サラダを添えて
乾燥ライムを半分に切り装飾
皆様、新年明けましておめでとうございます。ついに2026年が幕を開けました。読者の皆様は既にお節料理や七草がゆなど、日本独自のお正月料理を堪能されたかと存じます。一方で、つい最近のイランでは皆様もご存じの通り、残念ながら一連の騒乱が発生し日々世界のメディアを賑わせていました。本来ならば、このレポートのタイトル通りイランからホットな情報をお届けしたかったのですが、このような状態ではそれもできず、イランの生の情報を日本の皆様にお届けしたい身として、非常に心苦しく感じております。正直なところ、昨今のイランで発生している騒乱や情報遮断のニュースなどが数多く入ってくる中、また昨年の戦争の影響などもありしばらくイランに渡航できずにいた折、2026年初のレポートのテーマに何を選ぼうかと頭を悩ませていたところです。
しかしながら、政治やニュースに出てくるイランとは打って変わって、イラン人の日々の食卓には様々な家庭料理が、豊かな気候風土に育まれた食材をふんだんに使った様々なメニューにより鮮やかに彩られています。新春初のこのレポートでは、ニュースで報じられる一連の喧騒を一旦離れ、まずは皆様にお節料理の後のイラン料理を味わっていただければと思い、イランの家庭料理の1つをご紹介したいと思います。
イラン料理は、和食や中華料理、イタリアンやフランス料理などとも全く違った独自性を有しています。味付けのベースが異なることは、このレポートでも数回にわたりご説明したかと思います。材料の組み合わせにも、和食とはまた違った独自性が見られ、日本と共通した食材も数多くあるものの、日本ではそれほどお目にかからない羊肉がふんだんに使われています。そこで今回は、これまでにまだご紹介したことのない「セロリと肉の煮込み(ホレシュテ・キャラフス)」を取り上げます。
ちなみに、今回のメニューも米飯と一緒に食べる煮込みのおかずになりますので、以下のレシピとは別途に、イラン式の米飯を準備しておいてください。
<用意するもの>(4人分)
・サラダ油・・・・・・・カレー用スプーン4杯(お好みでバターを少々)
・セロリ(茎の部分、お好みで葉の部分を混ぜてもOK)・・・・600g
・刻んだ生ミント・・・・・・・1カップ(250ml相当分)
・刻んだパセリ・・・・・・・・1.5カップ
・大き目の玉ねぎ・・・・・・・1個
・牛肉(カレー用に切ったもの)または羊肉・・・・500g
・ターメリック・・・・・・・・紅茶用スプーン半分
・コショウ・・・・・・・・・・紅茶用スプーン半分
・塩・・・・・・・・・・・・紅茶用スプーン1杯
・乾燥ライム(干しレモン)・・・・・4個
・水・・・・・・・・・・・・4カップ(1000ml)
・レモン汁・・・・・・・・・適量
<作り方>
1.まず野菜とセロリをよく洗い、刻む。セロリの茎は筋を取り除き、3~4cmの長さに均等に切る。セロリは加熱すると小さくなるので、あまり細かく切りすぎないようにする。お好みで、セロリの葉を刻んで加えてもよい。
2.鍋かフライパンを中火にかけ、大さじ2杯の油をひいてミント、パセリ、セロリを加えて、ミントとパセリが色づくまで炒める。油が少ない場合は、野菜に大さじ1杯の油を追加する。野菜の炒め方が足りないと出来上がりが水っぽくなり、また炒めすぎるとミントの苦味が出てしまうので注意が必要。特にパセリは炒めすぎないよう、早めに火からおろすことをお勧めします。なお、炒める際にバターを少々加えると、また違った風味が楽しめます。
3.野菜を火からおろし、別途脇に置いておく。今度は別の鍋を中火にかけ、大さじ2杯の油を入れて、玉ねぎのみじん切りを少し柔らかくなるまで炒める。玉ねぎが白っぽく柔らかくなったら、ターメリックとコショウを加えて玉ねぎがきつね色になるまで炒め、肉を追加してさらに炒める。
4.肉に少々焦げ目がついたら、塩、1.で炒めたセロリ、ミント、パセリを鍋に加えて2~3分ほど炒める。但し、パセリはここで加えずに、全体をある程度煮込んでから加えてもよいと思います。
5.4.に水を加え、全体を少しかき混ぜ、蓋をして火を弱め、肉に火が通り、とろみがつくまで少なくとも1時間煮込む。
