旅行

特別レポート;イラク巡礼体験記(3)

ライトアップされたバグダッド近郊のカゼメイン霊廟

バグダッド市内のショッピングモール内のファストフード店

河畔から見たチグリス川

これまで2回に渡り、テヘラン便り史上初めてイランの隣国イラクからのレポートを「巡礼体験記」としてお届けしてまいりました。イラクは、世界の4大文明の1つ・メソポタミア文明の発祥地であるとともに、イスラム教シーア派の聖地も存在します。先々月と先月は主にナジャフとカルバラーという2つの聖地を中心にお伝えしました。ですが、今回はイラク巡礼体験記の最終回として、非常に近代的な一面もあり今後の急発展が予想される首都バグダッドの様子をご報告してまいります。

バグダッド市内の大通り。車やバイクが盛んに走行し、高層アパートも立ち並んでいます

さて、先月のレポートでは、聖地カルバラーの様子と、そこから車でバグダッドに向かう時点までをお届けしました。今回は、いわゆる地方都市からいよいよ首都に向かうことになります。首都ですから、地方都市とはやはり相当に都市構造や道路状況も違うのではと予想していました。しかし、バグダッドに向かう道は意外にものどかで、イラクが誇る農産物の1つ・ナツメヤシの樹林が延々と続いていました。ナツメヤシの樹林の中を歩き回る羊

そしていよいよバグダッド市内に近づくと二車線道路となりますが、相変わらずナツメヤシが植わっています。街道の中央の植え込みには、戦争などの殉教者の遺影が飾られています。こうした面はイランと類似しています

そしていざ、バグダッド市街に到着しました。市内の主要な区域であることを示すと思われるモニュメントが建っています。バグダッド市内で階段状の噴水や建設中の高層アパートを背景に。イラク国旗も掲揚されています

さらに、車を降りて近辺を見渡すと、イラク国立博物館がありました。さすが国立博物館ということで、堂々たる外観・威容を誇っています。国立博物館前で記念撮影。建物の外観も古代文明を連想される造りになっています

但し、残念ながらあいにくこの日は休館日ということで、せめて建物や案内板だけでも見てみようと、もう少しそばまで行ってみました。敷地を囲っている金属製の柵も洒落ています。

今年中にこの博物館で展示予定の、イラク国内の史跡関連イベントを紹介していると思われる掲示板。

イラクに来たからには是非、国立博物館を見学してメソポタミア文明の雰囲気を生で体験したかったのですが、今回はあいにく休館日だったため、次の機会には是非ここを訪れようと心に決めました。

そして面白いことに、国立博物館のすぐそばのちょっとした広場で露天市のようなものが行われており、多くの買い物客が訪れていました。古代文明とは対照的に、ここは実生活の雰囲気が広がっています。

ちなみに、バグダッドで泊まることになったホテルは、先ほどの国立博物館とこの露天市にほど近い、小さな簡易宿のようなところでした。綺麗なベッドに清潔なトイレとシャワー、小さな冷蔵庫が備え付けてあり、一晩だけ身を休めるのには十分な環境です。ちなみに、宿泊料は1人1泊1000イラク・ディナール(この時のレートで約1000円、食事なし)とのことでした。バグダッドで泊まった簡易宿の入り口。大通りから出ている路地の中にあります。上の方に横3行に並んだアラビア語の文字でホテルを示す看板があり、入り口の前に男性がこちらを向いて立っています

カラフルなシーツと毛布が備え付けられたベッド

トイレとシャワー。まずここでさっとシャワーを浴びて一休みしました

備え付けの小さな冷蔵庫。明日にはチェックアウトしテヘランに向かうため、一晩だけ泊まるのには十分でした

1000イラク・ディナール紙幣

500イラク・ディナール紙幣

さて、荷物を置いて一休みしてから、ホテル周辺を少々散策してみることにしました。首都バグダッドは先だってご紹介した聖地カルバラーやナジャフとは違い、黒いチャードルを着なくとも大丈夫ということだったので、イランで普通に着用している薄手のコートとヘジャーブ1枚で気軽に動けます。まずは、ホテルのそばを通っている大きな街路にそって、初めてバグダッドの町中を歩いてみました。

