間違えそうですね。
北西部ギーラーン州ターレシュ郡アサーレムの緑豊かな丘陵地帯
アサーレムから隣接のアルダビール州ハルハールを走る山の中の街道
次に、少々前後しますが、マーザンダラーン州東部に隣接した、国内では北東部にあたるゴレスターン州ジャハーンナマ―村にも絶好の避暑地、そして絶景を臨める場所が存在します。緑に覆われた丘陵地帯に切妻屋根の家屋、高度の低い雲が醸し出す美景
ゴレスターン州と東に隣接した北ホラーサーン州(州都はボジノールド)
ジャハーンナマ―とは、ペルシャ語で「世界の展示」という意味を表しています。実際、連綿とした雲海をかなり近くで見ることができ、まさに別世界というに相応しいのではないでしょうか。まさに雲の上の天国のような別世界!大都市圏では決して見られない不思議な絶景。
さらに東に足を延ばしていくと、イラン北東端の北ホラーサーン州に行き当たります。中でも、同州の中心都市ボジヌールドには決して見逃せない避暑地・絶景が存在します。その1つが、落差15mほどのビヤール滝です。
では、今度はイラン西部に視点を移してみたいと思います。まずは、国内でも特に滝の数が多いとされるロレスターン州からまいりましょう。地図で見ると、以下のようになります。まずは、イラン西部を走るザグロス山脈の楽園・ギャハル湖をご覧ください。この湖は総面積がおよそ85ヘクタールあり、イラン・アルプスの異名をとるオシュトラーンクー山系の脇に横たわっています。この地域には、ピスタチオ、樫、ヤナギ、梨、イチジク、サンザシと言った樹木・灌木や各種の草花に加えて、ヤギ、シカ、ヒョウ、ウサギなどの保護動物が生息しています。周辺のきれいなおいしい空気、きれいな湖水、湖畔が安全ッであることから、散策やキャンプに絶好の場所です。
先月のこのレポートでもご紹介しました通り、ロレスターン州は滝の多い州です。中でも、その規模や落差もさることながら、全体的な景観の美しさで知られているのが、ビーシェ滝です。この滝はその絶景から「ロレスターン州の大自然のシンフォニー」とも評されています。いくつもの水の流れに分かれるビーシェ滝(落差48m)
その他にもこのロレスターン州にはいくつもの大自然の魅力が存在します。水による大地の侵食で形成されたハズィーネ渓谷
イランの大自然の摩訶不思議の1つでもあるアズナー郡の「雪のトンネル」(全長800m、高さは2.5~3㎡ほど)
水と岩が見事に共演;「ホルト峡谷」
加えて、イラン有数の豪雪地帯として知られるハメダーン州も避暑地だといえます。この州はテヘランから西に330kmほど離れており、以下の地図の赤の部分に当たります(テヘランは青線で囲んだ部分)。
この地域の夏の涼しさと美しい自然の中でも特に注目したいのが、もうかなり前にこのレポートでもご紹介した「アリーサドル洞窟」です。この洞窟は全長11kmにもおよび、一通り順路を通って見学するには最低3時間かかるとも言われ、内部に湖があり船で通行できる洞窟としては世界最大級とされています。内部の気温は年間を通して大体摂氏20℃に保たれています。
そして、この州にある自然の魅力の1つに、ギャンジナーメ滝が挙げられます。この滝は、以前にこのレポートでご紹介した、楔形文字によるギャンジナーメ碑文を初めとする同名の観光地群にあります。落差は13mほどですが、避暑地として多くの人々が訪れています。
そしてこの滝の周辺に広がるミーシャン平原も、さわやかな気候と美しい緑により、夏の厚さを忘れさせてくれます。
なお、先ほどもお話したように、イラン西部はイラクと国境を接しています。そのイラク国境地帯にあるコルデスターン州です。
この州にも、夏でも涼しく快適に過ごせる地域が存在します。緑に覆われた山の斜面に階段状に連なる家並みが特徴的なウーラーナーマート村
マリーヴァーン郡の見どころの1つ・スィ―ルヴァーン川;全長は445kmにもおよび、コルデスターン州と隣接のケルマーンシャー州の2か所に水源があり、国境を越えてイラクに流れ込んでいます。
さて、これまでは主に北部や北西部、西部など、一般的な避暑地としてイメージ的にも合いそうな地域をご紹介してまいりました。しかし、意外なことにそれ以外の意外と思われる地域にも避暑地が存在しています。中部や南西部地域には、砂漠などの熱帯・乾燥地帯が存在する一方で、緑に覆われた避暑地もあることは、筆者にとっても非常に衝撃的に感じられます。ではここからは、中部や南西部地域にある、「夏の楽園」と呼ぶに相応しい避暑地を挙げてまいりましょう。
まずは、南西部チャハ―ルマハール・バフティヤーリ―州から見ていきます。地図で見ると以下のようになります。