6.乾燥ライムにフォークを刺して穴をあけ、5.に加えて再び煮込み、とろみをつける。酸味を強めたい場合は、火を止める前の最後の10分間にレモン汁を少し加える。
7.全体にとろみがつき油がなじんだら、適切な皿に盛り、ライスを添えてお召し上がりください。
お焦げを添えて
シーラーズ風サラダ(トマト、キュウリ、玉ねぎのサラダ)を添えて
なお、ここでは基本的なレシピの材料のみを取り上げましたが、牛肉や羊肉の代わりに鶏肉を使うことも可能です。また、イランでは七面鳥の肉を使うこともあります。
七面鳥の肉を使った例。バラの粉末やミントの粉末で装飾したヨーグルトを添えて
さらに、全体的にもっとボリュームを加えたい場合、野菜や肉を炒めて水を加えた際に、お好みで赤インゲンを加えることもできます。市販されている缶詰の赤インゲン(レッドキドニー)を使えば、調理時間全体が短くて済みます。但し、缶詰の赤インゲンは既に味付けがされている場合があるので、その際は味が濃すぎないよう、水を加えるなどして調節してください。この他、冒頭の材料の写真にもあるようにお好みでトマトペーストを加えることも可能です。
鶏肉と赤インゲンを使った例
今回ご紹介した「セロリと肉の煮込み」は、筆者の大好物でもあり、イラン滞在中に何度も作ったことがあります。ところで、この料理の歴史を調べてみたところ、正確にいつ頃出現したのかは定かではないそうです。ですが、イランの「調理師協会(Anjoman-e Ashpazan)によれば、このメニューを含め今日知られているイランの煮込み料理の多くは、サーサーン朝時代(西暦230年頃~650年)には既に、その元祖・原型となる料理が出現していたと言われています。イランの伝統料理の1つであるこのメニューは、何世紀にもわたるイランの料理習慣に根ざした歴史を持ち、今から150年ほど前のガージャール朝時代 (1789-1925)のイラン料理本にはこのメニューに関する具体的な記述がみられる、ということです。イランが大きな変革と都市の再発展を遂げた時代に当たるガージャール朝において、イランの料理芸術も大きな発展を遂げましたが、そのような中で「セロリと肉の煮込み」は注目を集め、その優雅な盛り付けとシンプルな食材のバランスの取れた調理法が、この時代の料理本で高く評価されたということです。
また、史料によれば、イランではサーサーン朝時代以前にも、セロリが人々の間で人気の食材として広く食されていたとされています。特に、イスラム教が伝来する前だったサーサーン朝時代、イランでは様々な植物が調理や病気の治療に広く利用され、特にセロリは当時、調理の他に薬草として伝統医学でも用いられていたということです。つまり、セロリはイランで薬効と食用の両方の効能を持つため盛んに栽培され、時代を経て様々な伝統料理に取り入れられるようになったとされています。また、日本語のおかずに相当するペルシャ語の「ホレシュ」という概念は、イランの郷土料理と食文化の交流の長い歴史を反映しており、地元で入手できる様々な食材が使われてきたということです。
ちなみに、イラン料理に関する英語のレシピの多くにおいては、「シチュー」と訳されていますが、筆者が実際に自分で作って試食した結果、日本語では「煮込み」とした方が相応しいかと考えましたため、このレポートではこの種のイラン料理ホレシェを「煮込み」としております点をご理解いただければと思います。
昨年6月の戦争に続き、年末から昨今にかけてのデモ騒乱と、イランは非常に厳しい状態にありますが、これまでにも国民の忍耐強さや豊かな歴史と文化、堅固な国力により数多くの苦難や修羅場を潜り抜けてきました。イランに24年間滞在し、その国民の思想や考え方、文化、風俗習慣に親しんできた身として、昨今の出来事は決して他人事とは思えず、遠く日本からその成り行きを懸念し、固唾をのんで見守る思いです。やっと最近、小康状態に入ったと言われているものの、まだまだ予断を許さないという見方もあるようです。一刻も早くイランが成功裏にこの試練も乗り越え、雨上がりの後の虹のようにイランの国民と政府、そして地域や国際社会にとって好ましい結果となるよう祈願しまして、今月のレポートを締めくくりたいと思います。