建設中の高層アパート。人口も増えつつあり、これから急発展していく気配が感じられます

イスラム教徒の女性が頭に被る、いわゆるヘジャーブのない、また胸元の開いた服装の女性の看板・宣伝広告もありました

とはいえ、やはりイスラム教国ですから首都圏にもモスクは存在します。アラビアンナイトに出てきそうな、エキゾチックな雰囲気がうかがえます。イランでよく見かけるモスクとは、特に丸屋根の部分や尖塔などに幾分違いが見られます。バグダッドでは、黒いチャードルなしで身軽な服装で行動できました

イラクといえばやはり、乾燥した砂漠の国というイメージがあるかもしれませんが、バグダッド市内には緑の綺麗な公園もあります。大きな入り口からは車が出入りしており、周囲を覆う壁には色鮮やかな絵画が描かれています。公園の入り口もモスクに見られるようなアーチ型になっていて、イスラム圏であることが見て取れます。

公園の中に足を踏み入れてみると、緑豊かな植物園のような感じでした。大きな公園内には、ナツメヤシの他にも、多種多様な花や植物が植えられていました

どうやら、相当に敷地面積が広いようです

そして、驚いたことに、敷地内には大きなモニュメントがあり、楔形文字が刻まれていました。メソポタミア文明発祥の地・イラクならではのものだと思われます。倒れそうになっている楔形文字入りの円筒を、4本の手がある1人の男性が押しとどめている様子を表したものでしょうか

そしてこの公園を出てしばらく行った先に、商業施設などが並んでいる区域に出ました。

大通りに面したこの区域には、いわゆる普通の規模の商店なども数多く立ち並んでいるものの、ひときわ背の高いデラックスなショッピングモールもありました。ナジャフやカルバラーでは決して見かけなかった大型の商業施設に、非常に驚きました。そばまで行ってみると、かなり高層の建物のようです。

とにかく、これだけ大きな外観を呈しているモール内はどんな風だろう、と思いながら中に入ると、このモール全体の模型がありました。

それから何と、ここでも空港のような身体検査と荷物のチェックを受けました。この場面は写真撮影が許可されず、終わってそのまま進むと、予想もしなかった豪華な店内が目の前に開けていました。

店内にはヒジャブのない女性もたくさんおり、先だっての黒いチャードル姿の人々が多かった風景とは打って変わって、まるでタイムスリップしたように感じられました。

トルコやアメリカなど、外国のブランドもたくさん入っているようです。

ケンタッキー・フライドチキンの広告もありました。多数階を擁し、豪華な照明や装飾、店内の雰囲気など、日本のショッピングモールとそれほど変わらないような雰囲気です。

エスカレーターでどこの階に行っても豪華な商品があふれ、煌びやかな装飾やイルミネーションが施され、誰もが自由な雰囲気で、ヒジャブのある女性も、そうでない女性も買い物を楽しんでいます。

煌々と輝くイルミネーション装飾。日本やドバイなどと比較しても決して遜色ないように思われます。

ところで、このショッピングモール内で化粧品の販売をしている女性店員が、日本の皆様に向けてぜひメッセージを発信したいと、撮影を買って出てくれました。以下にその動画をご紹介します。ヒジャブもなく自由な服装で業務に従事しており、最後には日本語で「アリガトウ」と添えてくれました。

この女性は動画の中で、「私たちのショッピングモールへようこそ。ここは非常にきれいな商業施設で、毎日たくさんの人々が平和に買い物を楽しんでいます。日本の皆様には是非、私たちのモールの存在を知っていただき、また買い物に来てほしいです」と満面の笑顔で語っています。