この州の見どころは何と言っても、クーフラング郡の逆さチューリップではないかと思われます。この地域について語る上で、平原一面に広がる逆さチューリップは決して忘れてはならない要素です。毎年大体5月から6月ごろが見ごろとされ、イラン国内はもとより海外からも多数の観光客が満開の逆さチューリップの見学にやってきます。ちなみに、この時期を含めてクーフラング郡を訪れる観光客の数は、国内外合わせて1100万人以上に上るということです。
そして、クーフラング郡の最大の見どころの1つに、氷の壁に覆われたヤヒー・チャマー洞窟が挙げられます。この洞窟は、中東で最も寒い洞窟とも言われています。
さて、イラン南部といえば、ファールス州の中心都市シーラーズの近郊にある、イランが世界に誇る紀元前アケメネス朝の遺跡ペルセポリスがよく知られているかと思います。しかし、この州の魅力はこうした世界遺産のみならず、意外な避暑地も含まれています。なんと、そのペルセポリス近郊にあたるファールス州マルヴダシュト郡には、「失われた楽園」と呼ばれる、夏でも涼しく快適なタンゲ・ボスターナク地域があります。ここは緑豊かであるとともに、滝も見ることができます。
イラン南部の「失楽園」への入り口を示す看板
水と緑が豊かな、まさに「楽園」
そして、中部イスファハーン州から南西部コフギルーイェ・ブーイェルアフマド州にまたがるデナー山岳地帯も、避暑や夏の登山に相応しい場所とされています。デナー山系は、イラン南西部を走るザグロス山脈中最も海抜高度の高い地域とされ、海抜高度は4000mにも及ぶ52の峰が連なっています。
そして最後に、イラン国内でお勧めの避暑地として、筆者が2016年以降イラン国内での在留地としているガズヴィーン州を付け加えておきたいと思います。ガズヴィーン州はこのレポートでもご紹介した北部マーザンダラーン州およびギーラーン州の南側に隣接し、テヘランから州都ガズヴィーン市までは西に約150km花慣れています。ちなみに、筆者が在住しているクーヒンは、ガズヴィーン市から西に30キロほど離れたところにあります。
ガズヴィーン州クーヒンに広がる筆者の自宅近隣の緑豊かな丘陵地帯
テヘランの西方約150キロに位置するガズヴィーンは、その時の渋滞の状況にもよりますが、車ではおよそ2時間ほどで電車や長距離バスの便などもあります。過去の王朝時代の一時期にはイランの首都が置かれていたこともあり、ガズヴィーンには過去のこのレポートで取り上げさせていただいたように、アラム―ト城塞などを初めとする多数の史跡が存在します。ですが、同時にこの地は風光明媚な地でもあります。以下に、ガズヴィーンが誇る自然の美をご覧ください。冬には湖面が凍結するアヴァーン湖
2018年に開通したカーマ―ン・ゼレシュク観光地区のロープウェー
州内北東部アラム―ト郡ピーチェ・ボン避暑地
ラズジェルド村のヴァルチョル滝。落差は約30m
ターケスターン郡バーシュゴル自然保護区。2万6000ヘクタールにも及ぶ区域に多数の野生動物が生息
州の中心都ガズヴィーン市から車で2時間余りのアンダジ村にある奇妙な岩山群
そして何と、ガズヴィーンには温泉もあります。ヤレゴンバド温泉の入り口
真夏に40℃を超えるテヘランとは大きく異なり、ガズヴィーンでは猛暑をよそに快適な暮らしが楽しめます。実際、筆者も去る7月上旬から8月下旬にかけて、ガズヴィーン州の最北端クーヒン町に滞在し、何と真夏に冷房器具なしでの納涼生活を楽しんでまいりました。確かに、白昼はさすがに体を動かすと汗ばむものの、朝晩は急激に気温が下がり、夜は窓を閉めて就寝していたほどです。
以上、一般的には「砂漠の国」、「暑い国」と思われがちなイランに存在する、夏でも涼しい避暑地の数々はいかがでしたでしょうか。実は、このほかにもイランには夏でも快適に過ごせる地域が沢山あり、今回はそのすべてをご紹介しきれなかったのが残念です。首都テヘラン市内のほか、中部、南部の熱帯・乾燥地帯が40℃以上の熱波に見舞われている最中に、同じイランで涼しく快適な陽気を味わえる地域が、実は沢山存在しています。暑い時期にはこうした避暑地に出かけることも、イランでは可能です。特に近年は日本でも、異常気象により線状降水帯の発生や、40℃前後にまで上がる災害級の厚さ、寝苦しい熱帯夜といった現象がしばしば報じられています。しかし、そうした折にも快適で納涼に相応しい地域がイランにはあり、多くの日本人を含め、蒸し暑い地域で過ごさなければならない人々にとっては羨ましい限りではないでしょうか。イランには、こうした意外なメリットがあることを日本の皆様にも知っていただければと思います。
今後とも、普通ではまず見聞きしないと思われるイランの隠れた魅力を様々な観点からお届けしてまいります。どうぞ、お楽しみに。