とにかく、こうしたショッピングモールを見る限り、ここがイラクだとはにわかには信じ難く感じられました。

そして夜になり、サンドイッチ形式の簡単な夕食をとってから、車でバグダッド市中心部から少々離れたカゼメインへと向かいました。正確には、カゼメインは市の中心部から北に約5㎞、チグリス川の西岸に位置しており、バグダッド市のうちのシーア派教徒が多く住む地域となっています。カゼメインという名称は、この地にシーア派7代目イマーム・ムーサ―カーゼムの霊廟があることに由来しており、この地域はカルバラーとナジャフに次ぐ、イラク第3の巡礼地とされています。

到着したときには日もとっぷりと暮れ、カゼメイン霊廟は見事にライトアップされていました。昼間の市内商業地区の散策時には身軽な服装で行動できましたが、ここは巡礼地であることから、再び黒いチャードルを着用しました。ちなみに、左側のアーチが男性用の入り口、右側は女性用の入り口となっています

ラマダン月で特に御利益があるとあってか、夜間にもかかわらず多くの人々で賑わっていました。

さすが、著名な巡礼地だけあって信心深い人々が多く、夜といえどこうした霊廟に大勢の人々が出向き、イスラムの偉人ムーサー・カーゼムに思いをはせていることがうかがえました。

そして翌朝、今回のイラク旅行最後の日ということで、バグダッド市内のもう1つの見どころ・チグリス川とその周辺を散策してみることにしました。ホテルのそばで、チグリス川のそばまで連れて行ってくれるという三輪自動車を見つけ、若い運転手さんといろいろ話もはずみました。「外国人観光客を乗せたんだ。これは仲間の間で自慢できる!」と誇らしげでした。チグリス川まで連れて行ってくれた運転手さん。降りるときには「ぜひ、イラクのことを日本の皆さんに伝えてください」と気軽にポーズをとってくれました

乗ってから20分ほども経った頃でしょうか、大きな橋からチグリス川が見えてきました。

そして、川のそばの比較的見晴らしのよさそうなところで車を降りて、川のそばを少々散策してみました。川の向こう岸にも建物が立っていますが、あくまでもバグダッド市内を流れており、行政区画としての州や県の境にあたるものではないそうです。

河川敷や川の土手のようなものは見当たりませんが、比較的大きな河川で、小舟も航行しています。

とにかく、今まではチグリス川といえば、地理や歴史の教科書ぐらいでしかご縁がなく、メソポタミア文明の発祥地として知っているぐらいだったのが、実際にこうして間近に見ることができたのは、貴重な体験だったと思います。

川の周辺も散策してみましたが、この地域は昨日ショッピングポールのあった区域とはかなり違い、下町とみられ、富裕層が住む区域ではなさそうです。

野菜や果物を売っているのも、昔ながらの市場です。

公衆浴場もありました。看板には赤いアラビア文字で「バグダッドの浴場」と書かれています。公衆浴場の入り口

人通りの少ない路地裏

この区域は、大型の商業施設などがある区域とは違って下町とみられ、所得のそれほど高くない人々が居住していると見られます。また、あくまでも個人的な感想ではありますが、今回ざっくり見た感じでは全般的に、建物の造りや都市構造などはイランの方がより斬新のような感じを受けました。

ここまでにわたり、ラマダンを厳粛に守る純朴な人々、危険性など微塵も感じられない巡礼地と、そこにある煌びやかで厳粛な雰囲気のモスク、豊富な品物が大量に並び活気にあふれるバザール、ゆったりと流れるチグリス川、そして古代文明や宗教的なムードを保ちつつも急成長しつつある首都圏などなど、ごく一部ではありましたがイラクの魅力を垣間見ることができました。今回訪問できなかった地域に次回は必ず足を運びたい、という思いを胸に、バグダッド市内を後にし、帰りの便に乗るためバグダッド空港に向かいました。

空港に到着するまでに、国会議事堂の前も通りました。

国会議事堂の正面

この地域は、国の中枢機関の他、外国の大使館などもある区域とされ、非常に静かで平穏を保っています。しかしながら、厳重な警戒が敷かれているそうで、車窓からの写真撮影もなるべく控えるように指示されました。また、窓から見える建物や施設のほとんどが周囲を高い塀に囲まれており、塀の向こうは見えませんでした。

空港にさらに近づくにつれて、緑が非常に多くなってきました。ここは緑化地帯とされており、ナツメヤシの木立に加え緑豊かでとても閑静な雰囲気ですが、厳重な警戒がしかれています。

運転手さんに聞くと、これは大学の校舎だということでした

そして、ここからいよいよ広い空港の敷地内に入るという時には、さらに緑の植え込みが増えてきました。空港の敷地に入る直前のナツメヤシの木立

さて、バグダッド空港はきれいな緑化地帯の中にあるとはいえ、空港の敷地内に入るのにも1人1人入念なチェックを受けました。当然ながら、車を降りてフロアやロビーに入るまでは写真撮影が許可されず、そのまま旅客用ロビーまで歩くよう指示されました。しかし、敷地内は非常に静かで、ニュースなどで一般的に報じられる内容とは全く逆に、とても安全で平穏でした。そしてロビーに着くと、思いのほか大きくデラックスな雰囲気だったのに驚かされました。さすがイスラム圏の空港らしく、天井にも多数のアーチが連なっています。夫とバグダッド空港内ロビーにて。非常にデラックスで大きな空港です

空港内の雰囲気は、イラン滞在中によく利用するテヘラン空港とそれほど変わらないと思われました。ですが、空港内で公然と写真をとろうとしたら、ヒジャブを被った制服姿の女性係員が来て、あまり大っぴらに写真撮影しないでほしいと言われました。そこで、せっかくバグダッド空港に来たからには記念の1枚が欲しいと思い、その女性係員にシャッターを押してもらい、その場を離れて飲食店などの多いエリアに場を移しました。沢山の旅客が寛ぐロビー

ラウンジ前で

空港内のカフェ

カフェでの軽食。イラク特有の薄手のナン(パン)にフライドポテトや鶏肉などを挟んだサンドイッチと紅茶

デラックスな免税店

免税店では外国人客用にお酒類も販売

バグダッド空港そのものはとても大きく、イスラム圏の雰囲気はあるものの、豪華な免税店や洒落たカフェなど、豪華なイメージを受けました。しかしその一方で、さすがはシーア派の聖地をいくつも抱える歴然たるイスラム教国だけあって、礼拝室もきちんと設けられていました。礼拝室の入り口。下駄箱に靴を預けて入る仕組みになっています。

礼拝室の内部。コーランも備え付けてあり、えんじ色のアーチのとがっている方向を向いて礼拝する仕組みになっています

搭乗時刻も迫ってきたので、指定されたゲートのロビーに向かいました。しかし、ここでもまたロビーに入る前に身体チェックがあり、手荷物の他、靴を脱いでチェックを受けました。そしてやっとロビーの椅子に腰を下ろし、搭乗開始を待ちました。イラクが気軽に旅行できる隣国とあってか、イラン人旅行客も大勢いました。また、写真を撮れなかったエリアでは、おそらくビジネス目的と思われる中国人男性の姿も多く見られました

さて、いよいよテヘラン行きの飛行機に乗るため、搭乗口に向かいました。イラク国営航空と思われる航空機がたくさん駐機しており、おそらくは近隣諸国を中心にフライトはたくさんあるようです。
機内から見たバグダッド国際空港

バグダッド出発は現地時間の18;45となっており、いざ搭乗時間になると少しずつ日も暮れてきました。事イメージ前のとは全く逆に、バグダッド空港がきれいな緑化地帯にあるデラックスで大きな空港であることも今回初めて知りました。機内から見たバグダッド空港も、本当に国際空港らしい貫禄が感じられました。

バグダッド発テヘラン行きのセぺフラン航空機の搭乗券

帰りの便は、イラン国内の航空会社の1つ・セぺフラン航空でした。機内はほとんどがイラク巡礼から戻るイラン人の旅行客でした。これでまた、出発時と同じテヘラン・サラーム空港(略称コードはIKA)に戻ることになります。テヘランへは1時間少々で到着します。

離陸してしばらくすると、軽食が配られました。紙の箱の表面に、航空会社の宣伝がなされているとともに、イランを誇る細密画・ミニアチュールの綺麗なデザインが施されています。とても印象的だったので、日本までお土産に持ち帰ってきました。テヘランまでの飛行時間が短いため、機内食も軽食でした。箱の中にも細密画が施されており、凝ったデザインになっています。

テヘラン到着はイラン時間の20;00すぎで、到着前には飛行機の窓から見事なテヘランの夜景が楽しめました。もう長らくイランに住んですっかり住み慣れているせいでしょうか、テヘランの町が見えてくると、なぜかほっとした感覚を覚えました。

テヘランに到着したのは20時頃でした。3日間のイラク訪問でしたが、非常に色々な光景や人々、街中の様子が走馬灯のように思い出されました。

まず、今回のイラク訪問を通じて感じたことは、イラクという国がイラン人にとっては決して訪問しにくい国ではなく、逆に陸の国境を隔てたすぐお隣の「ごく身近な訪問しやすい国」だということです。日本人にとっての韓国や台湾のようなものではないかと思います。実際、ナジャフやカルバラーなどの巡礼地を中心にイラン人巡礼客のツアーも沢山来ており、さらにホテルやタクシーのドライバー、市場でもペルシャ語の理解できる人が非常に多く、言葉のハードルも低いといえそうです。また、隣国であることから陸路での訪問も可能であり、航空機での入国に際しても、そのほかの国より交通費も安く行けることは大きなメリットといえます。

それから、イラクはもはや、一般に報道されているような「危険な国」はなく、治安も非常に安定している印象を受けました。やはり、宗教やその戒律がベースになっている国だからでしょうか、巡礼地などは色々な国から来た数多くの人々で賑わっているものの、犯罪や危険な要素は見られず、市場でも街中でも、夜間でさえ大勢の人々が出歩き、自由に買い物をしていました。また、特に聖なるラマダン月とあってか、モスク・巡礼地は昼夜を通して大勢の参拝客、祈祷客が参集し、賑やかながらも厳粛なムードに満ちていました。市場には豊富な品物が並び、活気にあふれ、またイラン人訪問客も多いことから、戦争で荒廃した国、かつてはイランと交戦していた国というイメージは全く感じられませんでした。

聖地ナジャフのイマーム・アリーモスクに通じるバザール通り

そして、今回特に強い印象を受けたのは、バグダッドがとても躍進的で、今後の急発展が期待される街だということです。古代メソポタミア文明の発祥地として、チグリス川が流れる歴史的な街であるとともに、現代的な大都市という地位をも確立しつつあるといえます。特に、至る所に数多くの高層アパートが建設中であり、日本やドバイ、そのほかの先進国と比較しても決して遜色ないショッピングモールの存在には非常に驚かされました。高速には多数の車も走っており、さらに巡礼地とは異なり、女性の服装も色柄物のヒジャブが増えていほか、ヒジャブなしで自由に街を歩く女性も多く見られました。

但し、あくまでも今回イラクの一部のみを見た限りでは、都市構造や建物の造りなどはイランの方が幾分進んでいるのでは、とのイメージを受けました。特に、巡礼地では外国人も多く、豪華なホテルがいくつも存在する一方で、その近隣に構造があまり緻密でない、また低所得者が居住すると思われるスラムのような区域もありました。首都バグダッドにおいても、近代的な商業施設や高層アパートが見られる一方で、その裏路地には貧しい人々が暮らしていると思われる区域もあり、貧富の差が大きいように感じられました。それから、特に巡礼地で夜間でも多くの人々が自由に路上を歩いているものの、歩行者のすぐそばをバイクがすり抜けていく、いささか危険な場面がありました。また、バグダッドでさえも廃棄物の処理がきちんとできておらず、道路の一角にごみが集積されている様子も散見されました。このようなことから、全体としては治安面では比較的安定しているものの、交通ルールや衛生面などにいささか難があり、これらの点は今後さらに多くの外国人訪問客を受け入れる上でも解決すべき課題ではないかと思われます。

しかしながら、イラクの人々は非常に純朴で、外国人巡礼者も多いせいでしょうか、外国人をごく自然に受け入れる気質があるようです。ホテルや市場、巡礼地、乗り合いバスなどどこでも、日本から来たと伝えると、「ぜひイラクという国の素晴らしさを日本の皆様に伝えてほしい」「イラクは安全だからぜひ旅行に来て、私たちの国を見てほしい」と依頼されました。このレポートを通じて、こうしたイラク市民の切実な思いが伝わればと思います。たしかに、貧富の差や交通規則、衛生面での難に加えて、インフラ面にまだ課題はあるものの、イラクは今後の急発展が期待できると思われ、多くの可能性を秘めた国だと思われます。バグダッド市内ショッピングモールの一角

今回の訪問は主に巡礼目的だったため、聖地と首都バクダッドの一部に的を絞ったごく短いものでしたが、色々な思い出がギュッと濃縮され、充実した3日間だったと思います。ですが、イラクには今回は時間の都合で見学できなかった国立博物館を初め、聖塔ジッグラト、北部のクルド人自治区など、まだまだ数多くの見どころがあります。そのため、ぜひ今後時間を作って再びイラクを訪れ、その時は古代文明の醍醐味を皆様にもぜひお伝えするつもりです。

今月まで3回にわたりお届けしてまいりました、テヘラン便り史上初のイラクからの初レポートはいかがでしたでしょうか。このレポートをまとめている最中に、大変残念ではありますが、イスラエルによるイランへの軍事攻撃が勃発し、それに伴いイラン情勢はにわかに緊迫化しています。本来はイランは一般に考えられているような危険なイメージとは違い、平穏で治安も安定しており、外国人も旅行がしやすい親日国でもあります。同じように、イラクも今回訪れてみて、一般的なイメージとは逆に街は市場は活気にあふれ、モスクなど巡礼地には大勢の信者が集まり、厳粛なムードを醸し出しています。

中東情勢が非常に厳しい状況にある現在、今回のような内容はいささか時宜にそぐわないと思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、イランやイラクのいずれの人々も決して戦争を望んでおらず、平和を愛し、また一刻も事態の収束を願っていることには変わりありません。また、諸行無常とも言われるように、多少の早い遅いの違いはあれど、いつまでもこの状態が続くことはありませんし、中東地域がどのような状況にあれど、本レポートでは常に、イランを中心とした西アジア地域の素晴らしさを今後とも最大限にお伝えしていく予定です。

今月は、いささか厳しい状況の中でのイラク旅行記の最終回となりましたが、皆様に少しでもイランの隣国イラクの現実をご理解いただけますよう、また現在の中東情勢の少しでも早い緊張緩和を願いつつ、このレポートを締めくくりたいと思います。

チグリス河畔の伝統的な民家

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ABOUT ME
yamaguchi
IRIBイランイスラム共和国国際日本語通信でニュース翻訳のほか、イランのことわざを週2回紹介しています。20年以上にわたりイラン滞在の経験があり、2016年からはイラン人の夫とともにテヘランから西に150kmほど離れたガズヴィーン州に滞在していました。現在は、イランと日本を行き来しながら、日本の皆様に普通のメディアには出てこないようなイランのホットな情報をお届けしています。